坂東巳之助出演の「新春浅草歌舞伎」を浅草で堪能 【レポート】

2017/01/26

ON COME UP 1月号で取材した坂東巳之助が出演する「新春浅草歌舞伎」が、浅草公会堂で1月の2日から26日まで行われた。

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新春浅草歌舞伎は”若手歌舞伎俳優の登竜門”と呼ばれているのをご存知の方も多いと思うが、若手の役者達が古典歌舞伎から新歌舞伎、舞踊の大役に真摯に取り組み、互いに切磋琢磨をする飛躍の場、そして400年以上続く日本の伝統芸能である歌舞伎を継承する場として、多くの人に親しまれている。

「新春浅草歌舞伎」が毎年行われる会場の浅草公会堂。色鮮やかで賑やかな雰囲気が味わえる

 

浅草は海外からの観光客も多く、いつも賑やかで人の活気に溢れているが、江戸時代から商人や武士達がこの街に集い、人・物・金が集まる繁華街として栄えた町だった。1842年、現在の浅草六丁目一帯は猿若町と名付けられ、町には江戸町奉行所によって歌舞伎興行を許された芝居小屋(歌舞伎劇場)「江戸三座」が建てられ、芸、文化の中心地としてたくさんの人で賑わったそう。戦後、浅草での歌舞伎の舞台はしばらく途絶えたそうだが、1980年のお正月に「初春花形歌舞伎」として再開され、37年を迎えた今年は尾上松也を筆頭に、坂東巳之助、中村壱太郎、中村隼人、中村梅丸と、若手花形役者が揃い、熱気溢れる歌舞伎を披露した。

私達が観た演目は第一部の「傾城反魂香」と「吉野山」。開幕前に、中村隼人が新年の挨拶で登場。来場者へ感謝の言葉を述べ、第一部での隼人の出番は約10分だけなので、是非第二部も観て欲しいと笑いを誘うなどしていた。

幕が開き、「傾城反魂香」がスタート。「傾城反魂香」は近松門左衛門作の上中下三巻の時代物で、今回上演されたのは上の巻の「土佐将監閑居の場」。巳之助は吃音で喋るのが不自由な、売れない絵師の浮世又平を演じた。又平は師匠の土佐将監から土佐の苗字を与えられたいと申し出るも、十分な功績がないことから却下されてしまう。話したいのに言葉が出ないもどかしさを表情や体の動きでとても上手に表現し、壱太郎が演じた又平を支える献身的で饒舌な女房・おとくとの相性もぴったりだった。最後は、落胆する又平が描いた自画像が将監に認められ、念願だった土佐の苗字を将監から与えられるのだが、その頃にはすらすらと話せるようになり、将監に披露した舞と謡もとても素晴らしかった。売れない絵描きが自らの功績を顧みずに肩書きを欲しがるところや、売れないアーティストを支える献身的な妻、そして死ぬ気で渾身込めて描いた絵が起こす奇跡など、十分現代にも通じるお話だろう。

休憩を挟んだ後の演目「吉野山」は二代目竹田出雲・三好松洛・並木千柳の合作で、「義経千本桜」の四段目。幕が開くとそこには美しく満開に咲いた桜の吉野山の風景が。感動したのは私だけではないらしく、観客の「おぉ〜」という感嘆する声が聞こえてきた。壱太郎が演じる静御前が源義経を追い求め、吉野山にやってくる。道中を一緒にする佐藤忠信の姿が見つからず、鼓を叩くと松也さん演じる忠信が現れるのだが、実はこの忠信は狐が化けた姿という設定。二人による美しい踊りが披露された後、巳之助演じる早見藤太が花四天と呼ばれる捕手達と現れ、静御前を捕らえようとするも、忠信の勇ましい立廻りに逃げて行く。「傾城反魂香」で演じた浮世又平とは打って変わって明るい衣装、そして楽しげな役柄も見ていて大いに楽しむことが出来た。

会場の浅草公会堂新歌舞伎座と比べてそこまで大きい会場ではないので、役者の表情がよく見えて、表現が伝わりやすく、衣装もよく見えるのでファッション好きな方もインスパイアされることが多いかと思う。私個人的には「吉野山」の佐藤忠信と早見藤太の衣装の色遣いや柄に、現代のストリートファッションの要素がある様に思えて、観察しながら刺激を大いに受けた。

帰り際、会場内に設置されていたパネルと一緒に撮影。寒い一日だったが、観劇して感化され、心身共に温まった。若手歌舞伎役者の方々にさらなる期待を抱いて、また来年「新春浅草歌舞伎」に来ようと思う。

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代表兼フォトグラファーの田中(左)とライターの高井(右)

 

On Come Up 1月号 坂東巳之助

「スーパー歌舞伎 II 『ワンピース』」での好演や、新春浅草歌舞伎への出演など活躍中の坂東巳之助の人間像に迫った

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Text & Photo: Atsuko Tanaka