いとうせいこうさんの魅力を体感した2日間!「いとうせいこうフェス~デビューアルバム『建設的』30周年祝賀会」に行ってきた【HIGHFLEYRSの現場レポVol.7】

2016/10/04

“いとうせいこう祭りだよ。デビューしてから30年。あれから色々ありました。いとうせいこうフェス!”

転換の度に流れていたジングルズ(ワタナベイビー&永友聖也)さんの曲が未だに頭の中をぐるぐる廻ったまま、フェスの余韻覚めやらぬ毎日を過ごしております。

さて、HIGHFLYERSの2016年7月号でインタビューさせて頂いたいとうせいこうさんが、TINNIE PUNXと共に86年にリリースしたヤン富田氏プロデュースのアルバム「建設的」発売から30周年を迎えたことを記念した「いとうせいこうフェス~デビューアルバム『建設的』30周年祝賀会」を開催。9月30日と10月1日の二日間、東京体育館で盛大に行われました。

_lsb5162

「いとうせいこう」という共通語でしか繋がり得ない、各ジャンルの第一線で活躍し続ける50組に及ぶアーティスト達が一同に集結し、いとうせいこう愛に溢れまくった奇跡のような2日間。東京体育館という1万人を収容出来る会場には、歴代のいとうせいこうファンが多く駆けつけていました。合計10時間にも及んだフェスは、小説家、クリエイター、俳優、作詞家、ラッパー、詩人、芸人、司会者、ミュージシャン、ベランダーのいとうさんに、さらにダンサーという肩書きまでプラスされたスペシャルな夜でした!

img_0163

左上:会場となった東京体育館前に設置されたフェスの看板。右上:会場で販売されていた「建設的」と「建設的」リリース30周年を記念して作成された「再建設的」のアルバム。右中:DUBFORCEのパフォーマンス中にライブペインティングしたUsugrowさんの作品。「再建設的」ジャケットタイトルの文字も手掛けています。右下:2日間でのべ2万人近くの観衆を集めました。グッズ売り場ではアーティスト自ら売り子になっているプレミアムな光景も見られました。左下:1日目のオープニングに「いとうせい高校」の応援団員として太鼓を叩いていたみうらじゅんさんが描いたイラスト。2日目のトークは「SINCE」がテーマ。「SINCE 1986」を会場で見つけ、ポケモンgoならぬSINCE goをゲットしました。

豪華出演者は以下のとおり(出演順&敬称略)。

9月30日

客入れDJ田中知之/前説ダイノジ/東京パフォーマンスドール/みうらじゅん、いとうせいこう、宇多丸(旗持ち)によるいとうせい高校校歌/いとうせいこうヒストリー(映像)by DOTAMA/レキシ「狩りから稲作へ」ほか、車のCMで流れている歌など/レキシxエレキシ/DJやついいちろう+いつか(Charisma.com)/バカリズム“いとうせいこうが正解”(映像)/鬼ヶ島コント「即身仏」/口ロロ/中村ゆうじ「有志の宝くじ」/RHYMESTER「噂だけの世紀末」ほか/バカリズム司会の朝まで生どっち“いとうせいこうとイトーヨーカドー、尊敬出来ないのはどっち?”パネラーは真心ブラザーズ、ホフデュラン、BOSE、レキシ、やついいちろう、宇多丸/有頂天/Aマッソ「想い出」/ホフデュラン(かせきさいだぁ&ハグストーン)/真心ブラザーズ「サマーヌード」「大丈夫」「どか〜ん」/DUBFORCE feat Usugrow〜小泉今日子「La La La…」/DJ BAKU&いとうせいこう「業界こんなもんだラップ」「東京ブロンクス」/客出しDJ須永辰緒

10月1日

客入れDJ須永辰緒/芥川賞作家奥光泉さんの祝辞&フルート演奏/やや「夜霧のハウスマヌカン」/みうらじゅん+いとうせいこう“SINCE”/中津川ジャンボリー君(竹中直人)/Sandii+せいこうず噂のパラダイス/竹中直人&Sandii「恋のマラカニアン」/バカリズム”いとうせいこうが正解“(映像)/サイプレス上野とロベルト吉野/KICK THE CAN CREW「ヘルシーモーニング」/東葛スポーツ「東洋の魔女」/かせきさいだぁ&ハグストーンズ/DUMFLOWER/ゴンチチ「渚のアンラッキーボーイ」/きたろうコント「ピアノの粉末」/LASTORDERZ〜大竹まこと「俺の背中に火をつけろ!!」/上田晋也司会の朝まで生どっち“いとうせいこうとイトーヨーカドー、尊敬出来ないのはどっち?”、パネラーは久本雅美、勝俣州和、蛭子能収、スチャダラパー、MEGUMI/テニスコートコント「昔かたぎ」/ナカゴー「小倉フェス」 /ユースケサンタマリア+犬山犬子、ケラリーノ・サンドロビッチ、いとうせいこう「JOE TALKS」/コント「死体とプロポーズ」細野晴臣(首つり自殺したばかりの死体役)+いとうせいこう、MEGUMI/細野晴臣「ろっかばいまいべいびい」スチャダラパー「太陽に吠えろ!スチャダラパーのテーマ」「今夜はブギーバック」など/スチャダラパー+ロボ宙「マネー」/藤原ヒロシ+いとうせいこう「SUBLIMINAL CALM」「かすかなしるし」/高橋幸宏「なれた手つきでちゃんづけで」「花いちもんめ」(ギター鈴木茂、ーボード岡田徹、ベース沖山優司/岡村靖幸+東京パフォーマンスドール+いとうせいこう「ヘルシーモーニング」/岡村靖幸+いとうせいこう「サマータイム」/水道橋博士/ヤン富田+高木完+いとうせいこう「Forever Young」「東京ブロンクス」「だいじょうぶ」(高橋誠一&松本光良)/客出しDJ田中知之

言わずもがな、超超超超超豪華。たぶん、R35指定。

フェス中は、コントに芝居にセッションに出ずっぱりなうえ、東京パフォーマンスドールとダンスしたり、ゴンチチの曲繋ぎのトークに呼ばれたり、主役なのにかなりヘビーに動き回っている状態のいとうさん。それなのに、1日目より2日目の方がさらに元気になってパワーアップしているように見えました。

_lsi7368

「ただただ凄かった」としか言いようがないフェスでしたが、いとうさんがインタビュー中にお話されていた音楽と自分の関わりについてがそのまま表現されていたような気がします。

「(音楽のことは)根源的にどうしようもなく好きなんじゃないのかな。(中略)ご飯がないと生きていけないように、基本音楽がないとだめなんです。ずっと楽器ができないとい うジレンマがあったんだけど、Dub Master X須永辰緒高木完と組んで、彼らの音楽をバックに僕が小説を読んだら無限の可能性を感じて、ポエトリーリーディングっていうのは演説で、つまり音楽と スピーチと文学って境がないってことが分かった。今僕はやっと音楽と言葉で一番やりたかったことがやれるというところに行き着いたんですよ。人間て生きていると不思議なもので、やり続けてると突破口を自分でも見つけるし、人も持ってくる」

このお言葉どおり、1日目に魅せてくださったDUBFORCEとのセッションは、鳥肌立つほどに魂が伝わってきました。超カッコ良くて、超面白くて、超優しい、いとうさんの魅力が直球で伝わってきた2日間でした。

_lsa3582

フェスのトーク中にも話されていましたが、「次にバトンを渡す」とは、いとうさんが度々言われている言葉です。以前のインタビューで、「もしいとうせいこうさんになりたい人がいたらなんとアドバイスしますか?」との質問にはこう答えて下さいました。

「Going Your Own Way. 最終的に君の作品が僕に届く」って言うしかない。僕の周りには、あいつのお笑いがいいなとか、この人の作品素晴らしいなとか、次はどういう映画を撮るんだ ろうとか、どういうアルバムを創るんだろうとか思う人がたくさんいるんですよ。彼らは僕より年下だし、僕がバトンを渡していくんだもん。そういう気持ちですよね」

今回最年少の出演アーティスト、サイプレス上野とロベルト吉野さんは、いとうさんに影響を受けて12年前に横浜で活動していた頃、「建設的」というタイトルでイベントを展開し、建設的のイラストをパクったTシャツを作って売りまくっていたそうです。その後、いとうさんと対談する機会があった時にそのTシャツを献上すると、怒るどころか「すげーじゃん!」と褒めてもらったそう。2日目にラップアーティストのトップバッターとして呼ばれた彼らは、憧れだったいとうさんと同じ舞台に立ち、8000人余りの観客を総立ちにさせるほどの素晴らしいパフォーマンスを披露していました。

こうしていとうさんの撒いた種が有機的に繋がって広がって、30周年でひとつ大きな花を咲かせましたが、これからもまだまだ続きがありそうです。

また、インタビューで幼い頃のことを尋ねた際、

「小学3年生までずっと担任だった角田先生というおばあさんの先生が凄く僕をかってくれていて、僕の書いた作文を教室によく貼り出してくれていたのは憶えています。作文を書くと人が褒めてくれるという快感原則みたいなものは、角田先生によってその時すでに植え付けられちゃったんですよね。」

とお話しされていましたが、フェス中、舞台転換の時に大型スクリーンに流れていたいとうさんの幼少時代の絵や作文の中に、小学校3年生の時に書いた詩がありました。

「体育」 3年4組伊藤正幸

体育の時間になった。

体育は

大すきだ

じょうずでは、なくても

大すきだ

鉄ぼうは

ひくい所でやる

はばとびは きめた

いちまでとべない

リレーは、おそい

みんなに、

「ガンバレ。」

といわれる。

運動は、だめでも

やっぱり 体育は

すきだ。

いとうせいこうさんとは、一瞬で宇宙にもマントルにも竜宮城にも行けるほどの時空を超えた突抜け感を秘めた人。そしてそこに後輩が続く道をしっかり開いてくれるけど、「着きました〜!」って報告する前に御自身はもう100歩くらい先に進んでいて、人のために道を作ったことすら忘れて、今目の前にあることに夢中になっている人。いつまでたっても追いつく事のできない人。日本の中心にいながら、世界の視点で物事が見られて、それをいろんな形で伝えられる人。人が喜んでいることで自分が喜ぶ、そのために命を掛けることができる超利他的な人…。もしかしたらもうすでに人間じゃないのかもしれません。

水道橋博士によれば、次のいとうせいこうフェスは30年後の2046年らしい。その時、東京体育館はいとうせいこうの墓と化して、フェスの出演者はほぼほぼ全員あの世に逝ってしまっているけれど、キョンキョンだけは不死身で健在だとのこと。

大拍手と大歓声に包まれて、最後にいとうさんが唄ったのは小唄でした。

“梅一輪 一輪づつに鶯の 歌い初め候 春の景色も整うままに 実は逢いたくなったのさ”

2046年にまた戻ってこられるように、それまで楽しんで生きようと思います。素晴らしい2日間、ありがとうございました!

_nsc7979

尚、 BSスカパー!では12月にいとうせいこうフェスのダイジェスト版を、スペースシャワーTVでは2017年1月に完全版をオンエアするそうです。今回見逃してしまった方も、もう一度この感動に浸りたい方も、どうかお見逃しなく!

 

HIGHFYERS 7月号、いとうせいこうさんの記事は以下のリンクからお読み下さい。

 

 

 

 

 

 

文章:Kaya Takatsuna