「アートフェア東京2019」が開催!多種多様なアートに触れ、“Art Life”を体感しよう【イベントレポート】
2019/03/08
今年で14回目の開催となる、国内最大級の国際的なアートフェア「アートフェア東京2019」が、昨日東京国際フォーラムEにてスタートした。アートフェア東京では、国内外の厳選された160ものギャラリーが、古美術、工芸から現代アートまで幅広いジャンルの作品を展示、販売している。
アートフェア東京が掲げる今年のテーマは「Art Life」。効率や経済性を追求する中、現代社会に生きる人々は自然回帰によって生活の改善を目指したり、積極的にスローな生き方を考え直すなど、各々に合ったライフスタイルを実践してきたが、人々が本当に必要としていることは、多種多様な他者の表現に自身の感性を磨き、対話することで自己を見つめ直すことなのではないかと問いかけている。そして、価値観が多様化し、産業や文化が複雑に交差している現在、アートは人生に影響を与え、未来を指し示す役割を担い得ると提言する。
東京国際フォーラムに設置された会場は、下の階にあるメイン会場の「Galleries(ギャラリーズ)」、上のロビー階の「Crossing(クロッシング)」と「Projects(プロジェクツ)」、「World Art Tokyo」、「Future Artists Tokyo」に分けられている。
まず、Galleriesでは、国内外で活躍するコマーシャルギャラリーや美術商が出展していて、現代、古美術共に関心を持つ同士が新たな関係を生み出せるようにと、時代やジャンルの区分けをせずセクションが構成されている。現代アートでは、「PERROTIN」、「SCAI THE BATHHOUSE」、「シュウゴアーツ」などのギャラリーが、世界的に活躍する作家の作品を出展。古美術は、今回初出展となる西洋骨董陶磁器を専門に扱う「ロムドシン」からマイセンの「マンダリン・ダック」が、「オリエント考古美術・太陽」からは紀元前1世紀のローマのブロンズなどが出品されており、これまで以上に時代や地域、アートのジャンルを超えた美術品が楽しめるようになっている。
上のロビー階は入場無料となっていて、今年から新設されたCrossingのコーナーでは、日本のアートシーンを語る上で欠かせないアーティストによる、多様な価値観で表現されたアートを観ることができる。ON COME UP2月号で紹介しているニューヨークで活躍するMeguru Yamaguchiの作品が、入り口付近「西武・そごう」にあるので、是非チェックして欲しい。他には、金沢や富山、香川などから各地の伝統的な技法を生かした作品が出品されている。金沢から参加した「金沢卯辰山工芸工房」のブースでは、陶芸、漆芸、染、金工、ガラスと5つの素材を使った、10名の作家の作品が展示されており、花びらをモチーフに生物の数学的要素を契機として造形物を作る織田隼生(おだ としき)や、陶磁器の素材と技法を用いた、一見編み物のような釣光穂(つり みつほ)の作品などがある。どの作品も表現の仕方がユニークで面白かった。
そして、Projectsでは、これからのアートシーンで注目すべきギャラリーが各ブースにつき一人のアーティストの個展形式でプロジェクトを発表している。集まったのは、現代性や身体性などの特色を強く感じることのできる作品や、テラコッタ、レーザーカットステンシルやビーズワックスなどのユニークな素材を使用した作品の数々。その中で、折り鶴を使った作品を手掛けるアーティスト・小野川直樹に話を聞くと、東北の震災をきっかけに、シリーズ「鶴の木」の制作をスタートしたことを教えてくれた。昔から折り紙が得意だったそうだが、作品に使われている折り紙は約1cm〜2cmという極小サイズ。そして一つの折り鶴を作る時間はなんと約1分。手のひらで器用に折るのを見せてくれた。観る人それぞれの思いで、作品を楽しんで欲しいと言う。
さらに、World Art Tokyoでは、昨年に引き続き、多様な文化的背景や世界情勢の中で活躍している各国アーティストに表現の場を提供することを目的として、各国駐日大使推薦により選ばれた31名のアーティストの作品が展示されている。キュレーションを手がけたのは、東京藝大大学院国際芸術創造研究家アートプロデュース専攻の学生2名。今回のテーマは「World Art Tokyo: Vibrant Planet-If the world is our vibration」で、31カ国のアーティストの作品から、「自国の伝統(残響)と異文化の影響(反響)の共存」を、「Vibration(振動)」として感じ、複雑に絡み合う世界の中で、自分自身の歴史、地理、アイデンティティをもう一度問い直すきっかけを生み出すことを意図しているそうだ。
最後に、全国の芸術系大学と連携し、選抜学生チームが作品制作、キュレーションから展示までを行う「Future Artists Tokyo」が、昨年に引き続き展開されている。昨年は関東圏の6大学から12名のアーティストが参加していたが、良い反響を得られたとのことで今年は規模が3倍になり、全国の19もの大学から38名の学生の作品が選ばれ、展示されていた。彼らが今年掲げたテーマは「EЯLection of Anonymous(イレクション・オブ・アノニマス)」。近年のSNSの発達で顔の見えない他者の言葉に過敏に反応するあまり、多くの人が疲弊し、自身すらも匿名のベールで多い始めるようになったが、テーマには、匿名の集団(Anonymous)による選挙(Election)、そして「感覚的な興奮状態」を意味している。キュレーターを務めたうちの一人、多摩美術大学 美術学部芸術学科の内藤和音は、今年は時代の傾向なのかはわからないが、結果として集まってきた作品に大きいものが多かったと教えてくれた。
そう言われたからというわけではないが、目に留まった作品はどれも大きく、それ作っているのは偶然にも皆小柄な女性達だった。一人は、岩をモチーフに鉄を溶接して制作する女子美大の竹内七月姫(たけうち なつき)。今回展示している作品「UNNAMED(3)」は、修了制作で作った、今までの作品で一番大きなものだそう(高さ約2.5メートル x 幅約1.5メートル)。自身の懐かしさの象徴である岩を金属に置き換えていく中で、山で遊んだ幼少期を回想し、整理する作業をしているそうだ。
もう一人は、秋田県公立美術大学から参加した五月女かおる。金網で形作ったものにウレタン樹脂を何度も流して固めて出来上がった犬の作品「曖昧な犬- the dog series」は、遠くから見てもすぐ目に入る大きさ(高さは3.2メートル)でなんとも言えない存在感を放っている。金網や木、自分の身近にあるものなど、いろんな素材でものを作るのが好きで、たまたま模型として作った出来が良かったため、シリーズ化して作り続けていると言う。
そして最後の一人は広島市立大学の松本千里。染織技術の絞り染め技法を使い、芽生えや成長を表現した作品「息吹きの園」を作っている。今回は展示会場が人の出入りの多い駅ビルなので、発信や吸収をする場として、インベーダーのように手足を伸ばすような形を作ったそうだ。昔のままでしか残っていない絞り染め技法を、今の時代に合わせて新しい表現方法を模索した結果、この作品のスタイルにたどり着いたと語ってくれた。
「アートフェア東京 2019」は3月10日まで行われているが、会期中は、東京のアートシーンやマーケットの“今”を伝える企画展示、関連するシンポジウムやパーティーが都内各所で行われている。是非会場に足を運んで、多くのアート作品を目にしてみてはいかがだろうか。アートフェア東京2019が、イベント主催がこのイベントに込めた願いのごとく、“それぞれの出会いと対話の場、より豊かな人生を送るきっかけ”になるかもしれない。
Text & Photo: Atsuko Tanaka
開催日程:2019年3月7日(木)〜3月10日(日)(最終入場は各日終了30分前)
会場:東京国際フォーラム ホールE(東京都千代田区丸の内3-5-1)
料金:前売1DAYパスポート4,000円 当日1DAYパスポート5,000円
※小学生以下は大人同伴の場合無料