伝説のパンクバンドの実話をモチーフにした新作映画「GOLDFISH」がまもなく公開。ギタリスト藤沼伸一の監督デビュー作に豪華キャストが集結【永瀬正敏インタビュー】

2023/03/15

話題の新作映画「GOLDFISH」が3月31日より全国で順次公開される。これは、1980年伝説のパンクロックバンド“亜無亜危異(アナーキー)”のギタリストとして活躍、独自のギタースタイルが評価され、現在までに100枚以上のレコーディングアルバムに参加してきた藤沼伸一の映画監督デビュー作。監督自身の経験すべてをモチーフにしたことでも話題の本作は、 ロッカーだけでなく、多くのミュージシャンやアーティストに襲いかかる「死の波」を泳ぐ金魚のような者たちの苦悩を描いていると同時に、観る者に自分自身と向き合うことの大切さ、そして希望を見出してくれる物語として仕上がっている。

主人公・イチは、「あん」(15)、「パターソン」(16)、「光」(17)でカンヌ国際映画祭に 3 年連続で公式選出された国際的映画俳優の永瀬正敏が演じる。また、ハルを北村有起哉、アニマルを渋川清彦、バンドメンバーに怒髪天の増子直純や松林慎司が加わり、死神のような男(バックドアマン)を町田康、そしてハルトの彼女を有森也実が演じ、作品をカラフルに豪華に彩っている。音楽は藤沼監督自ら手がけ、 脚本には「宮本から君へ」「MOTHER マザー」などの港岳彦が参加した。

そこでHIGHFLYERSは、主演の永瀬正敏さんにこの作品についてのお話を伺うとともに、これまで出演された映画作品の思い出や、出逢った監督のこと、これから実現したいこと、そして、チャンスと成功について伺った。

俳優は、嘘の世界を真剣に生きるしかない。これからは、年齢を重ねた良さや、若い感性の鋭さを認め合いながら、みんなでスクラムを組んで良い作品を作っていきたい

ー永瀬さんは、ご自身で作品の出演を決めると伺いましたが、決め手になるものはあるんですか?

もちろん一度事務所のフィルターは通りますし、ケースバイケースですけど、色々考えてみると途中下車しないで台本、脚本を読めた作品に出演させてもらうことが多いですかね。読んでる途中でちょっと飲み物を取ってこようかなとか、携帯がなったとか、そっちに気を取られずに一気に読めたものですね。

―今回「GOLDFISH」に出演を決めた、一番大きな決め手となったのは何でしたか?

まず一番は藤沼監督です。“亜無亜危異(アナーキー)”は、僕が中学生くらいの時にデビューしたバンドで、もちろん当時から知ってましたし、全てが実話ではないにしろ、そのバンドをモチーフにした作品であったから。どんな本を書かれたんだろうなって興味があって。

―オンタイムでアナーキーのことはご存知だったのですね。

ずっとパンクが好きだったし、ぺったんこにした学生鞄に”亜無亜危異”っていうワッペンを貼っていた世代なんで。僕は貼っていなかったんですけど、そのワッペンは金と銀があって、誰がどっち貼ってるみたいな先輩と同級生がいっぱいいましたね。

―完成した作品を最初に観た時の感想を教えてください。

自分の出た作品は客観的に見られないんですが、監督の思いはちゃんと込められていると思いました。見てくださる方に刺さる内容になっているんではないかなって思います。

―印象に残るシーンはありますか?

いっぱいあります。あんまり言うとネタバレになっちゃうけど、ハルの家に喪服を着たメンバーが集まっているシーンで、イチが金魚を見ながら言った言葉から大人げない喧嘩になって、メンバーに「あいつ(ハル)のこと言ってんのか」って怒られるんだけど、このセリフの中には監督の別の深い思いが込められていたんじゃないかとも思ったし、みんなに言われたことをイチが否定しないのも監督らしい感じがしましたね。そういうところがいっぱい散りばめられてると思います。

ー永瀬さんご自身の人生に重ね合わせたり、共感したりする部分はありましたか?

ちょっと年代は違いますけど、僕がまだデビューしたての頃、映画がやりたくてもできない時期が5、6年続いたんです。それで、その時一番仲良かった子がバンドマンで、ロカビリアンだったんですけど、やっとワンマンでライブハウスツアーが決まり、全部1日でソールドアウトして、これからだっていう時に亡くなって。貧乏話みたいになっちゃうのは嫌だけど、当時二人ともお金もなくて食えないながらに楽しく過ごしていたのに、彼が急にプツンといなくなってしまった。僕の中ではその空白が未だに何十年も続いてるんです。墓参りにもずっと行けなくて、13回忌の時にやっと行けたくらい。それがちょっと監督の思いと繋がるんですかね。ちょっと種類は違うけど、昨日までここにいた仲間を失う空虚感を持ちつつ前に進んで行かなきゃいけないっていう。その後も本当に不思議なことが色々あったりして、彼が見守ってくれてるんだろうなと思いますし、マリさん(アナーキーのギタリスト、逸見泰成氏)も見守ってくれるといいですね。

―この作品をどういう方に届けたいですか?

アナーキーのファンの方はもちろん、アナーキーを知らなくても、音楽ファンでなくとも、何かチクっとしたり、わかってもらえるところがあるんではないかなと思っていて。「ボヘミアン・ラプソディ」的な全て史実な音楽映画ではないのですが、僕ら世代から若い方、幅広い年齢層の方に観ていただきたいですね。

ーでは、永瀬さんが俳優を長年されていて、映画業界が大きく変化したなと感じることがあれば教えてください。

いろんな意味で進化してると思います。僕がデビューした時とは環境はまるっきり違いますね。当時はフィルムしかなかったんで、準備もお金もすごくかかるし、映画が撮りたくても撮れない監督やスタッフの人は山ほどいて。今はスマホで映画が撮れる時代で、下手したら小学生でも監督になれる時代になってきた。助監督からスタートする人にももちろんチャンスは与えられるべきだと思いますけど、今回監督もミュージシャンだったりするし、そうやって業界が活性化することはいいことなので、色んな業種の人に挑戦して頂いたらいいと思います。

ーご自身が俳優を続ける上で大切にしていることは何かありますか?

嘘の世界を真剣に生きるしかない、いつもそう思ってますね。今回は半分ドキュメンタリー的な要素もありますけど、架空の物語では作り事を演じるわけで、そこに演者がもう一個嘘を乗っけてしまうと観客に見抜かれちゃうと思うんで。

―それは嘘の世界を自分の中でリアルにしていく作業なんですか?

難しいですけど、結局演じてはいるけど、演じるんじゃなく、できればその物語の中を生きたいですよね。そうなれるといいなって、もう40年ぐらいやってます。なかなか上手くいかないけど、そこに近づこうとする努力はしたいっていつも思いますね。

―努力をするというのは具体的にはどういうことをするんですか?

ごく普通のことですけど、まず本を理解して役を誰よりも理解したいとはデビュー作から思ってます。デビュー作(「ションベン・ライダー」)は、相米慎二監督っていうとんでもない監督で(笑)、もう天国にいっちゃったけど、全く教えてくれない人で。演技の勉強をしたことがない宮崎の片田舎の普通のお兄ちゃんが、学芸会もやったことないのに映画の世界になぜか飛び込んでしまって、それまでレッスンとかも受けたことなかったんで、何か教えてくれよってずっと思ってたんですよね。でも「お前がやってるんだからお前が一番知ってるはずだろう、自分で考えろ」って言う人で。それがずっと癖みたいについてるんですかね。

―大変ですね。ずっと考え続けるってことですよね。

そうですね、でも今振り返ると、当時の僕はド素人だし若造だし、お芝居なんかできるわけがないですよね。そうするとさっき言ったように芝居になっちゃうっていうか、どんどん盛ってしまって、嘘に嘘を重ねたことになるんです。だからリハーサルだけで平気で一日二日かかることもありました。でも、そういうのを全部忘れて、その呪縛から解けるまで監督が待ってくれてたんですね。今だからわかるけど、そういう監督はあんまりいないです。「いつになったら回すんだ、いくらかかってると思ってんだ」って製作側の偉い人にいろいろ怒られるでしょうから。相米監督は口は悪いし態度も悪いけど(笑)、よく言う“俳優ファースト”を実践してたので、それを経験した役者はみんな相米さんが大好きなんですよね。

ーそうでしたか。今回の役を演じた時に、自分の中で新たな発見をした瞬間とかってありましたか?

どうでしょう、あるようなないような。でも芝居しながらそれに気づいてたら、僕がやりたいこととはちょっと違うかもしれないですね。でもある程度年を取ると、俯瞰で見ることも大事だとは思います。若い頃は自分のことで精一杯だしがむしゃらで、でも投げてばかりもいられないから受ける側にもなって。そっちのすごさを身をもって知ってしまうと、どうしてもそっちに行きたくなる。なので俯瞰で見るのも大事でしょうけど、その物語の中に生きていたいって思うと、今回の作品で言うとアニマルやハルに対する愛しさや、娘に対しての後ろめたさに繋がっていくんですよね。

―長年俳優をされていて、年を重ねるにつれて気づいたことなどはありますか?

色々役割も変わっていくし、その年代年代での素晴らしさがあると信じてます。っていうか、信じてないとやっていけないのかな、この仕事(笑)。年を取ったなりの良さがあって、先輩方を見るとその素晴らしさがすごいわかるし、すげーな、やっぱり敵わないなって思う人達がいっぱいいる。逆に若い子達の感性の鋭さとか、勢いもスピード感もいいねと思う。昔は単体で攻めようと思っていたけど、今はみんなでスクラムを組んでぶち当たりたいと思いますね。

―役割も考え方も変わっていくんですね。

ただ、10代20代の頃よりは、死生観というか、タナトス的なものは確実に近づいてはいますよね。僕もお袋をはじめ先輩たち、年下で亡くなった人もいて。僕自身俳優をやって今年でちょうど40年ですけど、これからその倍はもうできないとするとそのリミットは徐々に徐々に近づいていて、その足音みたいなのは感じてはいます。あと何本映画に出られるかもわからないし、俳優なんてもういらないって言われたらそれで終わりですし。でもだったら余計に楽しんで、攻めていった方がいいんじゃないかなって思ったりもしますね。あとは達観することですかね(笑)。

ーところで、俳優とは別に、写真も20年以上撮られていますが、写真家と俳優は永瀬さんにとってどのような関係性ですか?

元々写真が好きだったんですけど、僕の爺ちゃんが写真館をやっていて、昔で言う「写真師」だったんです。でも大戦が起きて、世の中の大きな流れの中で、家族を食わせるために写真を辞めざるを得なかったというか、カメラを持ち逃げされたんですね。なので僕が写真をやることは、孫としてのリベンジ感もどこかあるんですよ。

©︎永瀬正敏 左から門脇麦、浜辺美波、佐久間由衣 https://www.instagram.com/masatoshi_nagase_official/

—リベンジですか!

彼の残した研究ノートが残っていてたまに見返すんですけど、 写真館なんでレタッチが命なんですよね。京都のカメラマンさんのところに丁稚奉公に行ったらしくて、ライティングはこんな感じで、後処理は欧米の人はカギ型で影をつけていくけど、日本人だったら丸みをつけていく方が効果的だとか自分で研究して。僕は彼とは違う俳優の道に進んだけど、今はその両方のクリエイティビティが、自転車とかバイクの両輪みたいに存在していて、そこのサドルのところに家の飼い猫がいる感じですかね(笑)。それで精神のバランスが取れているというか。

―(笑)。でもお爺様もきっと喜んでるんじゃないですか。

どうですかね、お爺ちゃんの思い出はいっぱいあって、大好きなお爺ちゃんですけど、写真については話を1回もしてないのでちょっと教えて欲しいですね。「シノゴ(大判カメラ)ってこれでいいわけ?」って聞いたら、「お前にはまだ早い」とか言われそうな気がしますけど(笑)。「この写真どう?」とか「ポートレートってどう?今デジタルなんだぜ」って話が出来たら楽しい。幽霊でもいいから会いたいですね。

ーそれでは、永瀬さんにとってチャンスとは?

運命だと思いますね。自分に置き換えるとそうです。あとはそれに気付けるかどうか。逃してることもいっぱいあると思いますけど、巡り合わせというか、運命だと思います。

―今思い返してすぐに浮かぶ、掴んだ大きなチャンスはありますか?

さっきちょっと話をしました僕が大好きだったロカビリアンの親友が亡くなった年に、「ミステリー・トレイン」のオーディションに受かったことです。それまで、彼からエルヴィスのことやロカビリーっていう音楽やそのルーツだったりを聞いていたんですけど、撮影場所がアメリカのメンフィスという街で、彼に聞いていた内容が目の前にそのまんまあった。あれはチャンスを掴んだというよりは、運命っていうか、彼が導いてくれたと思いましたね。ジム・ジャームッシュっていう監督の作品が好きだって話をして、「あんな映画、日本人じゃ難しいよね、でも出てみたいな」とか言いながら、新作が楽しみだとかいう話をしていたんで、それは非常に驚きました。

—そんな偶然があったのですか。

オーディションの時はどういう役かもどんな内容かも知らなくて、台本が送られてきて知って、それで彼がいたバンドの子達が資料をいっぱい用意してくれて。僕がスーツケースを開けるシーンがあるんですけど、その中にある雑誌はみんな彼らが集めてくれたんですね。これは彼が僕にチャンスをくれたんだと思いました。

ーそれでは、永瀬さんにとって成功とはなんですか?

何をもって成功とするかですよね。難しいけど、その価値観は一人ずつ違うのかもしれないし、それでいい気もします。死後も作品は残っていくものだから、僕がいなくなっても下のジェネレーションの子がふと僕が出ていた作品を見て、なんか面白いことやってた人達が昔いたんだなって、僕が大先輩の作品を観てそう感じるように思ってくれるといいなと思うし、そこで初めて役者道が完結するのかなって。

ーまだ実現していないことがあれば教えてください。

いっぱいありすぎますけど、僕には猫しかいないんで、今でも子供はちょっと欲しいです。若い頃から欲しいと思っていて、(樹木)希林さんに「子供作りなさい、お芝居も変わるし、子育てっていうのは素晴らしいわよ」って教えていただいてたし、周りのみんなは子供がいるから。あと、僕は弟が先に亡くなっていて僕しかいなくて、親父は高齢でお袋は亡くなったし、そうすると僕で途絶えてしまうっていうことも考えるようになったのかな。猫が僕より長生きしてくれればそれでもいいけれど(笑)。あとはみんなでスクラムを組んで作品を作ることをもっともっとやっていきたいですね、監督はやらないですけど。

—監督はご興味ないんですか?

有り難いことにたくさんの方にやらないか?とはお誘いを受けるんですが、監督をやるより面白い作品に出会ったら自分で出たくなるから、出ながら撮るというのは僕にはちょっと無理。オダギリ(ジョー)君みたいに出演しながら素晴らしい作品を作ることはできないです。自分にだけ非常に甘くなっちゃうのが目に見えてるんですね(笑)。それに監督は毎日朝早く行かないといけないしね(笑)。 師匠の相米さんの役者を引き出す上手さを知ってしまうと、僕は自信がないです。だから僕なりのやり方で、世代関係なく一緒に走れるようなものを作りたいと思います。

 

Interview & Text: Kaya Takatsuna / Photo: Atsuko Tanaka

ヘアメイク:勇見勝彦(THYMON Inc.)

スタイリスト:渡辺康裕

衣装: コート¥500,500、シャツ¥101,200、パンツ¥256,300

YOHJI YAMAMOTO(ヨウジヤマモトプレスルーム/03-5463-1500)、他スタイリスト私物

 

GOLDFISH』 

不条理な世の中を挑発し続けるパンクバンド!“亜無亜危異(アナーキー)”の藤沼伸一が初めて映画監督に挑戦した渾身の作品。

80年代に社会現象を起こしたパンクバンド「ガンズ」。人気絶頂の中、メンバーのハル(山岸健太)が傷害事件を起こして活動休止となる。 そんな彼らが、30年後にリーダーのアニマル(渋川清彦)の情けなくも不純な動機をきっかけに、イチ(永瀬正敏)が中心となり再結成へと動き出す。 しかし、いざリハーサルを始めると、バンドとしての思考や成長のズレが顕になっていく。躊躇いながらも、音楽に居場所を求めようと参加を決めたハル(北村有起哉)だったが、空白期間を埋めようとするメンバーたちの音も不協和音にしかならず、仲間の成長に追い付けない焦りは徐々に自分自身を追い詰めていった。 そして、以前のように酒と女に溺れていったハルの視線の先に見えてきたものは――

監督:藤沼伸一

キャスト:永瀬正敏  北村有起哉 渋川清彦 /町田康 /有森也実
増子直純(怒髪天) 松林慎司 篠田諒 山岸健太 長谷川ティティ 成海花音

3月31日(金) シネマート新宿、シネマート心斎橋ほか全国順次公開

公式サイト https://goldfish-movie.jp/