浅草・今戸に「WATOWA GALLERY」/「THE BOX TOKYO」がオープン。柿落としに、藤元明による海ごみを題材に扱った作品の個展「海のバベル」を開催
2022/09/24
これまで様々なシーンにおいてアートコミュニケーションの場を提供してきたWATOWA GALLERY。WATOWA INC.代表の小松隆宏によって2019年に発足され、ストリートカルチャーやファッションなどに⾒られる“ジャパニーズフィロソフィー”を取り⼊れた新感覚を持つ⽇本の若⼿作家に焦点を当て、過去3年の間に32件の展覧会を開催したほか、他業種とアーティストをつなぐ様々なコラボレーション企画を実施してきた。
今まで場所を特定せず活動してきた彼らだが、先月自分たちの拠点として「WATOWA GALLERY」、そして新しいアートシーンを育むための実験的活動を⾏なっていくインキュベーション施設「THE BOX TOKYO」が共存するスペースを浅草・今戸にオープン。展示の内容により、その都度名称を変えて運営していく。
晴れなる第一回は「WATOWA GALLERY」と、「THE BOX TOKYO」として、社会現象や環境問題をモチーフに作品展やアートプロジェクトを展開するアーティスト、藤元明による個展「海のバベル」を開催。HIGHFLYERSは小松と藤元をインタビューし、ギャラリーをオープンした経緯や作品のテーマ、日本のアート業界に対して思うことなどを聞いた。
「海ごみ」は海の問題ではなく、陸の問題。ごみを一つの資源として作品に落とし込み、新たな価値を提唱
―まずは小松さんにお聞きしたいです。これまで様々なイベントをプロデュースされてきたそうですが、内容を簡単に教えていただけますか?
小松:僕はもともとファッション業界にいたのですが、2011年にWATOWA INC.という会社を立ち上げて、ファッションショーやイベントのクリエイティブ・ディレクション、演出、プロデュースをしてきました。また、そのようなクライアントワークとは別に、ファッションやデザイン、アートなどいろんな領域の人たちが集まれる場所を作りたいと思い、渋谷のビルを仲間の会社と一緒に借りてElephant Studioというビルを立ち上げ・プロデュースし、スペースを貸し出したり、自分たちでもイベントや展示を企画したりしていました。そんなことをやっていくうちに、日本のアート業界の課題に気づいて、自分のパワーをもっとアートの方に注ぎ込みたいと思うようになったんです。
―課題というのは?
小松:海外だとアートイベントやギャラリーでの展覧会などが開催される際、フリーのキュレーターやプロデューサー、クリティックなどのポジションが活躍しているのですが、日本はフリーとしてだとなかなか食べていけないのが実情で、ほとんどの方は別の仕事をやりながら活動していることが多いんです。なので僕は日本でもそういったポジションの価値を生み出して、そういう方達が活躍できる場所やコトづくりをしたいと思っています。
―それでWATOWA GALLERY/THE BOX TOKYOをオープンするに至った?
小松:ファッションショーやイベントのプロデュースをしていた時は、毎回そのテーマに合わせた場所を探すところからスタートし、より良い発表のあり方を模索することが多い。だから自分たちの場所を持つ必要がなくて、アートに関しても最初はそれでいいと思っていたんですけど、海外のアートシーンを見てると、やっぱり自分たちの場所を持っていた方が活動がより有意義になると思ったんです。
―場所を浅草に選んだのには何か理由が?
小松:もとは倉庫を探していた矢先にこの物件を見つけたんですが、浅草の今戸っていう、ファッションで言うところの革製品に関連する会社が多く(ミハラヤスヒロ氏もこの辺でスタートしていた)、ファッションにも精通しているエリアで。昔はこの辺で部落解放運動が起こっていたと地元の人に話を聞いて、意外とドープな世界があることを知り、ニューヨークで言うところの、ブルックリンのような感覚を感じたんです。このスペースはもともとダンボール工場だったんで、“今後のイノベーションを起こすインキュベーションスペース”としての「THE BOX TOKYO」と、作家の展示をする「WATOWA GALLERY」と、二つの機能を有する場所として展開していくことにしました。
―ところで、小松さんと藤元さんはもともと知り合いだったのですか?
小松:僕は京都の芸術短期大学(現在京都芸術大学)出身で、20年前ぐらいに上京して、ファッションの領域に進んで演出家に弟子入りして働いてたんですけど、藤元くんは東京の藝大出身で、ディレクターとして「REBIRTH PROJECT」という社会課題をテーマにしたプロジェクトをやっていたりして面白いなと思っていたんです。その後、僕がフリーの演出家になってから、アートではない仕事でもご一緒したことはあったんですが、2019年に僕がWATOWA GALLERYをスタートした頃から会う機会が増えて、アートシーンで活躍する彼の存在を改めて認識していって、やってる内容や姿勢が素晴らしかったので、いつかご一緒したいと思ってました。
―それで何か一緒にやろうとなったわけですね。
小松:海ごみをテーマに作品を作っていると話を聞いて、彼のやってることは、ある意味、「ごみは価値のあるもの」と言えるようなプロジェクトなんじゃないかと思ったんです。プラスチックって石油からできたものだし、今はごみって呼ばれているけど新しい価値になるんじゃないかと。
藤元:僕が実際に海ごみで埋め尽くされたような場所に行って感じたことは、僕らは社会のシステムの中で生きていて、リサイクルのシステムを作ったり、何かものを作ってお金を生み出していったりしている一方で、フィジカルに生きてる環境が存在して、社会のシステムから溢れたごみが出てくる。でもそれを回収する方法はなくて、社会的には見ないことにしていて。そういう現実に対峙して、最初はこんなのアートになるのかなと悩みました。例えばごみの一部を僕が持って帰ったって、SDGsだなんだって言ったって、社会構造に全く入っていないから現実的には解決しない。
―そういうことに気づいたのはいつ頃だったんですか?
藤元:海が汚れているっていうのは前からなんとなく知っていたけど、海ごみがメディアで問題視されるようになり始めた2019年ぐらいですかね。これって本当にどういうことなんだろうって自分の目で見てみたいと思って、まず一番最初に五島列島に行きました。市役所の海ごみ回収の担当の方々に、今どこがすごいことになっているのか教えていただき、地元で海を守る活動をしているNPO団体を紹介してもらい、そういう方たちにも実情を聞いたりして。でも、観光ビーチは一生懸命掃除していてごみ一つ落ちてなくて綺麗なんですけど、その隣にある、人が行かない浜は、観光資源として評価されていないから清掃されず、すごい量のごみがそのままになってる。重機が必要なレベルだけど道がなくて入れないし、船もつけられない。
―それでそういったゴミをアートにしようと。どういう風に始めていったんですか?
藤元:どういう風に手をつけたらいいのか、手探り状態。まず映像を撮って、可能な限りごみを東京に持って帰って色々やってみるみたいな感じで始まりました。それが2019年ですね。たまたま海に漂着してるごみを見て「海ごみ」って言ってるけど、これって海の問題じゃなくて陸の問題なんだなと、そして「陸の海ごみ」というタイトルで個展をやりました。
小松:その時は僕はまだ彼のこの活動を知らなかったんですけど、ある時こんなのを作ってるんだという話を聞いて、正直新しいパラダイム・シフトだと感じました。海ごみの現状のリサーチはもちろん、彼がそれを持ち帰りアトリエで作業したり、様々な研究者やJAMSTEC(国立・海洋研究開発機構)とスタディしていること、そしてこんなにパワーかけて素晴らしいコンセプトで作ったアート作品がまだ売れてないことを知り、びっくりして。すぐにWATOWA GALLERYでの個展をオファーしました。
―これらの作品はどうやって作っているのですか?
藤元:海辺に大きな鉄板を持ち込み、イカ焼きみたいにギューっと潰して焼いて制作します。色々なごみを合わせて焼くと、プラスチックが溶け合ってこんな風に仕上るんですけど、それを見て抽象絵画みたいだなと思って。ごみそのものとその概念を作品に取り込んで、オブジェクトとして作品化するという、デュシャンもレディメイドと言って画材ではない素材をそのままアート作品にしましたけど、現代の僕はその素材をプラスチックに置き換えているのかなと。
小松:藤元くんは、プラスチックという220℃で融解する絵の具を使用し、純粋な抽象表現のアート作品を生み出しています。ただ海ごみをなんとかしたいっていうだけのSDGs的なことをやりたいわけではないのです。石油が枯渇し、アクリル絵の具が作れなくなった時には、このプラスチックごみを絵の具として活用するアーティストが増えるんじゃないでしょうか?
藤元:鉄とかになると炉が必要で、DIYレベルではいじれないけど、プラスチックは素人でもギリギリ何とかなるので絶妙に面白い。先ほど焼くための道具を浜に持ち込んで制作してると言いましたが、鉄板を持っていくのが結構大変。180 x 90cmの大きさで45キロほどある鉄板を、車が入れないから人力でリヤカーで運んで。
―なんと、それは大変ですね。
藤元:そうやって作品を作って、「面白いでしょ、綺麗でしょ」という感じで始まりましたが、一方で僕はこれをずっと作り続けていくのか、サイズアップしていくだけの話なのかとこの先について考えていました。今回この展覧会のステートメントに関して話し合っていた時に、「藤元さんからしたらあれはごみじゃなくて資源。勝手に集まって海辺に溜まっていたものを、初めて人間の意思が入って立ち上げたんですよ」って言われて、それは面白いコンセプトになると思いました。
―「海のバベル」の「バベル」はそこから来ていたんですね。
藤元:これからもプラスチック消費量は増え続けて、陸に漂着する量も増えるのはわかっていて、回収することが現実的でないのであれば、これらをその場で塔として立ち上げて上に伸ばすしかない。それも永遠に。だからこの作品では中心にクレーンを置いていて、ごみの塔が高くなるごとに一緒に上がっていく。でもこのごみの塔はバベルの塔みたいに、神の怒りを買って雷によって崩壊することはない。怒りを買う理由がないから。半分ユーモアだけど半分本当みたいな感じです。
小松:彼のやってるフィールドワークとか、JAMSTEC(国立・海洋研究開発機構)との協業で生み出すスタディとか、あの映像もですが100年構想で見ているんですよね。1970年代ぐらいから生まれたプラスチックがどのように陸から流れ出て、海流によってそれがどこに集まったり沈んでいくのか。2050年くらいに石油が枯渇してプラスチックが生産されないという予測のもと、世界が次の新たな資源はなんだって常に探している中で、原子力とかいろんな自然電力とかがありますよね。そこでごみも新たな資源の一つになり得るというか、無価値だったものをプラスにできるというか、藤元くんがやってることは、デュシャンが便器を置いただけなのにアートとしての価値があると提唱したのと同じように、僕は未来の価値の問いとして希望を感じたんです。それでとうとう、あれだけの資源のある場所でミュージアムを作ってしまおうなどのアイデアが出てきたりしました。
藤元:でかい構想を立てると、その間のプロセスみたいなのが生まれてきます。最初小屋を作ろうぜみたいな話から美術館作ろうぜとなったり、バベルの塔作ろうとかって飛躍させていった方がコンセプトとして面白くなっていく。
小松:今回の個展では新作として大型作品を発表させてもらって、これを買ってもらうことが彼への支援になったり、今後の活動に対しての共感につながっていくんですけど、僕はそれ以上の未来を見立ていて、いろんな協力者を求めるプレゼンテーションになればいいなと思っています。例えばあの海辺でワークショップをやってアートツアーを作ったり、バベルの塔を作ってミュージアム化し、様々なアーティストが集まる第二の直島や越後妻有のように日本から発信していければ面白いなと。
―先日のレセプションではどんな反響を得ましたか?
藤元:本当にたくさんの方に来ていただいて、作品面白いねとか、すごいねという感じで、このアートプロジェクトのコンセプトには共感してもらいました。僕としては自分のナラティブとして一緒にプレーしようよって言いたいですけど、そういう風になるのはまだもう少し先かな。
小松:様々な起業家が興味を持ってくれていましたね。対馬や五島などにも海ごみが集まっているらしいんですけど、今後、企業や地域とも連携して、何か一緒にできたら面白いねって話をしています。そういう街づくりの可能性を持ってる企業や、今の環境問題を解決しているような企業とパートナーシップを結びながら日本中を周れたらいいですね。
藤元:ごみを回収するだけの話で言うと、人がいないような所に船で行ってごみを回収するみたいなハードな活動をしている人たちがいますが、その集めてきたごみは、基本的には焼却するしかないという現実。なぜかと言うと他に選択肢がないというか、ごみをリプロダクトとして再生利用するためにするには、分別して洗って砕いてと相当コストがかかる。僕は海ごみを新しい価値に変えようとチャレンジしてみました。それが通用するのはアートしかないし、しかも唯一無二なもので、それがきちんと価値が評価されて、さらに売れればやっとそこで社会的な意味が成立する。このプロジェクトは僕が誰かに頼まれて仕事としてやっていることではなく、アート活動としてやっています。活動って仕事より広がるんです。なぜなら意味や意義を共有して、能動的に参加するから。
小松:前回開催した「海ごみのあと」の時に、活動の一つとして、JINSさんとコラボして海ごみを砕いて溶かした素材で眼鏡を作ったり、ファッションブランドANREALAGEと漁網を再生した糸で刺繍したTシャツや作品を作りました。そうやって、作品を買ってくれる方だけでなく、プロジェクトを手伝ってくれる方やPRしてくれる方など、いろんな協力者たちと一緒にアートを通して新しい社会構造を築いていければ、日本から起こった面白いムーブメントとして世界に広がっていくんじゃないかと思っています。藤元くんはそういうことをやれる人だと思うので、僕は支援したい。
藤元:このプロジェクトをSDGs文脈のみで回収されるというのは、ちょっと勿体ないなと思っています。
小松:多くの企業は、本質的なことはできていないことが多いように思います。例えば再生できている資源はペットボトル、紙、ガラスなど単体で汚れていないものに限ります。全てのごみに対して言えば1パーセント未満で、実際は再生できないごみだらけ。海から流れ着いたごみは、再生しようと思っても不純物だらけなので、洗浄したり色々しないといけない。コストを考えたら、藤元明の作品を買った方が正直安いです(笑)。
―では最後に、このギャラリーは日本のアート業界にどのような影響を与えられるとお考えか教えてください。
小松:先人のアート業界を発展させてきた方々に偉そうなことは言いたくはありませんが、僕のような他業界から見た視点を持つ者としては、すでに活躍している同世代ギャラリストたちやキュレーターはもちろん、様々なアートに関連するあらゆるアカデミックやマーケットの皆さんと、「この世代から始まるカルチャー」を生み出すべく、何か少しでもきっかけとなるようなプロジェクトをたくさん作りたいと思っています。業界の課題や社会の課題に仮設を立てて、様々なアート実験を試みたり、WATOWA ART AWARDのように、多様な審査員と議論することで新たな交流が生まれたり、若手が評価されるべき機会が増えたり、批評家やキュレーションする若手を起用したりなど、できることはたくさんあると思います。また、海外とのリレーションも今後たくさん作りたいです。
藤元:日本の今の美術館では、運営側の立場とかキャリアとか別のバイアスがあったり、ギャラリーでは経営的判断やコネクションなどの理由から、純粋な内容で展覧会をするのが難しいと思います。でも、このスペースのコンセプトだったら、アーティスト、作品、社会的問いに対して純粋に向き合ったりできるんじゃないかと思っています。
小松:世界中の有名コレクターや、アーティストをパトロンした先人たちは、思想的に共感できるアーティストの支援をしたり、作品を買うことで社会へのメッセージをアーティストに託していると思うんです。WATOWA GALLERYとして、いちアートファンとしても、日本におけるアートムーブメントや新時代のサロン的な場所として、コミュニティとしての新しいポジション、また社会へのメッセージを生み出したり、新時代のアートプロジェクトのプロデュースにチャレンジしていきたいと思っています。同時に、新たな同世代のパトロンやコレクターも生み出せたらと思っています。
Text & Photo: Atsuko Tanaka
AKIRA FUJIMOTO SOLO EXHIBITION “海のバベル”
会期:2022年9月11日(日)~9月30日(金)12:00-19:00
会場:WATOWA GALLERY / THE BOX TOKYO
東京都台東区今戸1丁目2-10 3F
入場料:観覧料 500円 (税込)〜
※自身で金額を決定するドネーションシステム(ミニマム 500 円から入場 料を自身で決定し、それが若手 アーティスト支援のためのドネーショ ンとなるシステム。アーティスト支援と国内アートシーンの活性化を 目的としたアートアワード WATOWA ART AWARD 2022 EXHIBITION に 寄付されます)
Instagram:@watowagallery