大城健作デザインによる「Spica」と「Muk」がバイ インテリアズよりリリース。循環型素材「アルミハニカムパネル」を使用し、構造的な要素を一切排除したシンプルでクリーンなプロダクトに

2021/12/23

イタリア・ミラノを拠点に、世界的に活躍するデザイナー、大城健作のデザインによる新作品、ソファ「Spica(スピカ)」とシェルフ「Muk(ムク)」がバイ インテリアズより発表された。発売は来年4月。

二つの製品には、共通してバイ インテリアズが着目し、開発を続けてきた循環型素材「アルミハニカムパネル」が使用されている。アルミハニカムパネルは、ハニカム構造により、環境や経年変化による歪みやたわみが起きない上に、軽量かつ高強度、高い平滑性を保つことが可能。

ソファの「Spica(スピカ)」は、高い精度を要求するアルミハニカムパネルを使用したフレームと、モールドウレタンによって成形された有機的なシートで構成される。アルミハニカムパネルを曲げるという新たなアイデアにより、従来にはなかった素材の可能性を追求し完成に至った。すべての機構がパネル内部に配され、構造的な要素を一切排除したシンプルでクリーンなデザインが特徴とされる。また、シェルフの「Muk(ムク)」は、アルミの無垢材が持つ「純粋性」を追求し、こちらもアルミハニカムパネルが使われたことにより構造的な要素がなくなり、美しくシンプルな仕上がりに。棚板と支柱の接合部に見られるまろやかなディテールが、従来のシェルフには見られないソフトな印象を与える。

左:Spica(スピカ) 右:Muk(ムク)

今回、HIGHFLYERSは来日中の大城をインタビューし、それぞれの商品のデザインや特徴について、こだわりや苦労したこと、環境問題や豊かさ、ミラノでの生活についてなどを聞いた。

素材の良さや会社が持つ技術に、新しい価値を生み出すことを考えデザイン。見えない隅々まで美しく、調和の取れた仕上がりに満足

―まず、今回発表された「Spica」と「Muk」を手がけることになった経緯を教えてください。

前回バイ インテリアズで「SWEEPY AI (スウィーピー アイ)」という藍染めを施した椅子をデザインさせていただいて、その際にハニカムパネルのことを知り、2度目のコレクションとなる今回、この素材を使って何かできないかと考えていました。そこで、工場にお伺いして技術者の方達にお会いし、アルミハニカムパネルという素材の可能性を探りました。どこまで曲げられるか、どのくらい複雑なことが出来るのかなど、具体的な話をしていったんです。そうしたら、ただ単に曲げるだけでなく、精度を保ちながら曲げられることが分かり、硬くてクールなイメージのあるハニカムパネルを曲げて、少し柔らかみを出せないかと考え始めました。それでまず取り組んだのが、ソファの「Spica」です。アルミを曲げながらも、小口のカーブから内側に繋がるディテールが特徴的で、外側は薄くて冷たいアルミのシェルですが、中側は有機的なフォルムで包み込まれるような座り心地のクッションで構成されています。

―とても座り心地が良く、長く座っていても体に負担を感じないようなクッション感で、見た目も美しいですね。

高度な技術を組み込んだシェルと、内部は温かみのあるもので作りたいというイメージがありました。いわゆる普通のソファや椅子の作り方で考えると、構造体が外に出てしまうのですが、アルミハニカムパネルを使うと、厚さ18ミリのパネルの中に全ての構造体を収められるんです。そうすることによって、ツルンとしたシェルの中に全てがまとまり、アルミの持つ軽さに加えて、柔らかさもありつつ清潔感もあるという、いろんな価値を出していけると思いました。

Spica写真右下は、ショールームの天井に吊るされた椅子。クッションなどがない状態で、アルミとハニカムパネルの構造が見える

―そもそもアルミを曲げるということ自体、今回初めての挑戦だったんですか?

航空機とかで使われる素材なので、以前から曲げることは出来ましたが、精度が保たれた状態で曲げるというのは簡単ではありません。特にインテリア業界では、どこもしていなかったですね。僕は、デザイナーとして何かをデザインする際に、その素材や技術の新しい可能性を見つけることや、従来からあるものを新しい感覚で捉えることが大事だと思っています。なので今回、この素材や技術を、会社の思想を含めてしっかり表現したいというのが自分の中にあり、新しい価値を生み出したいと思いました。

―素晴らしいです。

また、アルミは循環型素材として今とても注目されていますが、僕は樹脂系や繊維とかも含め、サステナブルな素材ってどんどんチープな方向に向かっているような気がしていて。僕たちが豊かに生きていくためには、果たしてその方向だけでいいのかって思いますし、それしか選択肢がないのは少し寂しいなと思います。そこで今回は、「スマートラグジュアリー」というテーマを掲げて、循環型素材だからこそ、よりリッチな使い方で、素材自体の魅力を感じながら愛着を持って長い間生活を共にする、そして廃棄する時にはリサイクルも出来て、豊かにサステナブルを感じる事ができるデザインを意識しました。

―ところで「Spica」は乙女座で最も明るい星のことだそうですが、大城さんが名前を考えたのですか?

はい。アルミハニカムパネルって無機質でクールな印象ですが、アスファルトの上に置いて撮影をした時に、どこの惑星にいるのか分からないように感じて、宇宙っぽい名前がいいなと思ったんです。それでいろんな星の名前を調べていくうちに、乙女座でスピカという星があることを知りました。乙女座の中でも一番輝いている、日本では真珠星と言われたり、昔から一つの目印となっていた星。パンデミックもあった中、久しぶりにバイ インテリアズが新しい商品を出すタイミングで、一つのシンボルというか、示すものになったらいいなと思い、そう名付けました。

―では、シェルフの「Muk」に関して、デザインの特徴など教えてください。

全体の特徴としては、アルミの持つ冷たくて固い印象をもう少しソフトにしたいと思い、エッジも柱も全部丸くして、接合部にまろやかなディテールを生み出しました。また、柱にアルミの無垢材を使用する事で機構のノイズを省き、スマートでどの角度から見ても美しく仕上げることが出来ました。アルミをカットした面はキラッと光るような鏡面仕上げで、それ以外はマットなフィニッシュにしたことで、コントラストが生まれて良いアクセントになったと思います。素材の持つピュアな表情をしっかりと感じていただけたら嬉しいです。

Muk

―色味も素敵ですね。

色はシルバーと黒、そして、シャンパンゴールドの3色で展開しています。これらは塗装ではなくアルマイト加工といって、アルミを電解液につけた時に、浸す時間によって出る色のバリエーションなんです。長い間つけるとシルバーが黒になります。その中間くらいの時間ですと、このようなシャンパンゴールドになります。ある特定の色を狙って作るのでなく、製造のプロセスから生まれる表情をカラーバリエーションとして展開している点が面白いと思います。

―「Muk」という名前に関しては?

無垢材の無垢、そのままです。こういったシェルフ系は、固定するメカニズムとの戦いと言いますか、構造をいかにデザインするかによって完成度が変わります。機構が見えないのは、無垢材だから出来たことでもあります。

―一見そんなに難しいものに見えないけれども、実際の形にするのは難しいんですね。

スマートでシンプルに見えるものほど本当に難しいんです。

―では、それぞれのデザインにおいて、大城さんが最もこだわったところは?

本来は、素材の持つ良さを引き出したり、それらを活かすためにデザインを考えるわけですが、今回使った素材であるアルミの無垢材も、価格が高騰していて使うのはなかなか厳しい状況の中、このアイデアで進めてくれたのは、メーカーの覚悟がないと出来なかったことだ思います。Spica に関しても、難しい加工や、精度を出すための型の製作など、僕一人では成しえなかったことです。僕がデザインでこだわったというよりは、バイ インテリアズと一緒に考え挑めたからこそ出来たことなのかなと思います。

―デザインから実際の形にする工程において、大変だった点や難しく感じた点などはありましたか?

やはりスッキリしたデザインで、ほとんど構造体が見えないところですね。ソファ「Spica」はクッションを取ると、そのまま全部アルミで、見えないところまですごく綺麗なんです。思考がクリーンな状態でものを作ると、素材も含めて、気持ち良く全てのつじつまが合うというか、デザインが一巡するというか。いろんな視点から見て、綺麗にまとまっているのは調和が取れている状態だと思います。

―確かに、それは作り手として気持ち良さそうですね。

何かつっかかりがあると、説明する時に隠してしまったりするんですよね。SpicaもMukも、全体としてはそういったことはなく、気持ち良く感じています。

―では、仕上がりには満足ですか?

満足ですね。

―話題を少し変えて、今、地球の環境問題が日々深刻になってきていますが、大城さんはデザイナーとして環境問題をどのように考えていらっしゃいますか?

環境問題に対しては、どんな立場の人もコミットしないといけない部分で、僕もいち個人としては自分が出来る範囲内で、より環境に配慮したことを常に考えています。デザイナーとしては、デザインは自分一人でなく色んな方と関わって行う仕事なので、様々な企業や研究機関、最先端の技術者などと一緒に環境問題に取り組まない限りは大きく変えることは出来ないのかなと。今はまだそういう方たちとのコンタクトが少ないのが現状なので、歯痒さはあります。そんな中、現段階で出来ることと言ったら、今回のプロジェクトもそうですけど、「こういった意識でものづくりをしてますよ」って、じんわりと環境に対して考えている事を伝えていくことですかね。

―デザイナーで、プロダクトを生み出す立場として、現在の「豊かさ」とは何だと考えていますか?

先ほども少し触れましたが、特に日本で感じることとして、全てがチープになっている気がしていて。夢を持てる商品とか、心や感性が豊かになるものよりも、経済性や、効率などを重視してきた結果だと思うんです。一番いいのは、自分も環境も含めて、健やかにこれがいいね、心地いいねと素直に心で感じられることや、美しく思えるようなことを知ることだと思います。デザインってその人が持つ人生観や、周りにある社会環境が影響するので、家族や友人とか、自然との関係性というのを本当に楽しんでいる状態の上で生み出していくものだと思うんです。僕はただデザインしているのではなく、自然も大好きで、普段の生活を楽しんだり、十分な休暇をとって色んなことを体験しながら、その生活サイクルの一部としてデザインをしています。だから人間の豊かさって、嬉しくて心が躍るような経験をするとか、シンプルに感情に訴えかけてくるものを体験することなんだと思います。

―ところで、ミラノに移住して26年経つそうですが、現在はミラノのどこに住んでいらっしゃるのですか?

ミラノの中心街の北側にあるイゾラ地区というところです。色んな開発が進んでいて、IT系企業や大手の銀行、クリエイターや面白い人たちがたくさん集まっています。近くにはブレラ地区という昔からのアートの地区があって、その横には中華街があったりと、歩ける距離でアジアの雰囲気も感じられて、すごく良い所です。

―毎日どんな生活を送られていますか?

ここ数年は、出張や旅行以外は毎日同じルーティンを繰り返しています。毎朝起きて朝食をとって、自宅とスタジオが同じ敷地内なので、仕事に行く前にまず近所のカフェに立ち寄ります。そこで店の人と話しながらその日の仕事内容をざっくりイメージして、オフィスに行って9時半から6時半まで仕事します。仕事が終わったらジムに行って2キロ泳いで、サウナに入る。そして帰り際に、その晩食べたいものを買って家でご飯を作る。そこからニュースを見たり、調べ物をしたり、本を読んだり携帯を見たりして寝るという感じです。

―では、日本とイタリアにおいて、人々のデザインに対する感覚や意識の違いなど、何か感じることがあれば教えてください。

イタリアはどの街にも、歴史的建造物やアートが身近にあって、イタリア人は子供の時からそういった美に対する教育を自然と受けていると思います。良い意味での個人主義といいますか、周りの意見ではなく 、自分はこれが好きとか嫌いとかっていう意見ははっきり言いますね。日本でも個人的な意見を持っていらっしゃる方ももちろんいますけど、イタリア人にはそのベースとなる部分が深く、歴史と繋がった上での感覚があるように思います。

―職人やクリエイターたちに共通するところはどんなことでしょう?

人によりけりなところもあるので、全体的にまとめるのは難しいですけど、似ているところは、皆さんプライドを持ってものづくりに向き合っていらっしゃるところですかね。そういった部分が、しっかり自分たちのDNAに刻み込まれていて、無意識かもしれないけども作品に出ていると思います。あと、日本もイタリアも食が美味しいので、僕の持論で「食が美味しい所には、より良いものを追求する思考が働く」というのがあるので、どちらにも必然と豊かな文化が築かれるんだと思います。

―最後に、デザイナーとして、大城さんの今後の夢や目指すゴールなどあれば教えてください。

これからも仕事はずっと楽しんでいきたいですね、目標というよりも、そういう状態をずっとキープしていきたいですし、そんな生き方を楽しみながら、仲間たちと常に新しくワクワクするようなものづくりに挑戦してきたいと思います。

Text & Photo: Atsuko Tanaka

 

by interiors New collection 「Spica」「Muk」

2022年4月発売

by interios Tokyo | バイ インテリアズ東京

住所:107-0062 東京都港区南青山 4-16-15

電話番号:03 6712 5830

営業時間:9:30-18:30

定休日:土・日・祝日

Instagram : https://www.instagram.com/by_interiors.inc/

URL : https://www.interiors-inc.jp/