小橋賢児プロデュースの新プロジェクト「ART BASE ZERO next」より、気鋭アーティストCHRISの作品展「CHRIS×Hi-NODE Exhibition“Love is a battlefield ”」が開催!

2021/12/10

いつも新たなことに挑戦し、人々に驚きと感動を与えているクリエイティブプロデューサーの小橋賢児。今年10月に、新しい才能をプロデュースするプロジェクトとして「ART BASE ZERO」をスタートし、アーティスト・ENAの作品展「f_a_c_e」を開催して話題を呼んだ。今回は「ART BASE ZERO next」と称し、世界へ羽ばたくアーティストをストリートから発掘する新プロジェクトが始動。その第一弾となる作品展「CHRIS×Hi-NODE Exhibition “Love is a battlefield (It‘s hard to see Love) ”」が、12月4日より日の出埠頭の船乗り場を利用したギャラリー「Hi-NODE(ハイノード)」にて開催されている。

アーティストのCHRISは、90年代の東京ストリートカルチャーから多大な影響を受け、 ストリートカルチャー誌を主とした膨大な数の誌面をデコラージュするという独自の技法を用いたスタイルが、業界内外で注目されている。一見ペイントに見える作風は、テーマに合わせた印刷物を貼り重ねて形成されたもので、長い時間をかけて幾度となくデコラージュすることにより、独特で立体的な作品となる。彼はこれまで国内外のアートフェアへの参加、個展の開催のほか、ColumbiaやGOD SELECTION XXX、GUESS×atmosなど数々のファッションブランドとのコラボレーションを行ったり、明治神宮創建100年記念の「神宮の杜芸術祝祭」プロジェクトにも携わったりと、活躍は多岐にわたる。

HIGHFLYERSは、小橋とCHRISをインタビューし、「ART BASE ZERO」を立ち上げたきっかけから、二人の出会い、作品のテーマや現在のアートシーンについて思うことなどを聞いた。

ストリート、ファッション、アートというボーダレスな世界で、突然何かが変わるような、止められない“うねり”が起きている。その狭間を見ているのが面白い

―まず、小橋さんにお伺いしたいです。今年の10月に新しい才能をプロデュースするプロジェクトとして「ART BASE ZERO」を立ち上げましたが、どういう想いでこのプロジェクトを始めたのかなど、改めて教えていただけますか?

小橋: イベントなどをプロデュースする際に、マーチャンダイズのデザインをアーティストに頼んだりしていて、気づいたら周りに結構アーティストがいて。その中から数年後に世界的なアーティストに飛躍する人が出てきたり、あるいは自分が買ったアートがすごい価値のあるものになったりとか、そういうことを経験してきて、アートって人々の気づきのきっかけのツールでもあるんだなぁと思っていたんです。そんな中、去年ステイホーム中に、もともと友達だったENAの作品を彼女のSNS でたまたま見て、最初は外国のアーティストの作品をアップしてるのかなと思ったら、彼女の作品だってことが分かって、色々アドバイスをしたり手伝ってるうちに、彼女の作品展をやることになり、いろんなアーティスト達を繋げられるような場を作りたいという想いからこのプロジェクトを始めました。

―その一環として、今回「ART BASE ZERO next」が始動したのですね。

小橋: 実は、プロジェクト名はなかったものの、CHRISさんとこの展示をやることはずっと前から決まっていたんです。僕はここ、Hi-NODE(ハイノード)のアドバイザーとして企画から携わっていて、船の乗り場って人との出会いやいろんなものが生まれる場所なはずなのに、ただ待ってるだけの場所になってるからもったいないなと思って、何かアートを入れたいってことでCHRISさんにお願いして動き始めたら、コロナが起きちゃって。人が集まることができなくなって、企画自体止まってしまっていたんですが、2年越しにやっと実現しました。

―なるほど、そうだったんですね。ちなみにZEROとZERO nextの違いは何かあるんですか?

小橋:  ZEROを立ち上げたのは、アーティストにとってここがゼロになる場であったり、既存のアートだけじゃなくて、いろんな人達を繋げられるようなゼロ地点になれるように、という想いからスタートしたんですが、やっていく中で、いわゆるアート業界の見えない分断みたいなことを感じることが結構あって。直球でそのまま中に入っていこうとすると、知らないうちにアート業界のマナーというか、今のアートのあるべき姿に皆合わせ始めちゃう。でもそもそもアートが気づきのきっかけとか、社会へのアンチテーゼなら、そういう文脈の中でやること自体が本当はおかしいと思うんですよね。

―確かに、そうですね。

小橋: それに、じゃあそういうものがどんなところから生まれてくるかって言ったら、それはやっぱりストリートやファッションというカルチャーだなと思って。僕自身、80年代、90年代の原宿、渋谷のカルチャーからすごく影響を受けて、ファッションやストリートから色んな文化が生まれていく姿を見てきたので、僕もストリートから新しいカルチャーが生まれる“next”を作りたいとなった。Chrisさんのスタイルはそのコンセプトにすごく合ってると思ったし、アート業界の人達にも、そうでない人たちにも、「全然違うところからこんな人が出てきた」みたいなことを感じてもらえたらいいなと思って。ZERO nextはそういうプロジェクトにしたいと思ってます。

―CHRISさんのことはどうやって知ったんですか?

小橋: 友達の紹介で出会いました。作風がすごくいいなと思ったし、ストリートを通したいろんな出会いの中で、自分の技法を見つけていった彼のアート性と、船旅を通しての出会いや気づきって似てると思って。ここはストリートじゃないけど、ストリートの出会いと同じような場所になってほしいなという想いもあって、CHRISさんにお願いすることにしました。

―CHRISさんは以前から小橋さんのことをご存じでした?どんな印象をお持ちでした?

CHRIS: もちろん知ってました。僕は昔からストリートファッションやカルチャー誌を集めていて、そこに出ていた小橋さんはとても憧れでした。今はプロデューサー業を色々されたり、最近の活躍は誰しもが知っているかと思いますが、本当にリスペクトしています。そんな方にいいタイミングでお会いできて、このお話をいただいたので、すぐに「やります!」っていう感じでした。

―展示のタイトルは“Love is a battlefield (It‘s hard to see Love) ”とありますが、作品のテーマやコンセプトはCHRISさんが決めたんですか?

CHRIS: はい。乗船所の待合所をギャラリーにするっていうアイデアがそもそも面白いなと思いましたが、実際にここを見させていただいて、コンセプトに沿った形で何かできないかと考えた時に、恋人同士がここで過ごしているような場面が浮かんできて。あとHi-NODEっていう名前から僕の大好きなHi-Standardというバンドのメロディーが頭の中で流れてきて、恋人たちの痴話喧嘩が始まるみたいな妄想が勝手に膨らんで、これはもうテーマは愛しかないと思って、そうさせていただくことにしました。彼らの4曲入りのミニアルバムで「Love Is A Battlefield」というのがあって、曲が「This Is Love」、「My First Kiss」、「Catch A Wave」とかってあるんですけど、それらにインスピレーションを受けて作品に落とし込んだものもあります。

CHRISがHi-Standardの「Love Is A Battlefield」にインスピレーションを受けて作った作品

―CHRISさんの作品は、テーマに合わせた印刷物を貼り重ねて形成する、デコラージュという技法を用いていらっしゃいますが、最初からこの手法でずっとやっていたんですか?

CHRIS: 7年ぐらい前からですね。その前は全然違う作風でやっていたんですけど、アメリカに生活拠点を移した時、なかなか評価してもらえなくて半年くらい絵が描けない時期があったんです。それである時、無地のキャンバスに、フリマで手に入れたアメコミの紙を貼ってみるという実験をしていて、たまたまビリって破いた紙の破れ目がすごくカッコ良く感じて、そこから試行錯誤を重ねた結果、今のこういうスタイルに落ち着きました。

―普段は、作品に使う印刷物はストリートファッションやカルチャー誌なのですか?

CHRIS: 普段はそうで、毎回テーマごとに「今回はこの雑誌で行こう」とか自分の中で決めてやります。自分自身が通ってきたルーツをアーカイブしちゃう癖があって、シールとかカードとかたくさん持ってます。ファッションに関しては、asayan、Boon、COOL TRANS、Street JACK、relaxとか、90年代の雑誌はほぼ全て持っていて、嫁には煙たがれてますね(笑)。場所をめっちゃ取るので、最近山梨に大きなアトリエを借りました。今回の作品に関しては、テーマが愛なので、作品の赤い部分は辞書のLOVEというところをコピーしたものを使ってます。

左:今展示のメインの作品。赤い部分は辞書のLOVEという箇所をコピーしたものが使われている 右:山梨のアトリエ

―90年代の東京ストリートカルチャーからインスピレーションを受けたそうですが、具体的に影響を受けたアーティストはいますか?

CHRIS: 特に裏原宿のデザイナーですね。僕はアメリカ人と日本人のハーフで、小さい頃は周りに外人って言われるのがすごくコンプレックスだったんですけど、それを裏原宿のファッションが助けてくれたというか、裏原のファッションを身に纏った時だけはみんな僕の容姿じゃなくて、「それ、Bapeのだよね」とかって、自分を受け入れてくれる感じがすごく嬉しくて。そこからずっと裏原のカルチャーをリスペクトしてますし、服だけに限らず、小橋さん含め先輩方が集めていらっしゃるものや、経験してることとかを率先してやるようになりました。裏原の先輩方が築いてきた東京のミックスカルチャーというものがあって、自分自身もミックスなわけだから、ここで勝負していくべきなんじゃないかなと思って、色んなインスピレーションを受けて今やってます。

―素晴らしいです。今回の作品を作る上で大変なことや新しい発見、改めて愛に関して気づいたことなどありましたか?

CHRIS: 大変だったことは全然なくて、この場所を見てすぐインスピレーションが降りてきたので、すぐ制作に入ることができました。大きい作品もあるので、締め切りに間に合わせるのが大変と思ってましたけど、ようやく完成したと思ったらコロナで延期になってしまいました。愛に関して最終的に行き着いたのは、男女問題はいつも面倒だということ(笑)。展示のサブタイトルが「It‘s hard to see Love(いつまで経っても分かち合えない)」ですから。

小橋: (男と女は)違う宇宙から来たようなもんですからね。同じ視点でいくと絶対に分かち合えない。違うものだと思って生きないと。

CHRIS: 確かに。そう思うと、小橋さんのところのようにうまく行きますね。

―では、お二人にお聞きしたいです。今の日本のアートシーン、世界のアートシーンについて、それぞれの特徴、違いや以前に比べて変化していると感じることなど教えてください。

小橋: 僕はアート業界の人ではないので詳しいことはわからないですけど、どの時代にも「今のアートのあるべき姿」みたいなのが必ずあって、それをカウンターカルチャー的に繰り返していると思っていて。そういう意味では、今って過渡期と言うか、アートムーブメントが世界中で起きていて、アートをやってきた人たちの中で「アートってこうあるべきだよね」みたいな意識がさらに強くなっていると思うんですね。その一方で、全然違うところから発生して突然世界を変えるような、止められない“うねり”みたいなものが起きていると思ってます。一昨年にComplex Con(2016年からLAのロングビーチで行われているストリートカルチャーのフェス)に参加させてもらった時、そういううねり感をすごく感じて、もはやアートとか、ファッション、ストリートっていうくくりで分けるんじゃなくて、全てがボーダレスにつながって、しかもそれが既存のアート業界を越えるムーブメントに変わっていく、そういうことがやっぱりあるんだと感じました。

例えば先日亡くなったヴァージル・アブローのように、ストリートから新星のごとく出てきて、あれよあれよという間にラグジュアリーブランドのトップに立つっていうのは、そこを目指してきたファッションデザイナーからするとありえないようなことだと思うんですけど、実際にそういうムーブメントが起きていますよね。日本のアーティストの中にも、2年で消えるとかって言われていた人が、消えるどころか今やアジアを巻き込んで世界に行き始めたり、アートのマーケット自体がアジアに移っていたりするのも含めて、アート業界の人達にとっても信じられないうねりが起きている。それも、ストリートとファッションとアートの架け橋の部分で起きているように感じていて、そういう狭間を見てるのが面白いですね。こういううねりって意外とどっぷりアートに浸ってる人ほど気づかなくて、気づいたらとんでもない大スターが現れるみたいな、そういうことがこれからも絶対に起きるし、CHRISさんは多分そのうちの一人だと思っています。

CHRIS: 僕はアート業界の方に受け入れてもらえなかった側で、そこをどうこうっていうのはないんですけど、小橋さんの言ううねりというのは、僕が通ってきた裏原宿の感覚にものすごく似ている感じはしてます。今って、日本においても世界においても、“アートシーン”という言葉自体が合っているのかわからないですし、アートの定義も人によって違って、いわゆる古典的絵画のようなアートと僕たちの言うアートは多分違うんだろうなと思います。昔、僕はアメリカで油絵とかを描いてた頃、アート業界にちょっと寄せにいってしまった時期があって、でも受け入れてもらえなくて、その時に気づいたことは、自分が通ってきたことを素直にやればいいということでした。それで日本に帰ってきて、ストリートカルチャーの中で活動し始めて、今少しずつ時代が僕のいる方に寄ってきてるように感じるというか、自分が選んだ道は間違ってなかったと思うし、このままやり続けるだけと思ってます。

―それでは最後に、どんな方達に見にきて欲しいですか?見て欲しいポイントなどあれば教えてください。

CHRIS: 僕が思い描いたような、カップルたちに来てもらって、休みながら愛を語ってくれたらいいなって思います。喧嘩にならないように、ポジティブな話し合いで(笑)。

小橋: アートが身近になって、色んなギャラリーや美術館などで作品展が開催されてますけど、意外とギャラリーって入りにくかったりするし、アートのことをよくわかってないのに入っていいのかなと躊躇することってあったりしますよね。でも、ここは乗船所でもあるので誰でも入れますし、アートに精通してるとかしてないとか関係なく、ふとした瞬間にアートに出会って、こんなのいいなってインスピレーションを受けたり、自分自身と向き合う時間になったら嬉しいです。そして、こういうところから新しいカルチャーが生まれていくのを感じてほしいなと思います。

Text & Photo: Atsuko Tanaka

 


Chris×Hi-NODE Exhibition “Love is a battlefield (It‘s hard to see Love) ”

会期:2021年12月4日(土)~12月26日(日)
開廊時間:9:00~21:00 ※会期中無休
会場:Hi-NODE(ハイノード)TOKYO HiNODE PiER 東京都港区海岸二丁目7番103号
オフィシャルInstagram: https://www.instagram.com/artbasezero_next/
オンラインショップ:https://artbasezeronext.tokyo/