豊原功補と小泉今日子初プロデュース映画「ソワレ」が8月28日より公開!村上虹郎と芋生悠が、“かけおち”を通して若い男女のリアルな生き様を描く【インタビュー】
2020/08/14
豊原功補と小泉今日子らが昨年立ち上げた、映画製作会社「新世界合同会社」の初プロデュース映画「ソワレ」が8月28日より公開される。ダブル主演として、作品ごとに存在感を増し、独特の世界観を放つ人気俳優・村上虹郎と、オーディションを通して100人以上の候補者から選ばれた新星・芋生悠が出演し、監督と脚本は、新世界合同会社の設立メンバーであり、海外の映画祭でも受賞経験のある外山文治が務めた。
ストーリーは、芋生演じるタカラが起こしたある事件をきっかけに、村上演じる翔太と二人で逃避行を始め、警察に追われる生活を送りながら、それぞれが過去やトラウマと向き合い、自身を見出していくというもの。ドキュメンタリータッチで、人間の感情がリアルに映し出されたシーンに動揺させられるも、美しく描かれた幻想的な世界観に引き込まれていく。
この映画製作の発端となったのは、豊原と小泉が、外山監督の短編作品集、特にその中の「此の岸のこと」を観て感銘を受けたことだった。二人は外山にアプローチし、以前から持ち続けていた、映画のプロデュースを実現する為、急遽会社を設立。作品からできるだけ商業的なことは排除し、台詞も必要最小限にするよう、外山に何度も求めたと言う。「“確実に伝わりやすいものが、いい作品”という固定概念を棄てていく必要があった」と語る外山、普通に撮ってしまうと、観る人に既視感を感じさせる可能性があると感じたため、事前に決め込んだ撮影はしなかったそう。豊原が、「現場、監督、スタッフの匂い、つまり、映画の体臭。昔は映画館にも匂いがあったと思う。映画を作るなら、そういうものをやりたいと思っていた」と望んだ通り、それらが観る側の体中に染み込んでくるような作品に仕上がった。
今回、村上の相手役として主演の座をつかんだ芋生は、プロデューサーの二人から、「昭和の時代に活躍した女優さんのような魂や肉体を持っている。令和においては非常に貴重な女優になると思う」と称賛を得るほどの逸材だ。そこでHIGHFLYERSは、芋生をインタビューし、役作りについて、撮影を通して村上や外山監督に感じたこと、プロデューサーの二人から受けたアドバイス、今後の夢などを聞いた。
苛立ちや、もどかしさを持っている人、暗くて終わらない道を歩き続けている人たちに観て欲しい。希望の光を持てば、絶対に朝を迎えられると、作品を通して伝えたい
―今回演じられたタカラは、過去のトラウマを背負う女の子で、かなりヘビーな役でしたね。
相当ヘビーな役なので、役に飲み込まれて一緒に壊れてしまわないように、タカラという役になりきるか、それともタカラと一緒に歩んでいくのかを考えて、後者の方を選びました。台本を何回も読みこんでいくうちに、タカラは幼少期の経験から傷ついた心を持ちつつも、小さな希望の光も持ち続けている子だと感じて、誰かがそばにいたら、もっと光のある方へ行けるかもしれないと思ったので、だったら私がそばにいようと思いました。
―役作りの上で、常に意識してやっていたことは何かありましたか?
(撮影場所の)和歌山に行ったら、割とタカラと一体化した感覚もあり、意識してやったことは特になかったんですけど、タカラが絶望の中にも何か幸せと感じる瞬間があればいいなと思っていました。実際に演じてみて、翔太と逃げている時間が、警察にも追いかけられてすごい恐怖もあるだろうに、すごく幸せで、初めて笑えたり、怒ったり、泣いたりできて。それは予期してなかったことでしたが、翔太と出会えてこんなに嬉しかったんだと感じられて、とても嬉しかったですね。
―撮影中、お二人は敢えてほとんどコンタクトを取らなかったそうですね。
村上さんとは撮影中だけでなく、終わった後も全く喋ってないので、今でもどんな人なのか正直わからないんです。でも、本当に純粋で優しくて、絶対に嘘がない人だと思います。純粋ゆえの怖い部分も少しあるかもしれないですが、なんでも抱きしめてくれるような包容力があって、ちゃんと心で見てくれてると言うか。本当に信頼していたので、たとえ現場で全く会話がなくても、絶対に翔太でいてくれるし、自分もタカラになれるっていう、「絶対に大丈夫」と思えるような、それは村上さんだからそう感じるんだと思いました。
―村上さんの演技や仕事の向き合い方を見て、何か感じたことはありましたか?
村上さんはこの作品の座長をされていたんですが、現場ではあえて飄々と、重苦しくならないようにしてくれて、駆け出しの私に対しても先頭を切っていく姿を背中で見せてくれて、責任感の強さをすごく感じました。撮影中、村上さんの目を見た時には、宇宙から物事を見てるような、感覚的に多分常人では理解しえないようなところまで感じているのかなと思ったことも。普段から、いろんなものを見て、それをどうにかいい形にしようとして生きている人なんだろうなと思いました。
―外山監督は、ご一緒にお仕事をされてみていかがでしたか?
外山監督は、現場に入る前から「一緒に心中するつもりでいくから」と仰って、ずっと全身全霊の姿勢でいてくださったので、私は全く迷うことなく、監督と同じような気持ちで挑むことができました。特別に演出を細かくつけるということはなく、「走り出したら役者たちのもの」っていうスタンスで、私たちを見守って導いてくれる安心感がありました。
―監督とのやり取りで印象に残っていることは何かありますか?
親からの暴力を受けるシーンを撮影した時、私は悲しいとか悔しいという感情をなくして、ただ天井を見ていました。本当にただ見続けるしかなくて。その撮影を終えた後、監督が「あの天井を映したい」と言ってらっしゃっているのを聞いて、私たちを追い続けてくれてる一体感みたいなものを感じてすごく嬉しかったです。その先にもっと苦しいシーンがあったとしても、もう少し頑張ってみようと思いました。
―演じていて、苦しいと思ったことは結構あったんですか?
やっぱりお父さんからの暴行を受けるシーンは、終わった直後は全然平気と思っていたけれど、その撮影の翌日が撮休で、みんなと和歌山を観光する予定だったのに、連絡も返せないくらいで。カーテンも全部閉めて一人になりたいみたいな、悲しいとか悔しいとかじゃないけど、本当にどうしていいかわからないくらい、心も体も暗く重くなってしまったんです。タカラは自分自身でもありながら、タカラの側にいてそれを見てもいたので、すごく苦しかったですね。
―観ている側にも辛いシーンでしたが、そうだったんですね。この役が決まって、プロデューサーの豊原さん、小泉さんからはどのようなアドバイスを受けましたか?
現場でお二人が口を出すことはほとんどなかったのですが、撮影が始まる前に、役者として大切なことなどを教えてくださって、それは自分の中で自信に繋がったと思います。「芋生ならやれると思ってる」と何度も言ってくださり、役者としてだけでなく、人としてすごい必要とされてると思うことができました。また、映画を作ってどうなりたいとかではなく、ただ良いものを作りたくて、そのために私のことが必要としているとも言ってくださったので、私はただの一つの駒じゃないんだと感じることができて凄く嬉しかったです。そのおかげで、気負いやプレッシャーなく、肩の力を抜いてやることができました。
―ご自身の中で、特に印象に残るシーンはありますか?
これというのはないんですが、撮影が始まってからはずっとタカラでいたので、全てが一つの円としてタカラの大切な記憶になったと思います。
―タイトルの「ソワレ」はフランス語で、夕方、日暮れ後のことを言いますが、夕暮れ時の、芋生さんの記憶に残る情景と言ったらどんなものを思い浮かべますか?
中3の頃にすごくいじめられた時期があって、そのまま家に帰ったら親にばれるし嫌だと思い、いつも帰宅前に地元の川に寄っていたんです。なので、夕暮れ時と言うと、その川のふもとにある秘密基地みたいな所で見ていた、優しい緩やかな心地良い陽の光を思い出します。
―では、これからどんな女優さんを目指していきたいですか?
何10年後とかにスクリーンで観た時にも、色褪せない人でいたいですし、私より下の世代にも勇気や夢を与えられるような女優でありたいと思います。未来を明るくできるような、希望のある映画作りもしていきたいと思いますし、女優しての活動と同時に、いい作品が生まれるような土台作りも、仲間たちとしていけたらいいなと思ってます。
―憧れの役者さん、一緒に共演してみたい方などいますか?
特にはいませんが、小泉さんとはまだ共演したことがないので、いつか一緒にお芝居ができたらいいなと思います。
―演技に関して、どんなことからインスピレーションを受けることが多いですか?
私は役者という仕事がすごい好きで、以前は普段の生活でも、役者として表現する時に必要と思うことを無意識に考えて、引き出しに入れていたこともありました。でも今は、何よりも日常が大事と言うか、今目の前にいる人とちゃんと向き合って会話をしたりすることを大切にしています。一人の人間として色んな経験をして、友人だったり家族だったりと、お互いをもっとたくさん想いあえたらいいなと思っていて、それが自分の中から滲み出るようになればいいなと思っています。
―普段はどんな生活を送っているんですか?
友達と飲みに行ったり、あとは銭湯やサウナが好きなので、よく行きます。仲良くなりたい友達がいたら銭湯に誘うんです。裸の付き合いをして仲良くなるみたいな。
―最近ハマっていることはありますか?
あまり上手くはないですけど、曲を作ってみたいなと思って、歌詞をずっと書き続けてます。楽器は全くできず、高校の友達とかに教えてもらいながら地道に作ってます。
―歌詞はどんな内容のものが多いんですか?
自粛期間中に書いたものなんですけど、眠れない夜に雨が降ってるのをただひたすら見ていたら、もうこの世にはいない、すごい大切な人のことが思い浮かんできて、その人のことを忘れたくないと思い、気持ちを書き始めました。そのうち、これは歌詞になるかもしれないと思って、高校の友達に送ったら、その子も同じような境遇にいたみたいで、曲調はこうしたらいいんじゃないとかすぐに提案してくれて。それからも、その友達と一緒に大切に作っていこうってやってます。
―では、今後の夢を教えてください。
役者を死ぬまで続けていくことです。そのために、映画だけではなくドラマや舞台、絵画だったりアート全般的に、もっと自由に表現できる場所を作っていきたいと思います。夢を持つ若い人や、私より下の世代の人たちにとって、やっぱりカッコいいと思える場所であってほしいので。自分のためにも、未来を明るくしていくためにも、そう思います。
―最後に、「ソワレ」をどんな人に観て欲しいですか?
今はご時世的に映画館に行くのも難しいかもしれないですけど、本当に今だからこそ観て欲しい作品だと思ってます。どこにぶつけていいかわからないような苛立ちや、もどかしさを持っている方、暗くて終わらない道を歩き続けてるように感じている方にも、希望の光を持てば、絶対に朝を迎えることができるということが、作品を通して伝えられたらいいなと思ってます。
Text & Photo: Atsuko Tanaka
「ソワレ」
出演:村上虹郎 芋生悠 江口のりこ 石橋けい 山本浩司
監督・脚本:外山文治
配給・宣伝:東京テアトル PG12+ (C) 2020ソワレフィルムパートナーズ
8月28日(金)よりテアトル新宿、テアトル梅田、シネ・リーブル神戸ほか全国公開