ティモスィー・ベッチャマンの個展「Hybrid」が、南青山の ニコライ バーグマンにて開催!日本画の技法を使い、花や植物を繊細なタッチで描いた作品を展示【インタビュー】

2020/07/30

ニューヨーク出身のブリティッシュアメリカンアーティスト、ティモスィー・ベッチャマン (Timothy Betjeman)の個展「Hybrid」が、南青山のニコライ バーグマン フラワーズ & デザインにて7月30日より開催される。丸の内のKEF Music Galleryでのデビュー展に続き、日本では第2回目の個展となる。今回の展示で披露されるのは、金箔や銀箔、天然顔料などの画材を駆使し、日本画の伝統的な技法を用いて、日本や北アメリカを原生地とする花や植物を描いた約10点の作品。

ベッチャマンは、シカゴ大学でビジュアルアートと哲学を学び、その後ロンドンのロイヤル・ドローイング・スクールにて修士を取得。そして文科省の奨学生として2018年に来日し、現在は東京藝術大学大学院で西洋と東洋の絵画技法の融合を研究しながら、アーティスト活動に勤しんでいる。

HIGHFLYERSは、構内に構えるベッチャマンのアトリエを訪れ、個展のテーマや、シカゴ、ロンドンでのアートシーン、日本画との出逢いや魅力についてなどを聞いた。

アーティストとしていい作品を作るために、常に自分のアートに投資するのは大切。作品に独自性を生み出すには、世間が良いと思うものではなく、自分が心の底からいいと思えることをやるべき

―展示のタイトルを「Hybrid(ハイブリッド)」にした理由を教えてください。

2つの種子を混合して作られた花をハイブリッドと言いますが、それに、僕がこれまでに学んできた西洋のアートと、日本の伝統的なアートの融合を掛け合わせて、このタイトルを選びました。

―今回は、モチーフに花と植物を選んだのですね。

日本にはいろんなスタイルの絵画があるけれど、今回の作品は日本画の技法を使って描いているので、日本画のモチーフとして昔からよく描かれている花や植物を選びました。でも、僕の父がガーデニングが好きだったこともあり、小さい頃から花や植物にはいつも触れていました。

―展示をやることになったきっかけは?また、展示が決まる前からこのシリーズは描きためていたのですか?

ある時、ニコライさんと仕事をしたことのある知人から、このギャラリースペースのことを聞いて、彼を紹介してもらったんです。ニコライさんはとても親切で、僕のアイデアを気に入ってくれて、展示をすることが決まりました。作品の半分くらいはショーが決まる前から描いていたもので、残りの半分はやると決まって描き始めました。

―ところで、ベッチャマンさんはニューヨーク出身なんですよね。小さい頃からアートが好きだったんですか?

ニューヨークのアッパーウエストで生まれ育ち、6歳の時にウエストチェスターに引っ越しました。その後も、高校はブロンクスにある学校に通ったので、都市と郊外を行ったり来たりしていました。父がマティスのリトグラフとか、プリントを集めていたので、家にはアートがたくさんあり、僕は小さい頃から絵をよく描いてましたね。

―その頃からアートに興味を持たれていたんですね。

絵を描くのは好きだったけど、学生の時はアーティストになりたいと真剣に考えていたわけではなく、高校生の頃は哲学に興味を持っていました。そして、シカゴ大学に進学し、哲学とビジュアルアートを専攻しました。入学当初は、数学も専攻していたけれど、ついていけなくて途中で諦めて。

―アートは主に何を学んだのですか?

ドローイングとビデオです。当時はデジタルビデオのテクノロジーが盛んになる少し前くらいで、ビデオの製作を学んだり、アニメーションも勉強しました。ペインティングも少しやりましたが、真剣に取り組み始めたのは、ロンドンに移ってからですね。

―シカゴ大学を卒業後、2年間の奨学金を受けて、ロンドンのロイヤルドローイングスクール(The Royal Drawing School London)に行かれたんですよね。

はい、学校ではドローイングをメインに、ドローイングと同じような手法を使ったペインティングもやりました。大抵は小さい作品で、外であまり時間をかけずに描いて仕上げることが多かったです。ところで、シカゴの学校でも、ロンドンの学校でも、僕はペインティングの具体的な手法や技術を教わりたかったんですが、それを教えてくれる先生がいなくて。「はい、どうぞ、好きなように描いてね」って画材だけ与えられて、完成した作品をジャッジされる感じでした。

―教えてくれる先生がいないとは、驚きですね!

コンセプチュアルアート(60年代から70年代にかけて世界的に行われた前衛芸術運動)以降、西洋の古い絵画における規律はだんだんと消えていってしまい、それを知る人も教える人も減っていってしまったんですね。今は、正しい手法、技術的なことを知ろうとする動きが少しは戻ってきているようですが。

―日本の学校では主にやり方など技術的なことを先に教わって、創造性は後から磨くという感じが多いように思います。

そうですね。でも、それはそれで問題なのかもしれない。最初に技術を徹底的に習うのがいいのか、創造性を大事にするべきか、どっちが良いのかはわからないですね(笑)。今、僕は東京藝大の修士過程で、日本画をメインに研究していますが、僕の教授は古いものから現代のアートにおける手法や技術を熟知している方で、やっと良い先生に巡り会えました。とてもありがたいです。

―それは良かったですね!日本画は描いていて楽しいですか?

日本画は画材を正しく使わないといけないし、規律とルールがあって、入り口としては狭いけど、自由に表現できる部分も多くあるから、たくさんの可能性が残されているので出口は広いと思います。そして、最初に大まかに作って、完成に向けて手を変えたり調整したりすることができる油絵に対して、日本画はデッサンの構想も、時間をかけて丁寧に、かつできる限りクリアーでシンプルなものでないといけないし、終わりの方で変えることができないので、最初の段階でいろいろなことをコントロールする必要があります。画材の顔料や、顔料を混ぜる為のにかわと水の分量によっても色味やタッチが変わりますし、その時の気温や湿度、使用する紙によっても違った反応が起きるので、とても繊細で、どのように仕上がるか毎回予想がつきません。でも、それが人の手を使って作られるアートの、真の美を醸し出す秘訣だと思います。

顔料や筆などの画材道具の一部

―ベッチャマンさんが日本のアートに興味を持ち始めたのはいつ頃だったんですか?

最初は「AKIRA」などの漫画から入って、それからもいろんなところから少しずつ影響は受けてきましたが、とても大きな衝撃を受けたのは、ロンドンのロイヤルアカデミーで観た歌川国芳などの浮世絵の展示と、大英博物館で観た春画の展示です。それ以前も日本の木版画などの展示を観たことはあったけれど、キュレーションや演出がいまいちだったりして、そんなに大きな感動がなかったんですよね。でも、その二つの展示を観て、日本画についてもっと学びたいと思い、勉強するようになりました。

―ロンドン、ニューヨークやシカゴのアートシーンはそれぞれいかがでしたか?

よく聞かれるんですが、ニューヨークに住んでいた頃は、アーティストとして活動していたわけではないし、アートより哲学の方に興味があったので、正直あまりわからないんです。シカゴのアートシーンはとても良かったですね。シカゴ出身のアーティストで好きなのは、60年代半ば頃に活躍したハリー・フー(Hairy Who)というアーティストのグループで、彼らが描くコミックタッチのような、ちょっとふざけた感じの、ハイとローがミックスした感じが好きでした。あと、シカゴ美術館は大好きでよく通ってましたね。世界に誇れる素晴らしい美術館なので、シカゴに行った際には是非お勧めですよ。そして、ロンドンのアートシーンも、当時は新しいスタイルが生み出されていて、その頃のニューヨークのアートより個人的に好きなスタイルが多く、いいと思いました。

ー他に好きなアーティストはいますか?

ウォルター・リチャード・シッカート(Walter Sickert)、デイヴィッド・ホックニー(David Hockney)、ルシアン・フロイド(Lucian Freud)などが好きです。

―最近は、描くこと以外ではどんな風にアートに触れていますか?

美術館やギャラリーに行ったり、本やネットでも作品を見て勉強して、自分に何ができるかを常に考えています。いろんなことに挑戦するほど、昔の画家たちがどうやって作品を作り上げていったのか、その工程を知りたくなりますね。

―それでは、競争率の激しいアートの世界ですが、アーティストとして長く活躍するために必要なことはどんなことだと思いますか?

う〜ん、わからないな、知ってたら教えて欲しいです(笑)。でも、やり続けることが大事なんじゃないでしょうか。あとは、アーティストとしていい作品を作るためには、他のことは我慢してでも、画材なども含め、常に自分のアートに投資するのは大切だと思います。もちろんお金をかけないと良いアートが作れないわけではないけれど、僕が本当に満足のいく作品を作れたと思った時は、画材にものすごいお金をかけた時でした。

多くのクリエイティブが溢れ返る世の中でアートに独自性を生み出すのは難しいと思いますが、独自性を見つけるためにできることやするべきことはどんなことだと思いますか?

何かを作る時、自分が本当に好きなものではなく、世間が好きそうなものの基準で考えないことだと思います。結局、自分が本当にいいと思うものは、他の人も同じように感じると思うんです。だから、独自性を生み出したいのであれば、他の人の意見には耳を傾けず、とにかく自分が心の底からいいと思えることをやるべき。本当にそう思わないのであればやらないほうがいいと思います。

―では、展示に来た人々に、ベッチャマンさんのアートを通してどんなことを感じて欲しいですか?

僕がこの作品を作るときに感じたことを感じてもらえたら嬉しいです。どの展示でも、いいと感じる作品、感じない作品とあると思いますが、僕の展示の作品の中にも、観た人に一つでも何か繋がりを感じる作品があるといいなと思います。

―最後に、ベッチャマンさんにとって成功とはなんですか?

アーティストとして、ずっと作品を描き続けていくこと。毎日作品に向き合っていたいですね。自分のアトリエを持てて、作品を作る意味を感じられて、僕の作品を見た人にも感動を与えられるような作品を作れたら、それが成功ですね。

Text & Photo: Atsuko Tanaka

 

HYBRID
期間:2020年7月30日(木)-8月13日(木)11:00-18:00
住所:東京都港区南青山5-7-2 Nicolai Bergmann Flowers & Design Flagship Store 2F