世界トップレベルのバーテンダー集団「SG Group」の鈴木敦が初プロデュース!大正モダンな特殊喫茶を彷彿させるバー「The Bellwood(ザ・ベルウッド)」が渋谷にオープン【インタビュー】

2020/07/23

東京・渋谷でカクテルバー「The SG Club」を運営している、世界トップレベルのバーテンダー集団「 SG Group」 は、 6月20日に、国内2店舗目となる「The Bellwood (ザ・ベルウッド)」を渋谷・ 宇田川町にオープンした。

「The Bellwood」 は、「CHIVAS Masters」世界 チャンピオンで、SG Groupのグループマネージャーを5年間務めた鈴木敦が初プロデュースしたバーである。ASIAʼS 50 BEST BARSで第9位にランクインし、「The Best Bar in Japan」 を受賞した「The SG Club」に続く話題の店として今、国内外で注目を浴びている。

店内は、明治末期頃の東京から始まり大正期に全国に普及した、当時のハイカラ好きな芸術家や文化人をはじめとする人達の社交場【大正モダンな特殊喫茶(カフェー)】を、現代の渋谷でカクテルバーとして表現している。当時の日本は、⻄洋文化が人々の生活に浸透しはじめ、和洋折衷のスタイルが街中に現れ、巷では“バーテンダー”や“コクテール(カクテル)”という言葉も出現しはじめた時代。その雰囲気を、わずかな資料や情報を頼りに、鈴木は自身の想像力とオリジナリティで「The Bellwood」を作り上げた。

上段:The Bellwoodの外観と内観 下段:左→右 モガリータ 1400円、 芋ろうに 1500円、超もおに 1300円、トリュフタマゴサンド(900円)とベルウッドオリジナルブレンドコーヒー(550円)

また、そうした時代背景をテーマにした「The Bellwood」では、“古き良きものの進化”を追求しており、珈琲や日本茶、カクテルをフロントバーで楽しめるほか、料理は渋谷の名店「Konel」の菊地シェフが監修。洋食をベースにした遊び心あるオリジナルプレートを朝9時オープンのモーニングから楽しめる。また、奥の小部屋には4席のみのカジュアルなカクテルペアリングを体験できるバーがあり、 1つの空間で2つの楽しみ方ができる空間になっている。

そこで、HIGHFLYERSはオープン間もない店舗に伺い、 プロデューサーの鈴木にこれまでの経緯や、自身の店、カクテルに対する想いを伺った。

NY、ロンドン、トロント、上海など、海外で活躍してきた経験や幼少体験を活かし、固定概念に捉われないユニークでオープンなバーを目指す

―この度はオープンおめでとうございます。この時期にオープンされて、今どのような心境ですか?

ようやく正式にスタートを切れて気持ちはワクワクしています。いろんなことにチャレンジするという意味で、僕はこの状況をポジティブに捉えていますし、このような状況でスタートするっていうのは、これ以上落ちようがないのでここからはのし上るしかないですからね(笑)。

―これまでもSG Groupではいろんな店のオープンに関わってきたと思いますが、一から自分でオープンするのは何か違いがありました?

一から全然違いました。これまでのSG Groupの店は全て、ご存知の通り創業者の後閑信吾が先頭に立ってコンセプトなど色々なアイディアを出して、それを具現化していく形でした。そこでの私の主な役割は現場のマネージャー業でしたが、今回はゼロから自分でコンセプト作りやデザインの提案、メニューデザインやチームのマネージングもしたのでこれまでとは全く違う経験ができました。

―いつ頃から自分の店を持ちたいと思っていたんですか?

高校を卒業してバーテンダーを始めた頃から、いつか自分の店を持ちたいなと思っていましたが、実際本気で考え始めたのは4年前ぐらいです。6年前に後閑に誘ってもらい、上海の「Speak Low」にヘッドバーテンダーとして渡ったとき、それまでイギリスやカナダなど海外を転々としてきた自分は、最後にアジアでちゃんと結果を残して、それを手土産として日本に持ち帰って何かできたらいいなと考えていました。それと、昔から35歳ぐらいには自分でお店を出したいと漠然と思っていて、その年齢が近づいてきたっていうのもあったんだと思います。The SG Clubがオープンするぐらいのタイミングで、あともう少しで自分も35歳だなと思って、結構具体的に店のことを考え始めたり、そういったことをパートナーの後閑に話してみたりというのもありながら、ようやく36歳でオープンできました。

―できあがって、後閑さんから何か意見はもらいました?

準備中も色々相談をさせてもらって、アドバイスもたくさんいただきましたが、完成した時は、「かっこいいお店ができたね」って 喜んでくれました。今でも凄く協力してもらってます。

―お店のコンセプトは「大正モダンな特殊喫茶(カフェー)」ですよね。イメージはどのように膨らませたんですか?

お店もそうですが、ファッションやカルチャーも、もともと少し古いものが好きなんです。日本のバーの歴史を遡ると、発祥は横浜とか神戸などの港町で、海外から来たバーテンダー達にバーテンディングを教わった日本人のバーテンダー達が、ホテルで海外のゲストをもてなしたのが始まりなんですね。その後、日本人バーテンダーの方達が街のバーのカウンターに入ってお酒を振舞い始めたのが明治末期から大正時代くらい。その時代にカフェーって呼ばれる特殊喫茶ができ始めて全国に普及してくんです。僕は、当時カクテルを振る舞っていたバーテンダーたちの姿が凄くかっこいいなって思って、その時代にとても魅了されていました。

―でも、その時代の写真や資料ってなかなかないですが、どうされたんですか?

そういった時代背景を今は見ることはできないんですけれども、数少ない資料を色々読み漁ったり、その時代を凄く掘り下げている洋酒ライターさんの記事を読んだりして、僕なりに咀嚼して形にしていきました。 さらにそこに何か面白さを付け加えたかったので、最終的に二つのコンセプトを盛り込みました。もう一つのコンセプトは、僕の幼少時代に遡って、 ショップカードに書いてあるように、和名でこの店を「鈴木商店」と呼んでます。

—鈴木商店ですか。

鈴木商店のコンセプトは、「元々100年前にあった駄菓子屋さんを改装して作った、洋酒を扱うバー」です。駄菓子屋さんて、放課後にみんなで行って駄菓子を買って、喋って遊んでた場所ですよね。それって子供たちの社交場だったんじゃないかと。僕が小学生の頃通っていた駄菓子屋さんは、奥がその店のおばあちゃんの自宅で、入ると小さいテーブルと鉄板があって、そこを友達みんなで囲んでもんじゃを食べていたんです。そしてその奥の部屋は、たまにのお小遣い日に、「今日ちょっともんじゃ行こうぜ」っていうような特別な場所でもあったんです。つまり、駄菓子屋さんっていう一つの空間には二つの社交場があって、その幼少時代の個人的体験をここに反映させたくて、この店にも奥に個室を作りました。

—個室は少し小上がりになっていますね。

部屋の扉をバーカウンターの内側よりにして小上がりの演出をしたのは、当時の駄菓子屋でも小上がりを上がっておばあちゃんの家でもんじゃを食べるみたいな特別感があって、そこを体験してもらいたいと思って考えました。 「そこ入っていいのかな?」みたいな感覚の中で、ちょっとした特別感を楽しんでもらうのもコンセプトの一つにしているこの部屋では、カクテルペアリングを体験できるようにします。それと、古き良きものを様々な形で進化させながら残していけたらいいなっていう想いもあるんです。ここでこんな風に駄菓子屋さんの話をしなかったら、何も残らず消えていってしまうかもしれないけど、僕なりに解釈しながらこういった形で残していけたら、小話の一つのネタにもなりますし、文化としても残せるなら、やる意味があるのかなと思います。

バーの奥にある個室

―ところで、後閑さんとは長い付き合いだそうですが、後閑さんにはない、鈴木さんならではの部分はなんだと思いますか?

それはたくさんありますよ(笑)。でも、純粋にキャラクターじゃないですかね。後閑信吾ってキャラクターは、唯一無二で彼しか持ってないのと同じように、鈴木敦っていうキャラクターは、僕しか持ってないものだと思うんで。それは何なのかって言われたらまた難しいんですけども、今までいろんなところを旅してきた経験だったり、見てきたもの、体験してきたものが、今一人の人間として出てると思うので、そこは僕ならではの部分だと思います。あとは育ち柄、基本的にやっぱり下町気質なところでしょうか。

―今までの鈴木さんのキャリアもお聞きしたいです。海外での活躍は、アメリカはニューヨークから始まって、イギリスやカナダなど転々とされてきましたね。きっかけは?

海外に行く前は、日本で7年ほどバーで働いて、きっかけになったのは海外のアーティストが来日するようなライブハウスでバーテンダーをしていた時に、毎晩彼らがライブを演奏し終わるとバーに飲みに来るんですね。でも、当時僕は英語が全然喋れなくて、彼らと話したいのに話せない、でも外国人のゲストも楽しませたいと思い、そこから海外に興味を持ちました。それでニューヨークに渡って、たまたま運良く仕事を始めたのが「エンジェルズ・シェア」というバー。そこに当時いたのが後閑でした。

ー当時の後閑さんはどうでした? その時代凄く怖かったってご自分でもおしゃってましたが。

尖ってましたね。僕と同世代でバリバリやっていて、英語もペラペラ流暢に話しながら接客して、しかもニューヨークのバーでマネージャーをやってるってすごいなって、ただそれだけで本当に強い刺激を受けました。僕は、怖いという印象より、彼みたいな人がいるんだったら、僕もきっと頑張ればそういう風になれるって思ったんで、必死に食らいついていきましたね。英語も話せないし、海外の人はどういうお酒を好んで飲むのかも知らないし、勝手も全然違う。どう自分が闘えるのか、毎日必死だったので、あっという間に過ぎた1年半でした。

奥の個室内のバーカウンター。SG Groupと大手酒造3社が共同開発した「The SG Shochu」でつけた梅酒もある

—その後はロンドンやトロントにも行かれましたね。

ロンドンもカクテルの歴史で言うと、古い歴史があって素敵なバーもたくさんあるんです。在住中は一軒のバーで働かせてもらいました。その後、自分にとって未開の地に行きたくてカナダを選びました。どういうバー文化が起きてるのかもわからなかったですし、そこでちょっとゼロから開拓して、凄くなってやろうみたいな野心もあって、トロントに行ったんです。

―トロントのバー文化はどうでした?

面白かったですよ。また全然違う生活環境でスタートして 、一番最初にびっくりしたのが、バーが思ったよりはるかに少なかったこと。面接をいくつか受けたんですけど全然採用してもらえず、とにかくまずはどんなお店でもいいから、カウンターに入ってそこから実力で突破していこうと思いました。結局「Kanji」っていう日本人の誰もいないカナダ人経営のお寿司屋さんのバーテンダーとして採用してもらい、働き始めました。しばらくして同僚から、毎年カナダで開催されるローカルのカクテルコンペティション がトロントであると情報をもらったんです。

—トロントで初めてコンペティションに出場されたんですね。

それまでコンペティションに出たことはなかったんですけど、これはチャンスだと思って参加してみたんです。そこで初めてローカルのバーテンダー達を見て、意外とたくさんいることを知りましたね。その大会で、優勝は逃しましたが、決勝の10人に残ることができました。アジア人も、日本人のバーテンダーもほとんどいなかったので、ちょっと珍しがってもらえて、当時はジャパニーズバーテンディングが海外で流行っていたのもあってか、結構いろんな人に興味を持ってもらえました。 それがきっかけで沢山のバーテンダー仲間と出会い、職場も「Kanji」から「トロントテンプランスソサエティー(Toronto Temperance Society)」という会員制のバーで働くことができました。それが2012年くらいで、カナダには2年滞在しました。

―ニューヨーク、ロンドン、トロント、上海と、バーを通してそれぞれの都市をどのようにご覧になっていましたか?

ニューヨークは、とにかく全てが早く動いていて、いろんなカルチャーがミックスされていて、あんなに小さいマンハッタンとかブルックリンから世界中の流行が生まれるって、やはり凄く力強い街だと思いました。ロンドンは歴史を感じる街。ベルウッドのコンセプトや日本の歴史を調べるようになったのは、実はロンドンがきっかけだったんですよ。バー文化もそうですけど、国の歴史を色々考えさせられたのはロンドン時代です。トロントは凄くのんびりなんで、ニューヨークみたいな速さはないんですけども、みんな人が良くて真面目な人が多いです。勉強熱心な人がすごく多かったですし、バー文化、バーのことについて色々考えさせられたのはトロントですね。上海はインターナショナルでスピード感も凄くあって、ニューヨークとはまた違った力強さのある、これからもっと楽しみな街ですね。

―海外での経験を経て、これから日本のバー文化をどうしていきたいと考えていますか?

どうしていきたいかよりは、自分に何ができるかを考えてます。いろんな国で様々なバー文化を体験してきて思うことは、日本にバーのバラエティがもう少し増えて欲しいのと、もっとより多くの人にバーを楽しんでもらいたいと思ってます。ベルウッドが朝からオープンしてるのは、そういう想いもありますし、ロケーションも一階で入り口のガラス面を広くとっていて、外からもしっかり中が見えるのもそういったところからで、間口を大きくすることによって、 より多くの人にバーを知ってもらうというきっかけになったら良いなという願いを込めてます。

―では、鈴木さんにとって成功とはなんですか?

まだ成功したことがないのでわかりませんが、成功って誰が決めるものでもないと思っていて、自分で成功したって思った時点で色々と止まっちゃうと思うんですよね。それよりチャレンジしていくことで、それに対して今回のチャレンジはうまくいったな、じゃあこれを次はもっと改善させて面白くしていこうみたいなことで、そのとき一つ成功したかもしれないけど、それは終わりがないことで、どんどん挑戦し続けることが成功に結びつくことなのかなと思ってます。

―最後に、これから実現していきたいことを教えてください。

たくさんありますが、まずはこのお店がオープンしたばかりなので、ベルウッドを通じて、バーをもっとより多くの人に知ってもらって、楽しんでもらうことですね。そして、バーという場所を一つの固定概念ではなく、色々なイメージが膨らむ面白い場所にすることを実現させたいです。

 

Interview & Text: Kaya Takatsuna / Photo: Atsuko Tanaka

The Bellwood
住所: 東京都渋谷区宇田川町41-31
営業時間: 日曜〜木曜 9:00-0:00 金曜・土曜 9:00-2:00 (当面の間月曜日定休)
TEL: 03-6452-5077
Facebook: www.facebook.com/thebellwood 
Instagram: www.instagram.com/the_bellwood/