バンクシーの展覧会「BANKSY GENIUS OR VANDAL?」が開催。世界中のアートコレクター達から集められた70点以上のオリジナル作品が横浜に集結

2020/03/24

イギリス・ブリストル出身の匿名ストリートアーティスト、バンクシーの展覧会「BANKSY GENIUS OR VANDAL? (バンクシー展 天才か反逆者か)」が3月15日より横浜アソビルで開催されている。

90年代初期からグラフィティ界で活動を始めたバンクシー、その正体は20年以上経った今も謎に包まれたままだが、社会問題をテーマに、ダークなユーモアを含めたアートやエピグラムを世界中のストリートに描き、常に人々の関心をさらってきた。ストリートアート以外にも、キャンバス作品等の制作はもちろんのこと、イギリスに期間限定で“憂鬱な王国”「Dismaland」やパレスチナにホテル「The Walled Off Hotel」をプロデュースしたり、ドキュメンタリー映画「Exit Through the Gift Shop」の監督を務めたりと、活動は多岐に渡る。

今展示は2018年にモスクワでの開催を皮切りに、マドリードやリスボン、香港などの都市を巡回し、今回横浜へやってきた。開催を楽しみに待っていたファンも多いようだが、海外での展示に訪れた観客の数は100万人以上と言うのだから、バンクシーは世界が誇る人気アーティストだというのがわかるだろう。

展示会場には、世界中から集められた70点以上の絵や版画、立体オブジェクトが、「CONSUMPTION(消費)」、「POLITICS(政治)」、「WAR(戦争)」など7つのテーマ別に展示され、ダークで怪しげな演出が謎多きバンクシーの世界観を見事表現している。

HIGHFLYERSはプロデューサーのアレクサンダー・ナチケビアを取材し、展示をプロデュースすることになったきっかけや、苦労した点、バンクシーの素晴らしさについてなどを聞いた。

バンクシーは作品を通して、問題の表側だけに目を向けるのではなく、奥深く知ることの大切さを教えてくれる

―開催おめでとうございます。まずは、アレックスさんのバックグラウンドについて教えていただけますか?

私の会社は現在創業15年ほどで、以前はロシアやヨーロッパをメインに、コンサートのプロモーション業を請け負い、次第にアート展などのプロデュースもするようになりました。ハリーポッターやゲーム・オブ・スローンズ、アート・オブ・ブリックなど、コマーシャルよりなアート展から、(ワシリー・)カンディンスキーや(アンディ・)ウォーホル等有名アーティストの作品展など、これまで様々な展示を手がけてきましたが、バンクシーの展示はいつかプロデュースしてみたいとずっと思っていたんです。

―あなたがバンクシーの作品を初めて観たのは2006年だと伺いました。

その前にもストリートに描かれたアートを目にしたことはありましたけど、作品展としては、2006年にLAで開催された時(「Barely Legal」)に観たのが初めてでした。ストリートアーティストのイメージが強かったので、その展示で多くのキャンバスに描かれた作品を目にして、びっくりしましたね。同時に、彼はとても重要なコンテンポラリーアーティストであることを認識しました。それから私は世界のどこに行っても、彼の作品を探して、見つけたら写真におさめるようなったんです。ストリートの作品はすぐに消されてしまいますからね。

―この展示でモスクワ、マドリードやリズボン、香港などの都市を巡回されてきましたが、観た人からはどんなフィードバックを得ていますか?

こんなに才能のある、真面目なアーティストとして捉えていなかった、コンテンポラリーアーティストではなくストリートアーティストだと思っていたという声をよく耳にしました。ストリートアートに対してリスペクトを抱いてないという意味ではなく、バンクシーがキャンバスにも作品を描くと思っていなかった人が多く、驚いていたようです。展示作品を通して、彼のエネルギーやメッセージ、インパクトを体感し、多方面において有能なアーティストであることを伝えることができと思います。

Ratシリーズの中でアレックスの一番好きな作品「Gangsta Rat」を前に

―想像していたより規模が大きく、とても見ごたえのある展示でした。作品を集めるのにはどのくらいの時間がかかりましたか?

1年くらいですね。最初にモスクワでやった時は本当に大変でした。ロシアに対していい印象を持っている人は少なかったし、ヨーロッパの国やアメリカとは政治的な問題もあったから、多くのコレクターがなかなか作品の提供をしてくれなくて。ニューヨークに住むあるコレクターには、二度心変わりをされて、結局1週間に3回会いに行く羽目になりました。そのように色んな苦労がありましたが、おかげでたくさんの作品を集めることができ、モスクワでの展示には3ヶ月で30万人もの人が来てくれました。同じ頃、サッカーのワールドカップがモスクワで行われていたので、その取材に来ていた各国のメディアがバンクシーの展示も取材しに来てくれて、注目を浴び、他の国での開催も決まったんです。それからサンクトペテルブルク、マドリード、ミラン、リズボン、ラスベガス、香港を周り、今回横浜での開催が実現しました。

―今回の作品展が今までで一番大きいと聞きましたが、それは規模的に、という意味なのでしょうか?

バンクシーの作品展として世界を回ってきた中では一番大きいです。しかし大事なのは、展示の規模より作品の価値です。そして、多様なトピックをカバーできていることがこの展示の重要なことだと思っています。

貴重な作品の数々。左上:左→右  Moneky Queen / Monkey Parliament / Turf War  右上:Napalm  右下:Shop Till You Drop 左下:左→右 Bomb Love / Happy Choppers / Wrong War

―先ほど作品を集めるのにとても苦労されたとおっしゃっていましたが、他に大変なことやチャレンジしたことなどありましたか?

私たちはバンクシー自身や、彼の作品、スピリットに敬意を払って、この展示のプロデュースをしています。私の個人的な意見ですが、バンクシーは今アーティストのキャリアにおいて、とても重要な時期にいると思っています。彼の最初のキャリアステップは、ストリートからギャラリーアーティストに成長して、作品が何百万ドル、何百万ユーロで売れるようになった頃。そして今は、ギャラリーからミュージアムのアーティストに成長するセカンドステップの段階にいると思います。と言うのも、私がバンクシーの作品に携わってきた過去3年の中で、彼の作品のコレクターに変化が出てきているんです。モスクワでの展示が行われる前は、彼の作品を買うのは投資家達でした。それが今は、コレクションとして作品を買うアートコレクターたちに変わってきています。私たちが貢献できることは本当に微々たることではありますが、今ここでキャリアステップの手伝いに成功することができれば、彼の作品は今後文化遺産の一つになると思いますし、逆に成功しなければ、20年後には「バンクシー、誰だったっけ?」ともなりうるので、バンクシーにとっても、私たちにとっても、これは大事な挑戦なのです。

―素晴らしいですね。では今回の作品の中からアレックスさんが特に好きなものを教えていただけますか?

たくさんありますが、インパクトの大きさで言うと、「Girl With Balloon」と「Love is in the Air」はバンクシーの代表的な作品であるので大好きです。あとはケイト・モスの作品もとてもユニークでいいですね。他にもいい作品はたくさんあるし、どれもとても大好きではあるけれど、自分の家に飾るかと言ったらまた別の話ですね。家で楽しんで眺めるにはすごくパワフルだし、メッセージや放つオーラがとても強いですから。

左:Girl With Balloon 右:Love is in the Air

―作品に込めたメッセージを解釈するのに、考えさせられるものもたくさんあります。

彼の作品は、私たちにとっても大事なテーマやトピックを風刺しているという点ではユニバーサルだけれども、同時にパーソナルなものでもあります。今の時代、多くの人々は物事についてあまり深く考えないようになりましたよね。例えば、ニュースのヘッドラインは目にしても、一つひとつの記事を読んでその内容を深く理解しようとはしない。また、世界中で常にいろんな問題が起きているから、多くを見過ごしてしまいがちですが、彼はそれらを独自のユニークな視点で切り取り、私たちのハートに語りかけ、問題提議をしてくる。私たちはそれを見ることで、何かをしなくてはと改めて考えさせられるんですね。表側だけに目を向けるのではなく、奥深く知れば、いろんな考えが見えてくるし、もっと興味を持てるようになる。そしてそういう経験をするのはとても大切なことなんだと、バンクシーは作品を通して教えてくれるのです。

―確かにそうですね。メッセージ性の強い作品が多い中、ほっこりする作品もありました。二人のおばあちゃんがセーターを編む「Grannies」に描かれたユニークなメッセージには思わず笑ってしまいました(笑)。

あれは可愛いし、面白いし、いいですよね(笑)。バンクシーは、とても洗練されたユーモアを持っていて、それが彼の大好きなところでもあります。彼の作品はどれも好きだけど、中でもストーリー性のある作品が好きです。例えば「Very Little helps」もそうですが、作品に描かれているスーパーのビニール袋をパンツに変えた作品「Pants」を難民支援のためのチャリティ・オークション用に出したりと、そういった裏側にあるストーリーがいいなと思います。

左:Grarnnies  右:左に展示されているパネルが 「Very Little helps」。右がオークションのために制作した作品「Pants」。チャリティを企画したジャーナリストのサイモン・ハッテンストーンは、ダニエル・デイ・ルイスやジョアンナ・ラムレイなど有名人たちに呼び掛け、彼らのパンツを出品してくれるように頼んだ。その経緯について、彼は「難民には生活必需品を買う金がない。なかでも不足しているのは下着だ。それで、有名人の下着をオークションに出すことで、このことに対する関心を集めようと思ったんだ」とカーディガン紙に語っている。この時のバンクシーの作品の入札開始価格は3万ポンド。星条旗のカラーに塗られたパンツをポールに掲げることで、難民が直面している物質的な困難だけでなく、政治亡命が認められずに紛争地域へ強制送還される危険性にも触れている。また、メモには「清潔なパンツが見つからなかったので、このキャンバスがパンツの代わりになってくれることを願っている」と記されていた。

―ところで、アレックスさんは日本には以前も来たことがあるのですか?日本のアートシーンについてはどう思いますか?

日本には前にも来たことがありますが、街を見て回る時間はなかなか持てません。私が知っている限り、日本人はアートに対してとても敏感ですし、目が肥えていますよね。だからみなさんに満足してもらえるように、自分たちにとっても今まで以上に理想的な展示を作り上げなければいけませんでした。なんとか形にできて、90パーセントは満足してると言っていいかな(笑)。

―ご自身もアートをコレクションされているのですか?日本人のアーティストで好きな方や今後仕事してみたいと思う方はいますか?

アートはコレクションしていますが、日本人のアーティストの作品は持っていないです。草間彌生さんや村上隆さんの作品展は観たことがあり、本当に素晴らしかったです。今は世界的にコンテンツに欠如していて、例えば映画で言うと、いいアイデアがないから、新しいものではなく何かのリメイクばかりが作られていますよね。展示のビジネスにおいても同じことが言えるので、良いコンテンツを作って展示ができる器量があれば、その人は世界的に求められるアーティストになると思います。バンクシーはその一人ですが、日本人にも素晴らしい才能豊かなアーティストが多いですし、彼らと今後一緒に何かできたらとても嬉しく思います。

―それでは最後に日本のバンクシーファンにメッセージをください。

この展示はバンクシーのことを好きな人にはもちろん、あまりよく知らない人たちにも楽しんでもらえるように作りました。なぜなら、バンクシーはストリートアーティストで、ストリートに描いては姿を消したり、警察と揉める厄介者とか、いいイメージを抱いてない人が多いからです。展示のオーディオガイドは、バンクシーにゆかりのある人や、彼と一緒に仕事をしてきた人から得た話に基づいて作っているので、是非それを聞きながら作品を観て欲しいですね。インターネットなどでバンクシーの作品を目にしたことがあっても、彼の作品が本当に好きだったり、興味があるならば、本物の作品を実際に観て彼のエネルギーや魂を感じて欲しいです。これまでとは違う経験になると思います。

Text & Photo: Atsuko Tanaka

 

『BANKSY展 GENIUS OR VANDAL? バンクシー展 天才か反逆者か』
期間:2020年3月15日(日)〜9月27日(日)  ※予定となります。
会場:アソビル(神奈川県横浜市西区高島2‐14‐9 アソビル2F)
主催:BANKSY~GENIUS OR VANDAL?~製作委員会
企画製作:IQ ART MANAGEMENT CORP
オフィシャルホームページ: https://banksyexhibition.jp