m-floがデビュー20周年を迎え、9枚目のアルバム「KYO」をリリース。パラレルワールドを交錯して再び集結した3人の、KYOに至るまで【インタビュー】
2019/12/19
常に音楽の最先端を行き、クリエイティブなスタイルや発想で人々を魅了してきたグループ「m-flo」。メジャーデビュー20周年を記念して、9枚目となるアルバム「KYO」を11月6日にリリースした。
5年ぶりに出した今回のアルバムのテーマは、宇宙を超えて存在する別次元の「パラレルワールド」で、タイトルの「KYO」には、響や京、共、境、強、狂、今⽇など、様々な意味が含まれている。また、J Balvinや、JP THE WAVY、MIYACHIといったバラエティに富んだ豪華ゲストを迎え、m-floワールド全開の楽曲が凝縮された一枚に仕上がった。
99年に「the tripod e.p.」でメジャーデビューしたm-floは、オリコン初登場で9位を記録。セカンドアルバムを出した後、LISAはソロ活動に専念するためグループを脱退。その後、VERBALと☆Takuの二人は、毎回異なるゲストボーカルを迎える”Loves”シリーズとして、MINMIや、Crystal Kay(クリスタル・ケイ)、BOA、melodyなど数多くのアーティストとのフィーチャリングを実現させてきた。その後、二人はファッションやアート、音楽において個々の活動に力を入れながらも、m-floとしての活動も続け、そこに2017年にLISAがm-floに復帰。めでたくオリジナルメンバーで20周年を迎えるに至った。
HIGHFLYERSは、m-floをインタビューし、「KYO」のコンセプトやフィーチャリングアーティストについて、20年間の活動を通して感じること、音楽業界の変化や成功についてなどを聞いた。
20周年記念ライブでは、大変だったけど、ファンと一緒に時間を過ごせて、すごく印象に残ってる。m-floがライブでやりたかったことを、ようやく一番理想に近い形にすることができた
―「 KYO」のコンセプトはパラレルワールドとのことですが、なぜそうしたのかを教えてください。
VERBAL:デビューしてからそれぞれ色々なことがあった僕たちが、再び一緒に3次元で音楽を作るというので、“パラレルワールドが交差してこのアルバムが出来た“というコンセプトが降ってきたんです。タイトルの「KYO」という言葉は漢字にすると、響、今日、狂、協とか、色々な意味を持つものがあるし、そういうのを全てマッチングさせてパラレルワールドをテーマにしたらいいんじゃないかなと思って。でもLISAに言ったら「何のこっちゃ」と言われた(笑)。
LISA:何の説明もなく、「VERBALが“きょう”って言ってる」って聞いて、「アイツ忙しすぎて頭おかしくなっちゃったから、とにかく休ませてやってくれ」って言ったの(笑)。最初は何かの間違いかと思ったんですけど、☆Takuが私に一生懸命説明をしてくれて。本人も意味があまりわかってなかったみたいだけど、不思議なことに曲ができてしまえば、「KYO、スッゲー!」ってなって、「サイコー、ジーニアス!クレイジー」って言いながら、今ではm-floの中で私が一番KYOを愛してる。
―そうなんですね(笑)。皆さん、音楽を作ったりとてもクリエイティブなことをされていますが、異次元や別世界にいる感覚って実際に体験されたことはありますか?
☆Taku:僕は今のところないですけど、LISAはしょっちゅうですよね。別次元の人ですから。
LISA:私はいつもそんな感じなのよね。なんかちょっとおかしいかもしれない。
☆Taku:VERBALは「STRSTRK」という曲で、「俺 異次元 未来を見て来た唯一のHUMAN 未来の中年22世紀少年」って言ってるよね。
VERBAL:そうですね、映画にも「パラレルワールド」とか「インターステラー」とかありますし、アニメにも☆Takuがよく観てるものに「リック・アンド・モーティー (Rick and Morty) 」というのがあって、そういうのにインスパイアされてきました。あと、たまに人と話していてハモらないと感じる時って、自分のマインドが異次元にあるからじゃないかと勝手に妄想することがあるんですけど、そのアニメを観ると、異次元やパラレルワールドって本当にあるのかもって、ちょっと思ったりしますね。
―では、アルバムのロゴについてお伺いしたいですが、これはいろんな“きょう”の漢字のパーツを組み合わせたものなんですか?
☆Taku:そうです。VERBALがいろんなものを混ぜ合わせたら面白いんじゃないかって言って、デザイナーと話して作ってもらった。最初はなんか家紋を作りたいって言ってたんだよね?
VERBAL:僕、家紋マニアなんです。家紋って4、500年前から全然変わらなくて、ジオメトリーでかっこいいなってずっと思ってて。海外に行くと、日本語とか韓国語とかってカッコいいって思われてますしね。僕たちの間で使っている言葉に“m-flo語”というのもあるんですけど、「響」っていう漢字をベースに、実在しない漢字を作ったら家紋ぽくてかっこいいかなって思って。
―m-flo語というのは、どういうものなんですか?
☆Taku:英語と日本語をちゃんぽんしたもの。
VERBAL:僕たちが阿吽の呼吸で、スタジオでレコーディングしてる時とか、それを言えばわかるような言葉。
―その中でも特によく使う言葉はありますか?
LISA:会話の中で自然に出てくる言葉なので意識はしてないよね。
―特に今流行ってる言葉があるというわけではないんですね。
LISA:今は、やっぱりKYOじゃない?KYO、素敵!
―J Balvinさんや、JP THE WAVYさん、MIYACHIさんと、今回のフィーチャリングアーティストのセレクションも、m-floさんらしいセンスでとても素敵だと思いましたが、どのように選んだのですか?
☆Taku: MIYACHIさんは、元々「WAKARIMASEN」が大好きで、僕がやってるblock.fmの番組でゲストに来てもらって、そこから仲良くなって。それで「Sheeza」という曲ができた時に、MIYACHIさんに歌ってもらったら面白くない?ってなって、聞いてみてやることになった。
VERBAL:Balvinさんはサマソニの楽屋で会って、どさくさに紛れて曲をやろうよって言ったんです。聞くのはただだしって感じで、アプローチしたら本当にやることになって。WAVYさんは、LISAも前からすげぇカッコいいってずっと言ってて、そうしたらたまたま僕がやったイベントでばったり会ったんで、一緒に曲をやりたいって声をかけてみたら、快く受けてくれました。
―先日行われた20周年記念ライブでは、VERBALさんがファンの反応を見て、予想以上にすごいとおっしゃっていましたが、m-floがこれまで愛され続けてきた理由はなんだと思いますか?
☆Taku:逆にそれは教えて欲しいです。それって例えば「何で私は自分の旦那に愛されてるのかしら?」って思うのと一緒ですよね(笑)。仮にそういうことを思ってやってたらいやらしいと思う。自分らが好きな音楽で、今の日本という難しいところでやり続けられていて本当にラッキーだと思うので、どうして愛してくれるのっていうこと以上に感謝の気持ちが強いですね。自分たちは自分らしいことをやり続けてきて、それを聴いてくれることはもちろん嬉しいけど、愛されようと思ってやっているわけではなくて、自分らが愛することをやってきただけです。
―今の流行を意識して作ることはあまりないですか?
☆Taku:面白いなと思うものが好きなんですよ。それがたまたま流行ることもあれば、全然流行らないこともある。僕らはアーリーアダプター(流行に敏感でいち早くそれを取り入れる人のこと)だから、そういう新しくて面白いものが流行ったらいいなと思って作ってる。
VERBAL:自分が「ここを感じて欲しい」って狙った作ったところは、ファンの人達には全く刺さらないようで、いつも違うところに刺さってるみたいです。デビューしてすぐの頃、僕はヒップホップ一筋な感じで、「俺のリリックを聞け!」みたいなところがあったんですよ。でもお客さん達には全く違うところがウケてて「なるほど、m-floはこういうことなんだ、僕個人にもそういうところが求められてるんだ」って勉強になりました。今でも、自分たちがめちゃくちゃ良いと思う曲を、お客さんも同じように思ってるかはわからないので、何がいいと思われるかは掴みきれてないですね。
☆Taku:他のアーティストをプロデュースする時は、こうやったらファンが喜ぶだろうとか客観的に見れるんだけど、それが自分らだとすごい難しい。だから愛されてる理由を教えて欲しい。
―お互いを見て、それぞれこの20年でどのように変わったと思いますか?
☆Taku:音楽シーンが変わったから、やらなきゃいけないこととか、自分らが変わったっていうのはある。昔は音楽を作ったら、それを売ってくださる方が他にいたけど、今は音楽を作ったらそれをどこに発信していくとか、音楽を作るためにどうやって予算を捻出するかとか、クリエイティブを作るためにどうやって実現させられるか、どういう人たちと組むかとか、そういったことまでを自分達で考えるようになりました。
VERBAL:僕は、昔「俺のリリックを聞け」ってやってた時のような一方的だったものから、今はファンの人が何を求めてるのかを考えるようになりました。例えばこの間の20周年ライブのセットリストを作る時も、みんなで相談して、ここでこの曲をやった方がいい、これらの曲が続くと盛り下がっちゃうかもとか、ここで照明はこうした方がいいかもね、とか話し合って。チケット販売にしても、タイミングはどうした方がいいとか話したり。それってアーティストがする話じゃないかもしれないけど、ステージでエンターテインするのはもちろんのこと、チケットの買いやすさとかも含めて、全方位で盛り上げていこうっていう気持ちになってるのが、20年前とは違うかなと思います。あとはLISAが今まで以上に包容力があって、会場を囲んでる感じですね。
―それは観ていてすごく感じました。では、それぞれ人としての変化の部分では、感じることはないですか?
☆Taku:あまり変わったって言われないです。むしろまんまって言われることの方が多い。でも、一人で背負うのはやめた。「リサ〜、バーバル〜」って頼るようになった。
―前はあまり助けを求めることができなかったんですか?
☆Taku:なんか自分でやらなきゃっていう変な責任感が強かった。その責任感いらないなって気づいたけど、結局今もあたふたするし、パニクるし、全然大人になれてない。
LISA:私も全然変わってないって言われる。LISAはLISAだよねって。でも、諦めるということをクールにできるようになったし、自分の居場所を知ったり、立場を見極められるようになった。昔よりもっとリスペクトを持って、ここは自分の出番じゃないなって思ったら素直に引き下がる。前より自分のことや、自分ができること、m-floに貢献できること、反対にできないことがわかるようになった。できない時はできないってはっきり言うし、できることなら喜んでやる。その方が自分も楽だし、お互い嫌な思いをせずにいられる。私はどんな状況でも、m-floが最高であり続けて欲しいし、そのためには自分の居場所を知るのは大事。だから今はとても楽よ。m-flo以外の仕事もたくさんあるし、本当に毎日幸せ。彼らが何をやろうと、どこへ行こうと心の底から応援する。私はどこにも行きやしないし、いつでも私が必要な時は声をかけてくれればすぐに駆けつける。
VERBAL:LISAが言ったように、自分の居場所っていうのは前よりもっと明確にわかってきたので、気になるからって全てをやる必要はないんだっていうのはありますね。あと、自分がどう感じようが、客観的に見てこの方がグループにとっていいと思ったらやろうっていうのは前より強くなって、そういうのがグループ内に浸透していて前よりやりやすくなりました。先日のライブは、実は何気にチームもこじんまりしてDIYな感じだったんですけど、あんないい感じのステージになって、いろんなことが頭の中で駆け巡って。各々がやることをやってきて、突っ走れて、本当に幸せだなって思いました。
―素晴らしいです。では、これまでのm-floの活動を通して、嬉しかったことや大変だったことなど、一番印象に残っている出来事を教えてください。
☆Taku:この間の20周年ライブですね。僕的に、m-floがライブでやりたかったことを、音的にも、演出的にも、ようやく一番理想に近い形にすることができた。大変だったけど、ファンと一緒に時間を過ごせて、すごく印象に残ってますね。
VERBAL:僕も同じくで、あのライブがすごく印象的でした。今までフェスとかに出た時は、盛り上げるのに一生懸命だったり、開催地までの移動が大変とか、結構いっぱいいっぱいだったんですけど、この前のライブでは、始まる前まではせっせとしてても、始まったら一曲一曲に対して、「この曲、☆Takuの実家で作ったな」とか、「LISAとこういうこと言いながら作ったな」とか、いい意味で一曲がすごく長く感じて。あと、ファンの人の顔が目に飛び込んできて、「よく来てくれてるこの人は、m-floのライブで出会った人との間に子供が生まれたって言ってたな」とか思い出したり、すごく不思議なライブでした。
―それこそ別次元にいる感覚ですね。
VERBAL:そういう意味では別次元で、一人一人のストーリーを感じられました。あと、m-floのライブに初めて来たという人に、「今まで見たZeppのライブの中で、お客さんの食いつき方があんなに凄いのはなかった」と言っていただいたりして、すごく嬉しかったです。盛り上がるライブっていっぱいあると思うんですけど、“待ってました”感とか、一人ひとりの想いがエネルギーになってる感じは、今までにやったどんな大きな会場でも感じたことがなかったというか、人の想いがすごい伝わってきて、それに対して僕たちも返すことができたし、新しい感覚で印象的でした。
―Lisaさんは正式には2年前に15年ぶりにm-floのメンバーとして復帰(2002年に脱退、2017年に復帰)されましたが、改めて心境を教えてください。
LISA:やめた後もLovesとしては一緒に回っていたし、色々と繋がりを持ってやってたんですけど、m-floってたくさんのステージがあるグループなんだということに改めて気づいた。まず最初は☆TakuとVERBALの二人で始まって、そこに私が入って、私がやめて、Lovesの時期があって、それが終わるとまた二人に戻り、5、6年くらいの沈黙、私の時と似たような沈黙があって、そして今こうしてまた私が戻るっていう、このグループはものすごい波瀾万丈というか、ものすごいいっぱいストーリーがあるんだなって。私もm-floの一員だけど、それをこの前のライブで、すごく客観的に見ることができたんですよね。私がいようが、いなかろうが、色んなことがあったんだなぁって。それをリアルに感じられて、このグループの可能性はもう無限だなって思った。m-floのことを色んな意味で尊敬してるし、どこまでもいけるって思ってる。私たちは他の言葉ができるだけに、もっと世界に行きたい。私のスペイン語も使って欲しいと思う。
―今年はKawaii Kon、Anime Centralなど、アニメフェスにも出演されてましたね。アニメフェスにはいつ頃から出るようになったのですか?
☆Taku:m-floとして初めて出たのは去年で、僕はDJとして、4、5年くらい前にもAnime Centralに出演しことがありました。日本での活動をアメリカで知ってもらう絶好の場所だって思ってて、実際に行ったらこんなに盛り上がってくれるんだって、カルチャーショックを受けたんですよ。自分の曲も、渋谷のWOMBでかけてるような曲とかをかけても、凄い盛り上がる。お客さんに日本人はあまりいないのに。それで、m-floとして行こうねってずっとVERBALに話していて、去年実現したんです。
VERBAL:アニメフェスに出るのも、m-floとしてアメリカでやることも初めてだからきっとめちゃアウェイだろうし、まあとりあえず頑張ってみようかくらいのテンションで挑んだら、会場にいた4、5千人くらいの人たち全員が僕たちの曲を知ってくれていて、日本語で歌って盛り上がってくれたんで、すごい印象的でした。
―いいですね!では、音楽業界についてお聞きしたいですが、デビュー以来、シーンの変化をどのように感じていますか?
☆Taku:日本は海外に比べて変化は一番遅かったですよね。CDが一番最後まで売れていた国だし。流石に今は難しいと思うけど、最後に100万枚売った国って日本じゃないんですかね。それがもう段々無理になってきて、デジタルネイティブな世代が生まれて、色々と対応を求められていて、日本は特に今は劇的な変化をしてるんだって感じてますね。海外は早く対応していた分、色々とノウハウが生まれてきてる。
―音楽を作る側として、こういう風に変わったとか、何かありますか?
☆Taku:今回のアルバムもそうだけど、曲の分数が短くなった。曲順も変わるし、一曲目に何を持ってくるかも変わってくる。それにリリースの仕方も変わってきてる。
VERBAL:すごい古い話をすれば、昔は「レッド・ツェッペリンのアナログを逆再生したら悪魔が唱えていた」とか言われてましたけど、それって音だけで演出していたってことなんですよね。色んなことを音で表現してたから、曲がめちゃ長かったりしたけど、今大事なのは音楽だけじゃなくインスタとか含めたその人のパッケージじゃないですか。だから曲ってある意味その人のテーマソングみたいな、短く2、3分ずつに抜粋された感じで、ラップだけちょっとして終わりみたいなのでも成り立っちゃう。それって音楽だけじゃなくて、アーティストのパッケージ感っていうのがあるから変わってるのかなって感じます。
―変化のスピードが加速し続ける時代ですが、アーティストとして生き残っていくために必要なことはどんなことだと思いますか?
☆Taku:Twitter。成功しているアーティストって、SNSなどでしっかりと発信しているんですよね。
LISA:わからないですけど、私ができることは愛の心を持って楽しむこと。自分のできることを全て出し切ること。出し惜しみせずに、与え続ける。
VERBAL:マラソンを走ろうとなった時に、準備せずにいきなりホノルルマラソンに挑戦したら絶対に怪我をするし、勉強しないでテストに挑んだら落ちるのと一緒で、必要な筋肉を常に使っていくことが大事だと思います。音楽をやっていきたいんだったら、いつも音楽を聴いたり、音楽をやってる人たちと一緒にいたり、常にそういう環境に身を置くことですね。この前のライブで、20年てすげぇなって思いながらステージに立ってたんですけど、Lovesアーティストたちが途中で出てきてくれた時も、いつフィーチャーしたとかを思い出しながら、みんなが周りにいて今があるんだなって思ってました。だから常にそういう人達と一緒にいるのは大事かなと思います。
―では最後に、みなさんにとって成功とは?
☆Taku:したいことをやって、それで食べていけること。
LISA:私も同じ。
VERBAL:僕も同じくで、稼ぐことだけ考えてやってても、ちょっと乾いちゃうと思う。そうじゃなくて、やりたいことで、「カッケェ〜!」みたいなことができて、一緒に仕事したい人達とできるって、やっぱり幸せかなと。自分のやることで誰かをハッピーにできて生きていけるって、本当に幸せで成功だと思います。
Text & Photo: Atsuko Tanaka