チック・コリアが連夜のスタンディングオベーション。スナーキー・パピーやカマシ・ワシントン、MISIAと黒田卓也の競演など、今聴くべき世界のジャズが集結した第18回東京ジャズフェスティバル【ライブレポート】

2019/09/17

2002年にスタートして以来、これまで40を超える国と地域からのべ2300人を超えるアーティスト達が出演している東京JAZZ。18回目を迎えた今年は、8月31日と9月1日の2日間、国内外の豪華なアーティストが出演して、渋谷のNHKホールや代々木公園ケヤキ並木をメイン会場として盛大に行われた。このジャズフェスティバルは、「国境を越えて、世代を超えて」を一貫したテーマにしており、まさに「多様性=ダイバーシティ」が世界の潮流となっている昨今を音楽に反映したような国際的イベントに年々成長をし続けている。今年もチケットは全てソールドアウト。東京JAZZの注目度を改めて示した形となった。

NHKホールを会場にした「The Hall」には、1日目にアメリカからミシェル・ンデゲオチェロ、MISIAx黒田卓也、ヨーロッパジャズからはアビシャイ・コーエン・トリオ、そしてチック・コリア・アコースティック・バンドwithジョン・パティトゥッチandデイヴ・ウェックルが出演。2日目は、チャールス・ロイド“Kindered Spirits”featuringジュリアン・ラージ、ジェラルド・クレイトン、ルーベン・ロジャースandエリック・ハーランド、カマシ・ワシントン、スナーキー・パピー、そして再びチック・コリアがエレクトリック・バンドwithフランク・ギャンバレ、エリック・マリエンサル、ジョン・パティトゥッチ and デイヴ・ウェックルを率いて登場し、連夜のドラマティックな演奏を繰り広げた。HIGHFLYERSは8月31日のミシェル・ンデゲオチェロと、9月1日の昼・夜公演を拝見した。

ミシェル・ンデゲオチェロは、旧西ドイツ出身でアメリカを拠点に活躍するベーシスト/シンガーソングライターで、複数の楽器を自在に操るマルチプレーヤー、アレンジャーとしても活動している。プリンス、TLC、シャーデーなどのヒット・ソングを彼女独特のスタイルでカバーした2018年リリースのアルバム「Ventriloquism」は、グラミー賞にもノミネートされるなど、ファンク、R&B、ジャズ、ロックなどのジャンルを超越した活動を続けている。この日のメンバーは、クリス・ブルース(g)、エイブ・ラウンズ(ds.vo)、ジェビン・ブルーニ(key.vo)の編成。舞台下手からエレキベースを持ってゆっくりと登場し、語りかけるような優しく穏やかな声で、「Suzanne」、ドラムスとコーラスした「Wasted Time」を披露すると、激しい重低音を効かせたドラマティックな「Rapid Fire」 をプレイ。そして「Vitamin C」、「Forget My Name」 、「Shopping For Jazz」、「GRACE」 とほとんどMCもないまま、次々と演奏が続く。 その後披露した、TLCの「Waterfalls」は、まるで別の曲に感じるほど彼女の個性が表れているカバーだった。その後は、「Trouble」、「NEVER STILL WATER」、「Atomic Dog」、「Good Day Bad」を披露した。

9月1日の昼は、チャールス・ロイド“Kindered Spirits”featuringジュリアン・ラージ、ジェラルド・クレイトン、ルーベン・ロジャースandエリック・ハーランドからスタート。御歳81歳のチャールスは、テネシー州出身で、10歳からサックスを始め、B.B.キングや、ボビー・ブランドらのバンドで演奏することからキャリアをスタート。90年代以降はドイツのレーベルECMから多くの傑作をレコーディングするなど、半世紀以上に渡ってジャズ界を牽引してきたサックス、フルート奏者だ。そのチャールスが、孫ほどの年齢差のある現代ジャズを担う実力派プレーヤー達とこの舞台での共演を果たした。大観衆の大きな拍手の中、颯爽と登場して中央に来ると、両手を広げて客席の方へゆっくりと挨拶。激しいドラムロールから「Dream」、そしてそのまま流れるように始まった「 Weaver Defiant」 は、まるで楽器に操られて自由自在に進んでいくのを楽しんでいるかのように見える。

その後は一転してゆったりとしたバラード「Lift Every Voice And Sing」に。続く「Hyperion With Higgins」では、ピアノに近づいては、ソロを奏でているプレイヤーをじっくりのぞくチャールス。時にはステージを動き回り、まるでコンダクターのようにお茶目に腕を上げたりしている。そして曲が終わり照明がピンクから赤に変化すると、ゆったり落ち着いた雰囲気になって続いたのは、生前親交があり、今年2月に亡くなったジャズ評論家・児山紀芳への鎮魂歌「Requiem For Kiyoshi Koyama San」だった。ラスト曲「Booker’s Garden」を含め、幾度も美しいフルートの音色を披露した。

次に登場したのは、アメリカ現代ジャズのスター、サックス奏者のカマシ・ワシントン。リッキー・ワシントン(fl,s.sax)、ライアン・ポーター(tb)、ロナルド・ブルーナ・ジュニア(ds)、トニー・オースティン(ds)、マイルズ・モズレー(b)、パトリス・クイン(vo)というサポートメンバーに加え、今回はR&Bやヒップホップの世界でも活躍する日本人キーボードプレイヤー、BIGYUKI(key)の参加が大きな話題となった。ステージ上下の高台にはツインドラムが置かれ、後方中央コントラバス、前方にはトロンボーン、サックス、ヴォーカルが並ぶ布陣。「こんにちは。カマシ・ワシントンです。チャールス・ロイドと同じ舞台に立てるなんて光栄です。皆さんもとても美しい体験ができたのではないですか?」と言って「Show Us The Way」をプレイ。一曲目からスピードと迫力溢れるサウンドで観客を一気に世界へ惹き込んだ。

続く「Malcolm’s Theme」 はベーシストの巧みなソロとドラムが続く。曲が終わると、カマシの実父であるリッキー・ワシントンが袖から登場し、伸びやかなフルートの音色で会場を包んだ。そしてヴォーカルのパトリスが芯と包容力のあるドラマティックなテナーヴォイスを響かせた。続いて、「僕の大好きなミュージシャン、ライアン・ポーターが奏でます」と言って始まったのは、「The Psalmist」。ビッグユキの予測不可能な異次元のソロ演奏を傍で眺めながら、嬉しそうに笑みを浮かべるカマシ。続いて、「世界は美しいということを、ここにいる人と、他の世界じゅうの人達に伝えたい」と言って、マイルズのコントラバスから「Truth」、続いて「The Space Travelers Lullaby」へ。最後は「Fist of Fury」でさらに強靭で華やかなパフォーマンスを披露して幕を閉じた。飽くことのない音の連鎖とスピード感に圧倒されたあっという間の80分は、喝采とスタンディングオベーションだった。

夜の部は、まずスナーキー・パピーが登場し、コレクティブによる数の迫力と斬新な音楽性で観客を圧倒した。彼らは、リーダーでベースのマイケル・リーグを中心に実力派ミュージシャンが流動的に参加するプロジェクで、3度のグラミー賞に輝いた経歴を持つジャズ・コレクティブである。今回のメンバーは、アルゼンチン・ブエノスアイレス出身のマルセロ・ウォロースキー(per)、ボブ・ランゼッティ(g)、イギリス・ロンドン出身のビル・ローレンス(key)、テキサス出身のボビー・スパークス(keys)、ジャスティン・スタントン(tp)、フロリダ出身のジェイムソン・ロス(ds)、クリス・ブロック(sax,flute)、マイク・”Maz”・マーハー(key,tp)で構成された。メンバーの出身地を見ても、実に多様性溢れるコレクティブだ。ビル・ローレンスがひとり舞台に登場し、キーボードの前に座ると「Ready Wednesday」が始まった。曲途中でメンバーがステージに現れ、徐々にサウンドが厚みを増していく。

続いて「Gemini」、今年リリースされたニューアルバム「immigrance」から「Bad Kids To The Back」、「Xavi」では民族的かつファンキーな独特の世界を繰り広げ、続く2016年リリースの前作「Culcha Vulcha」からは「Palermo」を披露した。その後は、大胆なトランペットソロで魅了した「Lingus」、最後はシンセ全開の「Sleeper」で締めくくった。「素晴らしいエナジーを感じながら演奏させてくれた素晴らしい観客の皆さんに感謝します。次は僕たちが一緒のステージに立てることを本当に光栄に思っている、チック・コリアです。ありがとう!」と言い放ち、ラストの曲終わりまで一瞬の隙も与えぬほど斬新な音を高々と響かせた。ステージ終演後は、高揚感と爽快感を観客にしっかり残してくれた。

そして東京ジャズの最後を彩ったのは、ジャズピアノのレジェンド、チック・コリア(p)。前日のアコースティック・バンドからはオリジナルメンバーである、ジョン・パティトゥッチ(b)とデイヴ・ウェックル(ds)が再登場し、フランク・ギャンバレ(g)、エリック・マリエンサル(sax)という強力なアーティストが加わりエレクトリック・バンドで構成された。「待ってました!」の声と拍手喝采の中ステージに現れると、一曲目の「Charged Particles」からキレのあるサウンド全開に。サックスの音色の深さとしなやかさが印象的な「Trance Dance」、50年代のビバップをアレンジした「CTA」は、成熟したサウンドとリズムの中に多くの遊びが詰まっていた。

グランドピアノで始まった「Alan Corday」、家族で六週間のバケーションに来日した時に、銀閣寺から発想を得たという「Silver Temple」は幻想的なエレキオルガンの音色から美しくもミステリアスな情景が浮かんでくるかのようだった。アンコールは「Got A Match ? 」を。キーボードを肩からかけたチック・コリアが、エリック・マリエンサル、フランク・ギャンバレと一列に揃って並んで超速のユニゾンを奏でるかと思えば、ベースとドラムが加わり、代わる代わる驚異的なアドリブを繰り返していく。お客さんとのインタラクティブな掛け合いも見事。1986年のファーストアルバム「Chick Corea Elektric Band」の収録曲とは思えないほど、今の時代に聴いても全く色褪せない傑作だった。

今年も素晴らしいミュージシャンが一堂に会した東京ジャズ。何よりもミュージシャン達のこのフェスへの気合の入り方が特別な気がしてならない。オリンピックイヤーとなる来年は、5月に開催されるとのこと。どんなジャズを聴かせてくれるのか、ラインナップの発表を楽しみに待ちたいと思う。

Text: Kaya Takatsuna / Photo: Atsuko Tanaka