ジャネール・モネイ、一夜限りの単独来日公演で魅せたアメリカ最高峰のエンターテイメント。プリンスへの愛と、表現者として今伝えたいこと【ライブレポート】

2019/08/15

ソウル、R&B、ジャズ、ファンク、ポップ、オルタナティブなどありとあらゆるジャンルを網羅し、とてつもない歌唱力と華やかなダンスで音楽シーンに革命を起こし続ける唯一無二のアーティスト、ジャネール・モネイ。2007年にリリースしたEP『Metropolis: Suite I (The Chase)』と2010年発表のファーストフル・アルバム『The ArchAndroid 』がそれぞれグラミー賞にノミネートされ、トップミュージシャンとして世界に躍り出て以来、音楽シーンにとどまらず、社会に対する問題意識への一翼を担っている稀有な存在だ。さらに映画『ムーンライト』のテレサ役や、映画『ドリームス』で演じたメアリー・ジャクソン役での好演によって、俳優としての底知れぬ器も世に知らしめている。

また、プリンスやエリカ・バドゥが参加したセカンドアルバム『The Electric Lady』を経て、昨年に4年半ぶりにリリースした『Dirty Computer』では、第61回グラミー賞でアルバム・オブ・ザ・イヤーを含む2部門にノミネートされている。このように紛れもないトップアーティストのジャネールだが、この度ついに『Dirty Computer』ツアー単独公演、フジロックフェスティバルに出演のために初来日した。HIGHFLYERSは、7月24日にZepp Diver Cityで行われたジャネール・モネイ初来日公演のライブレポートをお届けする

真っ暗な会場に、映画『2001年宇宙の旅』の代表曲 『ファラツストラはかく語りき(Space Odyssey)』が大音量で響き渡る。その後、スクリーンには“Dirty Computer”の文字が浮かび、『Dirty Computer』が流れ始め、スモークの中で中央ステージに青いライトだけが照らされると、ジャネールがゆっくりと登場。影絵のままのジャネールが、ロボットのようにコミカルに踊り始め『Crazy, Classic Life』が始まった。はち切れんばかりの大歓声。ジャネールが纏うミリタリー調のロングコートの下に着用している、白黒の幾何学模様のボディスーツと同じものを着たダンサー達が登場し、アフリカンダンスを交えたステップを踏みながらステージを華やかに彩る。重力を感じるほどの迫力ある低いビードでクールなラップを続けるジャネール。途切れることなく『Screwed』が続く。

そして 舞台上で早替えをし、ステージ頂点に置かれたゴージャスな椅子に座るや否や、『Django Jane』へ。女王のごとく君臨しつつも、懐の深い貫禄のラップを披露した。その後『Q.U.E.E.N.』、『ELECTRIC LADY』では、キーボードの2人が楽器をトロンボーンとトランペットに変え、コール&レスポンスを交えて迫力あるゴージャスでパワフルなサウンドを聴かせた。「ここに来てくれてありがとう。一生忘れない思い出を作りましょう。愛は光。みんなライトをつけて上にあげて!」と言い放つと『PRIMETIME 』が続き、スマホのライトが発する眩い無数の光で埋め尽くされた会場で、ジャネールの声が美しく響く。間奏からはそのままプリンスの『PURPLE RAIN』へと繋がっていく。ケリンド・パーカーの温かくも切ないギターの音色は、会場の屋根を突き抜けて天まで届いているようだった。 “I love you, Prince”と一言残してステージを去るジャネール。

続く『PYNK』では、MVで着用して話題を呼んだセンセーショナルなピンクの衣装を身に纏い、コケティッシュなダンスを魅せつつ、エロティックでオープンな歌詞をキュートに歌い上げる。トーンを変えて『YOGA』、『I LIKE THAT』と女性フェロモン全開のパフォーマンスを披露した後は、『MAKE ME FEEL』へ。イントロがかかると、ステージ頂点でスモークの中、マイケル・ジャクソンやジャネット・ジャクソンを彷彿させる柔らかくもキレのあるソロダンスで魅了した。曲中ではジャネール自身がエレクトリックギターを奏でながら歌い、4人のダンサーを携え舞台を縦横無尽に動いて激しく舞った。次の『I GOT THE JUICE』では、フロアからそれぞれ人種や性別の違う観客を舞台に導く。選ばれた4人の観客は、ジャネールの「You got the juice?」の合図と共に1人ずつ即興でパンチのあるダンスを踊り狂った。最後にステージに上がった車椅子の男性がリズムに乗ってパワフルに体を動かし始めると、一段と会場は盛り上がりを魅せた。

続いて『COLD WAR』を凛として歌い上げるとMCが続く。「私たちは戦い続けなくちゃ。世界中の女性の権利のために、トランスウーマンのために、LGBTQIの仲間とコミュニティのために。それから労働者階級、低所得者層、アメリカを作った先祖のために、障がいを持つ人たちのために、黒人たちのため、移民のために。そのために、カンザスというアメリカの田舎町出身のクィアな(風変わりな)私がここに立てていることを誇りに思うわ。この社会で生きていくためにみんなで助け合って、世界中の権力を乱用する人間達と闘わなくては 」という印象的な言葉を発した。その後は一気に空気を変え『TIGHTROPE』が続き、バンドとダンサーを携え、アップテンポのリズムに合わせステップを踏みながら伸びやかな歌声を響かせて、ジャネールは潔くステージを去った。

続いてアンコール。『So Afraid』のイントロが流れる中、真っ白いスポットライトに照らされたステージへとゆっくり進むジャネール。拍手喝采のなか会釈すると、「Dirty Computerを書いているとき、素晴らしい人と一緒に仕事してたの。たくさんの希望、幸せ、楽しみを経験したのと同時に、落ち込んだし、大きな不安も感じた。大切な人を失った悲しみを克服しなければならなかったわ。自由って、自由じゃない。メンタル的にも、スピリチュアル的にも、不安を消して闘わなければならないの」と、生前Dirty Computerの製作に関わっていたプリンスについて再び言及。全体を通して、随所にプリンスへの愛と敬意を感じるステージでもあった。

歌い始めると、背後のスクリーンには、黒人達のデモする姿、闘いで焼かれたバス、マーティン・ルーサー・キング通りの標識、手錠などのショッキングな歴史的映像が流れ続け、その映像の前で、現代の愛すべき穏やかな日々に自分が感じる不安を綴った歌詞を語るように淡々と歌う。アメリカ社会と今の自分自身の姿に切り込んだ、静かだが深く重いメッセージだった。しかし、これでは終わらないジャネール。ラストの『COME ALIVE』では再びテンションが最高潮に。途中から客席に降り立ち、しばらく群衆の中を歩くと、同じ目線に立ってパフォーマンスを続けた。観客と一緒にフロアに寝転んだり、思い切りジャンプしたりして、これ以上ないほどのインタラクティブで明るくポジティブな空間を作り上げていった。最後はゴージャスで華やいだ雰囲気のまま100分以上の熱気溢れるステージに幕を下ろした。

赤、黒、白を基調としたミリタリースタイルのロングコートやスーツを身に纏い、クールで威圧感のあるダンスやラップを繰り広げながらも、次第に人間としての柔らかさや生の呼吸、言葉を発していく。これまで、女性型アンドロイド“シンディ”という名のもと、オルターエゴ(別人格)としてコンセプトアルバムを出し続けてきた彼女だが、ライブが進むにつれて、アーティストは生身の人間であることを彼女自身が証明してくれた気がする。また、ジャネールは、メッセージ性とエンターテイメント性という2本の太い幹を持つ真のエンターテイナーでありストーリーテラーであることを実感したステージでもあった。 満足しなかった観客は1人もいなかったのではと思えるほど、心に響く衝撃的な圧巻のライブだった。

なお、今回のジャネールのライブにまつわるオススメアルバムをタワーレコードのHPでゲットできるので是非チェックして欲しい。

Text: Kaya Takatsuna