Blue Note TokyoのNo Name Horses 15周年記念ライブで実現した、世界的ピアニスト・小曽根真と20歳のギタリスト・山岸竜之介の夢の競演【インタビュー & ライブレポート】
2019/07/14
去る6月14日から17日の4日間、Blue Note Tokyoでは、4年ぶりとなる「Makoto Ozone featuring No Name Horses」のライブが行われた。
日本を代表する世界的ジャズピアニストMakoto Ozone(以下、小曽根真)は、ソロで活躍する一方、総勢15名から成るビッグバンドNo Name Horsesを率いてのレコーディングやツアーも積極的に行っている。バンドメンバーはエリック宮城(トランペット)、木幡光邦(トランペット)、奥村晶(トランペット)、岡崎好朗(トランペット)、中川英二郎(トロンボーン)、マーシャル・ギルクス(トロンボーン)、山城純子(バストロンボーン)、近藤和彦(アルトサックス、フルート)、池田篤(アルトサックス、フルート)、三木俊雄(テナーサックス)、岡崎正典(テナーサックス)、岩持芳宏(バリトンサックス)、中村健吾(ベース)、高橋信之介(ドラムス)と、国内外トップレベルのミュージシャンが名を連ねる。
彼らは、全国のクラブ&ホールツアーやジャズフェス、また、海外では南フランスの「ラ・ロック・ダンテロン国際ピアノ音楽祭」やスコットランドの「エジンバラ・ジャズ・フェスティバル」、パリで行われた「ジャポニスム2018」などに出演し、国内外で活動を頻繁に行なっている。その実力はクインシー・ジョーンズ、チック・コリア、セルジオ・メンデスら数々のレジェンドからも称賛されるほどのお墨付きだ。
普段は全員が国際的にソロ活動をしており、それぞれの個性が際立つ熟練された音色やリズムを聴くだけでも贅沢なのだが、今回Blue Note Tokyoで行われたライブではギタリストの山岸竜之介がスペシャルゲストとして参加し、彼らのエネルギーが別次元で一体となった全8公演は、全て満員御礼の大盛況に終わった。
HIGHFLYERSは最終日のライブ直前に、山岸をこの大舞台に引き上げた小曽根と、山岸の二人に話を伺った。
竜之介は自分自身よりも音楽が好きな人。音楽に上下関係はないから、同じステージに立ったら容赦しない(小曽根)。ギターで正面からぶつかっていく生き方をしたいと改めて思えたライブだった(山岸)
―今回、共演された感想をそれぞれ聞かせてください。
小曽根:どんどんこちらの期待を上回ってます。彼は自分より音楽が好きな人なんですよね。中には音楽より自分が好きな人もいて、それが決して悪いわけではないんだけど、そういう人の音楽はそういう類の音楽になるんです。特に即興で演奏する音楽は、一旦演奏しだすとどうしても音楽の行きたい方向には行かずに自分のものになってしまう。“本当はここに行けたかもしれないのに”という可能性を、人間のエゴが抑え込んでしまうように思うんです。でも、僕はやっぱり音楽に連れて行ってもらいたい。彼も僕と同じで、いい意味で行き当たりばったりのところがあって、音楽の作り方がすごく似てると思います。
―「自分自身よりも音楽の方が好き」というのは、音楽を始めたときからそうなんですか?
小曽根:それがあるから音楽をやってるんですよね。好きで好きで、弾きたくて弾きたくて仕方がない。彼、さっき写真撮ってるとき(インタビュー前の撮影時)もずーっと弾いてたでしょ。そういう時に「僕を聴いて」ってやる子もいるんだけど、音楽って不思議なもので、そう思って弾いてる子の音はうるさく聞こえるから「ごめん、今、写真撮影してるからやめて」って言いたくなるんです。ところが彼の弾いてる音は心地いいんですよ。なぜなら弾いてる音に嘘がないから。すごく不思議なんです。
―興味深いです。今回竜之介さんにお会いした瞬間からそういうタイプの人だとわかりました?
小曽根:それは感じましたね。彼はまず正直な人なんで。第一声が「僕、楽譜読めないんです」だったんですよ。僕も彼くらいの時は、 むろんクラシックの練習をしなきゃいけなかったから、少しは読めましたけど、堂々と読めるって言えるほどではなかったんです。だから全然構わないと思ったし、同じことを2回弾けないことに関しても、「僕もそうだから大丈夫、願ってもない」って言いました。僕にとっては、彼が僕の曲を気に入ってくれるかどうかだけ。音楽っていうのは一旦ステージに立ったら上下関係はないんですよ。僕もステージでは本気でかかって容赦しないから、彼は悔しいと思うかもわからへんけど、それが楽しいものにならないといけない。
―竜之介さんはいかがですか、今このお話を聞いて。
竜之介:これまでの6ステージ全部、弾いてるときも0コンマ何秒の単位で緊張が増していきました。僕はめっちゃ緊張しいなんですけど、その緊張が身体の中にすっと降りてくる瞬間というか、弾いてると同時にそれが興奮に変わる瞬間がすごい大好きで。小曽根さんもきっとその緊張感が好きな奴とライブするのが好きやと思うんです。今回のライブは、急に変拍子になったりとか、僕が今まで触れてこなかったジャンルっていうのももちろんあるけど、それ以上にもっと先にある楽しいっていう感情がすごく素直に出せて、改めて自分はギターが好きやなって感じたし、緊張感が楽しさに変わるのが音楽なんだなと改めて思いました。だからめっちゃ楽しいです。
小曽根:怖いと楽しいが背中合わせっていうかね。でもその怖さがあるからいい演奏ができるんですよね。音楽が大好きで、音楽に対してのリスペクトがあるから、ちゃんと弾かなって思うし。あとは(竜之介は)最初の頃は、こういう集団に一人で入ってくるわけだから、それだけだって相当緊張しているはずなのに、「おはようございます!」って元気に入ってくる。そこからもう僕、彼が大好きなんですよね。僕だったら、「嫌やな、こんなところ来るの」って思うと思うもん。まあ日本的に言えば大先輩のミュージシャン達ばっかりで、「(自分のことを)どない思ってるんかなぁ」って思う気持ちもあるやろうし。
—小曽根さんもそのような経験をたくさんされてきたのではないですか?
小曽根:僕が今から15年前に初めてクラシックの世界に足を踏み入れたときは、「ジャズの人がモーツァルトなんて弾けるの?大丈夫?」って思っている人達の中にわざわざ入っていったわけですから、竜之介の気持ちはよくわかる。だけど最初のリハーサルの時も、彼は僕の曲を全部暗譜してきて、その覚悟っていうか、宿題をちゃんとやってくる素晴らしさ、まずはそこがスタート地点やから。それくらいの想いを持って音楽をやってるってすごく素敵。それに反して、僕は自分の曲やのに譜面見てたから、ヤバって思って(笑)。
―この間竜之介さんをインタビューしたときに、二十歳でこれだけの才能を持っているが故に、実は孤独や苦労も色々あるんだなって思ったんです。小曽根さんは、 若い頃を振り返ってそういう時はありました?
小曽根:あんまりなかったですね。多分考えたら孤独だったろうなって思うんですけど、性格がこんななんでね。あとは音楽が人を繋いでくれるから。これは良くも悪しくもなんですけど、ある意味、すごい順風満帆な人生を歩んできたから、ものすごく恵まれていた。その分人間として欠落していた部分は、結婚してから妻に教えてもらったんやけど。音楽的な話をすれば、多分孤独だったんでしょうね。でもやっぱり音楽さえやっていれば幸せだったから。僕が彼の頃なんて生意気で、本当に友達いなかったし、下手な人には「下手くそ!」ってはっきり言ってたから、それはそれはひどかった。あの頃の僕と会ってたら、友達になってなかったと思う。“絶対あいつだけは一緒にやりたないわ”って人に入ってたと思うもん(笑)。それを考えたら、彼は凄く素晴らしい。
―これからの竜之介さんに、何かアドバイスはありますか?
小曽根:もう好きなことをやったらええと思う。あと、これは僕が大学でも教えてることだけど、自分より上手いやつとやらないかん。これは絶対マストなんですよ。上手くなってくると、やっぱり周りがどんどんヨイショじゃないけど耳が痛くなるようなことを言わなくなるから。でも音楽は残酷なくらいその人のボキャブラリーとかテクニックとかが出るし、神様は才能のある人には次から次へとできないものを宿題として持ってくる。だけど竜之介は基本的に音楽好きやから、そこに真正面に向かっていくと思うので、とにかく好きなことをやったらいいんちゃうかなと思いますね。
―竜之介さんは、小曽根さんに何か伝えたいことはありますか?
竜之介:曲を是非一緒に作らせてもらいたいです。前にベースオルガンを小曽根さんが弾いて、僕がギターを弾きながらバラードのセッションみたいなことをしたのが凄く楽しかったんです。
小曽根:本当にジャンルとか年齢とか関係ないと思う。以前、僕が子供へのワークショップをやったときに、うちの妻に「子供を子供として扱ったらあかん」って言われたことがあって。振り返ったら自分が5歳くらいのときもいっちょ前の大人な気持ちだったんよね。知識やボキャブラリーは少ないけど魂は絶対そのまんまやから、子供でもわかってるわけよ。だから上から目線になっちゃうけど、僕が竜之介と一緒にやるときも容赦しないのはそれと同じことなんですよ。ボキャブラリーとか知識とかテクニックは、前からやってる僕の方がひょっとしたらあるかもわからへんけど、逆に「ここではせん方がええかな」とか、「これをやったら嫌われるかな」とか経験が邪魔をすることもある。でもいろいろ勉強した先に、それを全部払い落として自分のやりたいことだけをやれたらいいよね。
竜之介:今回ギターを小曽根さんと一緒に弾かせてもらって、ほんまに僕はギターを弾いてる時しか素直じゃないねんなっていうのを改めて思いました。ギターを弾いたり、歌詞を書いたりするのが好きで、その爆発力っていうのは誰にも負けない自信を持っている。だからこそ、ギターを弾いたりライブをしたりとか一緒に最高だって握手できる瞬間っていうのは一番忘れたくないことだし、そう思う気持ちも忘れたくない。僕はそれが好きで生きてるし、だからギターを練習するのも好きなのかなって思いました。
―ギターを弾いてる時しか素直じゃないとおっしゃいましたが、普段も素直な方だという印象を持っていたのですが。
竜之介:普段は素直じゃないっていうか、素直になれなくていいなと思いました。頑張って好かれようとして何かをするみたいなのが一番嫌いなんですよ。僕はギターを弾いて生きていく人間なんで、ギターを弾いて音を出してる時は、真正面から小曽根さんやメンバーにぶつかっていくっていうのが、僕の生きていきたい道だなって改めて思いました。
小曽根:メンバーみんなとしっかり繋がってるもんね。それを繋いだのも竜之介の音楽やからね。どんなにいい子でも音楽があまり良くなかったら、みんな「なんでこの子がここで弾いてんの?」って絶対になるから。みんな命かけてやってる人やからそりゃそうやんな。一緒にやれて最高や。
以下はライブレポート。
超満員のフロアから湧き上がる温かい拍手の中、メンバーに続いて小曽根がステージに上がると、挨拶の後、ゆったりとした静寂も束の間、次々と迫力のあるドラマが展開され、力強くもヴィヴィッドで華やかな虹を魅せてくれた、エリック宮城作曲の「Rainbow」をプレイ。その後は、サックスの三木による作曲、「Camelia 」が続く。そして、3曲目は、つい最近飛行機の中で小曽根自身が作ったという、ファンキーでコミカルな大作「Carrots or Bread 」。小曽根はピアノをオルガンに変え、メンバーが次々とソロを披露し観客を魅了していく。 No Name Horsesの紅一点の山城のバストロンボーンソロは、まるで象が陽気にダンスしているかのように明るく会場に響いた。その後、メンバー紹介をして、ベースとドラムのピアノだけが残り、トリオで「Time Thread」をじっくりと聴かせた。
後半はまるで別世界が繰り広げられた。高校時代にロックをやっていたという小曽根が久々に作曲したロックの組曲、「You are my Heaven, You are my Hell 」と「Until We Vanish」を披露したのだ。今回ロックを演奏するにあたり、ジャズを弾いたことのないギタリスト探しをした小曽根は、ある日ばったり会ったドラマーの金子ノブアキに誰か知らないか尋ねてみたところ、真っ先に一人のギタリストを推薦してもらったそう。それが今回のゲスト、山岸竜之介というわけだ。
「ここからは音量が急にデカく成るので覚悟して」と小曽根が言って始まったのは、なんとプログレッシブロック。ELP(Emerson, Lake & Palmer)と Yesを聴いていたという通り、プログレ炸裂の激しいサウンドが会場に鳴り響いた。ビッグバンドがプログレを演奏しているという目の前の珍しい光景とあまりの迫力に、思わず歓喜の声を上げる観客の姿も。曲中、何度も小曽根に歩み寄り、弦を鳴らす山岸。山岸の高まる緊張感に呼応するかのように、小曽根はピアノとオルガンを行ったり来たりし、時には同時に両方の鍵盤を叩きながら、凄まじい迫力とテンションで、観客を未知の世界へと誘ってくれた。山岸とビッグバンドとの奇跡の化学反応は、音楽のジャンルと時空を軽々と飛び超えていく。
山岸がソロを奏でる様子を目を細めて眺めるメンバーの姿に、客席から見ていて胸が熱くなるものがあった。そしてアンコールは、鳴り止まない拍手の中、再び小曽根が登場し、バラード「I’ll Try To Imagine」でしっかりとジャズを聴かせてステージの幕は下りた。
NO NAME HORSESは、新しいアルバムに向けてすでにレコーディングの日程も決まり、来年には今回演奏した曲でツアーも予定しているとのこと。さらに進化したジャズビッグバンドの奏でるロックが楽しめそうだ。
Interview & Text: Kaya Takatsuna / Photo: Atsuko Tanaka
ライブ情報
8月3日(土)17:00 大田区民ホール・アプリコ
* 小曽根真featuring No Name Horses 15周年全国ツアーを来年の3月と5月から6月にかけて開催。乞うご期待!
12月11日(水)、12日(木)
■山岸竜之介 「未来アジテーション」リリースツアー 2019
7月15日(月・祝) 17:00 OPEN / 18:00 START
会場: 渋谷 WWW