オダギリ ジョー長編初監督作品「ある船頭の話」が9月13日に全国公開。ひとりの船頭を通して人間の根源に向き合う、静かで激しい物語。主演・柄本明インタビュー

2019/07/12

オダギリ ジョーが国際的に活躍する一流のスタッフと豪華キャストを集めて至極の映像美と音楽で作り上げた待望の話題作「ある船頭の話」がいよいよ今秋公開する。

オリジナルの脚本を書き下ろし、監督を務めたオダギリを筆頭に、『恋する惑星』、『ブエノスアイレス』、『リミッツ・オブ・コントロール』など、独特な色彩を映像に落とし込む名匠クリストファー・ドイルが撮影監督を、『乱』で米アカデミー賞を受賞した日本を代表するデザイナー、ワダエミが衣装を担当。そしてアルメニアの天才ジャズピアニスト、ティグラン・ハマシアンがこの作品で映画音楽に初挑戦した。さらにキャストもこの上ないほどに豪華な顔ぶれが揃った。主人公の船頭・トイチには、新藤兼人監督作品『石内尋常高等小学校 花は散れども』以来、11年ぶりの主演を果たした柄本明を迎え、トイチと多くの時間を共に過ごす村人・源三役に村上虹郎、ヒロイン役には川島鈴遥を抜擢した。ほかにも伊原剛志、浅野忠信、村上淳、蒼井優、笹野高史、草笛光子、細野晴臣、永瀬正敏、橋爪功といった普段なら主役を務めるような日本映画界を代表する実力派たちが脇を固めている。

本作は、近代産業化とともに橋の建設が進む山あいの村の、穏やかで美しい川と街が舞台。そこで来る日も来る日も渡し舟を漕ぐひとりの船頭トイチ(柄本明)は、ある日、無口で身寄りがない少女(川島鈴遥)に遭遇し一緒に生活を始める。しかし時代と共に変わりゆく川の流れのように、トイチの人生も徐々に、しかし大きく狂い始めていくのだ。トイチを通して人間の内側に深く向き合い、鋭く切り込んだ作品である。そこでHIGHFLYERSは、主役の船頭、トイチを演じた柄本明にインタビューし、映画に関することやプライベート、そして成功についてを伺った。

撮影は肉体的に過酷だった。心にゆとりを持つことは難しいけれど、人間はずいぶん無理して生きているから、無理のない時間が多い生き方ができたら、と思う

 —この映画で、難しかったところはありますか?

撮影場所が割と過酷なところだったので、それが大変でしたね。肉体的に。

―今回の役もかなり体力が要求される役だったと思いますが、日常生活で気をつけていることや、ルーティンなどはありますか?

ジムに行って走ってる、っていうか歩いてる。週に3、4回。筋トレもいくらかします。健康維持ですね。

―ずっと舟を漕いでいますね。すぐに漕げるようになるのですか?

いや、練習しましたよ。

―筋肉痛になりませんでしたか?

足かな、足で踏ん張っているんで。僕の場合は左の腰からお尻にかけて筋肉痛が酷かったです。

―この役を演じるにあたり、参考になるものは存在しましたか?

いや、ないですね。まあでも、映画とかで船頭さんの役は観てるじゃないですか。だからそんなことですよね。

―それをご自身のものにしていくという作業なんですか。

そうですね。

―劇中の佇まいを見ただけで船頭に見えるのは、柄本さんだからできることなんでしょうか?

わかんないですね。別に船頭さんの格好して舟漕げば、みんな船頭さんでしょ(笑)。

ーそれは長年の蓄積された俳優としてのスキルと、人間そのものですね。

そんなこともあるのかもしれないけど、そういう仕事ですからね。

―映画のパンフレットでは、柄本さんは心を許している感じがなくて、一筋縄ではいかない雰囲気が良かったとオダギリ監督はお話しされていましたが、それは敢えてそうしてるものなのですか?

どうなんだろう。まあ大体いつも現場はオダギリ組に限らず、、あ〜、一筋縄ではいかないんですか(笑)。ただ、どこの現場でもそうなんですけど、そんなに監督さんと喋ったりしませんしね。

―それは敢えて話さないんですか?それとも話したくないのですか?

話す必要があれば話すんでしょうけど、別に話す必要が何もないから。

―他の作品も含め、柄本さんが疑問に思う台本はあまりないですか?

まあ大体書かれてますからね。あまり言葉は使わないですね。もちろん監督さんが何か言えば話すけどね。

― 台詞として書かれてないところも質問しないということですよね?

書かれてないって言ったって、書かれてる。

―なるほど。その考え方は、お若い頃からですか?

どうなんですかね。やっぱりそれはその時々なんじゃないですか。いくらか年寄りになるまで、こうやって役者を長くやってるっていうのはなんなんですかね。それがいいのか悪いのかはわからないけど、そうなっちゃったってことで。しょうがないですよね(笑)。

―柄本さんから見てオダギリさんはどういう監督でしたか?

とっても真摯でいい監督さんでした。撮影の最初の方は随分口内炎ができたみたいで、まあでもやっぱりそれだけ監督っていう仕事って大変なんだと思うけど、非常に真面目な監督さんで、非常に好感を持ちました。だからと言って、そんなに喋ることはなかったですけどね(笑)。大体僕は現場で、監督さんとそんなに喋らないですよ。喋る必要もないって言ったら身も蓋もないけど、別に必要ないんですよね。まあ無駄口たたく時もなくはないけど、ほとんどないですね。

―共演者の方についてもお伺いしたいんですが、村上虹郎さんと川島鈴遥さんとのシーンがすごく多いですが、お二人に対して感じたことは?

虹郎は親父(村上淳)も知ってるし、なんか孫みたいだね(笑)。

―川島さんはスクリーンからも目力の凄さを強く感じましたが、柄本さんは共演されて感じました?

うん、感じました。なんか最初から割とそういうのはあるんだね。才能って言葉はものすごく嫌いな言葉だけど、まあ監督もよく彼女を見つけましたよね。僕も、素晴らしいなと思いましたね。

―この映画をどういう方に観てほしいと言うのがあれば教えてください。

たくさんの人に観てもらいたい、ということですかね。

―今後やってみたい役はありますか?

と言ったって、特に映像の場合は需要と供給でね、そういった仕事が来なければしょうがない。だから来る、来ないってことじゃなくて、思うのは、何だっていいんですよ。必要とされるってことはそんなに嫌なことじゃないと思うし。来れば何でもいいですよね。

―柄本さんは、台詞は覚えなくても流れで自然に入ってくるものですか?

いや、覚えなくちゃ(笑)。ちゃんと覚えなきゃしょうがないでしょ。

―いつもあまりに役の人物になっていらっしゃるので、台詞は勝手に入って自然に出てくるものなのかと思いました。

いやいや、やっぱりそれは覚えるんですよ。入ってこないやつだって入れなくちゃ。だってそこに突っ立ってるだけじゃしょうがないからね。まあできれば自然に出てくる方がいいんだろうから、そんなことをやるんでしょうね。

―俳優を目指す若者に、柄本さんのようになるにはどうしたらいいですか?と相談されたら何と答えますか?

わかんないですよね〜。こういう風にしたらこうなるっていうことがあればいいけど、そんなものはないわけでしょ。それはどういう仕事にしたって、別にこの仕事に限ったことではないから。そういう質問に対して答えられるところがあれば答えるけど、答えられないものに関してはわからないよって、それはあんたが考えればいいんじゃないってことになっちゃうんじゃないですか。

―どうしたら柄本さんのような唯一無二の存在になれるのか、どんな生き方をされてきたのか、皆すごく興味があると思うんです。

でも、その前にみんなが唯一無二でしょ。それぞれがそれぞれなんだから、だってここにいる誰かが際立ってます?

―柄本さんが際立ってます。

いやいや、そんなことないですよ。それはある種の先入観でもって、こういう仕事してるから僕はそういうことになってるわけで、 人間それぞれ違うっていうことが一緒ですよ。別に変わりはしないもんねぇ。逆に、“こういう風になるには”っていうことが出ちゃうところに、僕はその人に問題があるような気がするけどね。そう考えちゃまずいんじゃないの?ってなことを逆に思うよね。でも若かったらそう考えるでしょ。

―若い頃に誰かのようになりたいと思ったことはないですか?

いや〜、思うんじゃないですか。みんなそんなことをこうやって思いながらね。別に達観してるわけでも何でもないけど。それにこういう仕事って残酷じゃない(笑)。ものすごく残酷な商売なわけじゃない。だからどこかでそういう気持ちもあるわけだしね。

―では、柄本さんにとって成功とは何ですか?

何でしょうね。難しいね。まあそんなことあり得ないんだけど、無理のない時間が多いこと(笑)。と言ったって人間無理して生きているから、無理のない時間が多いのがいいんじゃないですかね。

―無理のない時間は多いですか?

いや〜、無理のある時間多いですよね。無理のある時間、ない時間、色々あると思うし、「心にゆとりを」って言ったってなかなか持てないけど、そのことも含めてそんな時間ができたらいいなって思いますけどね。

 

Interview & Text: Kaya Takatsuna / Photo: Atsuko Tanaka

 

ある船頭の話』9月13日(金)より新宿武蔵野館ほか全国公開

脚本・監督:オダギリジョー

出演:柄本明、川島鈴遥、村上虹郎/伊原剛志、浅野忠信、村上淳、蒼井優/笹野高史、草笛光子/細野晴臣、永瀬正敏、橋爪功

撮影監督:クリストファー・ドイル 衣装デザイン:ワダエミ 音楽:ティグラン・ハマシアン

配給:キノフィルムズ/木下グループ © 2019「ある船頭の話」製作委員会

公式HP:http://aru-sendou.jp