豪華キャスト&スタッフが集結!アジア映画界に新境地を拓く話題作『パラダイス・ネクスト』が全国順次ロードショー。パリ在住の音楽家が映画監督として拘った色と音楽の存在感【インタビュー】

2019/07/09

日本映画界において名実ともにトップクラスの俳優・妻夫木聡と豊川悦司がダブル主演を果たし、全編台湾ロケでの撮影に挑んだ注目の映画『パラダイス・ネクスト』が7月27日より公開する。

この作品は、“ある事件”をきっかけに台湾にやってきた豊川扮する島と、島の元に突然現れた、妻夫木扮する牧野の間で繰り広げられるサスペンスかつヒューマンドラマ。監督とカメラマンを除くと、ほぼ全て台湾人スタッフでの全編台湾撮影という日台合作映画で、自由闊達な撮影や台湾の気候と風土の中で自然と醸し出される二人の相貌が魅力の作品となっている。また、二人の“運命の女性”であるヒロインを『黒衣の刺客』でも妻夫木聡と共演した台湾の人気女優ニッキー・シエが好演しているほか、ロングランヒット映画『目撃者 闇の中の瞳』主演のカイザー・チュアン、台湾を代表するマルチタレントのマイケル・ホァン、『アウトレイジ 最終章』の大鷹明良が脇を固めている。さらに日本が誇る世界的作曲家・坂本龍一のテーマ曲が加わり、豪華な顔ぶれによる珠玉の一作が完成した。

公開に先駆けて、HIGHFLYERSでは、監督、脚本、音楽を担当した半野喜弘にインタビューし、映画製作までの道のりやキャスティングについて、そして撮影中の出来事や映画で大切にしていることなどを伺った。

こだわりは色。音楽では既存のルールを壊したかった。この作品を観て、日常生活で背負うものが多すぎる日本人に自由を感じてほしい

―今はパリにお住まいだそうですが、製作はどのように進められたのですか?

今は1年の半分くらいをパリで生活しています。この作品は全編台湾で撮影して、日本で編集をやって、また台湾に行って音を仕上げました。

―台湾は監督にとってどういう場所なのですか?

まず、僕にとっては映画の故郷です。台湾人は自由な人が多く、 日本人に比べるとちょっと適当でルーズでゆっくりしている。でもそれって生きる上で価値のあることだと思うんです。10分では何も人生変わらないし、一日に何かあっても別に変わらないし、雨が降って濡れても別に乾くからいいじゃん、って。そういったことを伝えるためにも、撮影場所は日本でなく台湾を選びました。

―映画化するまでが凄く大変だったと伺いました。

大変でしたね。そもそも脚本を書き出したのは10年以上前で、当時は今の3倍くらいの長さのある複雑な群像劇で、登場人物が話す言葉も多言語だったんです。ある時、その脚本を映画会社の知り合いに見せたら、「こんなの出来るわけがない。予算も一桁違うよ」って鼻で笑われましたね。僕は音楽家だったので 映画がどの程度の予算でできるかもわからなかったんです。それでもう諦めかけていたんですけど、たまたま3年くらい前に妻夫木くんと知り合って、彼がこの役をやりたいと言ってくれたところから息を吹き返しました。あの時彼がそう言ってくれなかったら、この作品は今も眠っていたと思います。

―豊川さんをキャスティングされたのも素晴らしいですね。

豊川さん演じる島は、もともと彼を思い描いて書いた役なんです。僕の友人がたまたま豊川さんの事務所の社長と知り合いだったので、 脚本を送らせてもらえることになり、送って暫くしたら「会いたい」と連絡をいただいて。でも、突然で企画書もなかったので、代わりに家にあった白ワインを持って会いに行きました。そうしたら「企画書もなく、座組も決まってない、日本側のプロデューサーがいないからお金も集まってない、っていう状況で豊川悦司に出演交渉する人はいないよ」って逆に社長が面白がってくれて。それで、またその2、3日後に連絡が来て「本人がやるって言ってる」って決まったんですよ。

(C) 2019 JOINT PICTURES CO.,LTD. AND SHIMENSOKA CO.,LTD. ALL RIGHTS RESERVED

―凄いお話ですね。ところで撮影は結構過酷だったそうですね。

最後のシーンを撮影したのは台風が来た後で、そもそも波が高い所だからスタッフはあそこで撮影するのを嫌がっていたんです。他の場所にしてくれと言われたんですけど、「絶対嫌だ、俺はこっちでやる」って言い張って。

―どうしてもあの場所が良かったんですか?

あそこの山の情景が神々しくて、それがどうしてもこの映画に必要だったんです。撮影が台風の後だったこともあり、妻夫木くんのラストのシーンを撮影する時は、彼にヘルメットをつけてもらって別のゴムボートで撮影地点まで行き、撮影する時に本番用の船に乗り込んで撮影をして、終わったらボートに乗り換えて戻ってきてもらいました。実はそのシーンを撮影した直後、物凄い高波が押し寄せて撮影用の船が呑まれて消えたんですよ。だからもし妻夫木くんを乗せたまま船を引っ張っていたら大変なことになってました。

—そこまで過酷だったとは、想像していませんでした。

実は最後のカットはその船に二人が寝そべってるのを空撮で撮る予定だったんです。でも、船がなくなったから撮れなくなった。その代わりに最後のああいうカットが生まれたので良かったと思ってます。そういうのも含めて映画の面白さなんでしょうね。

―監督から見て妻夫木さんの魅力というのはどういうところですか?

役者としてのロジックも勘も全て、監督みたいに現場が見えている人ですね。でも、本人はもっと自由に、その役に純粋に没頭したいと話していたので、今回はなるべく1テイク目でベストなものを撮るようにしました。せっかく台湾で撮影するんだし、僕も普段の彼らとは違うもの、芝居として完成する直前くらいを撮りたいと思ったんです。

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―妻夫木さんが台湾の街を歩いている最初のシーンが印象的ですね。

あれは1テイク目なんですよ。一回で最高のものが撮れたんでびっくりしました。あのシーンに写っている人達は、エキストラと一般の人が半々なんですけど、車は通行止めにしなかったので、妻夫木くんが一瞬車にひかれそうになる場面は偶然の出来事なんです。そういうのも全てうまく行って、もうこれ以上のものはないシーンが撮れました。

―豊川さんに関しては、最初から彼をイメージをして島の役を書かれたと仰ってましたけど、実際に撮影を終えて、イメージ通りでしたか?

そうですね。豊川さんとは、お互いが思っていることを妥協せずにはっきり言い合いましょう、と撮影初日に話していたので、映画の進め方などについて現場で何度か議論しましたけど、結果的に島という人物像は良いものになったんじゃないかと思ってます。

―ところで半野さんは、音楽家から映画監督になられたのは何かきっかけがあったんですか?

12年ほど前から、友達と一緒に映画の脚本を作ろうと話をしていて、だんだん引っ込みがつかなくなってしまったんです。いざ脚本を書いてみたら誰からも相手にされなくて、徐々にこれでは終われないっていう気持ちになりましたね。この作品は、音楽家として20年間映画に携わってきて、映画からたくさんの影響を受けた自分にできることへの挑戦でもあるんです。音楽と同じで、映画にもルールやロジックがあるけど、そこからこぼれ落ちたものも含めて作品を作ることが僕のやるべきことだと思うし、そういう作品があってもいいんじゃないかなって思うんです。

―「ストーリーを語るだけの映画は作りたくなかった」とおっしゃっていたのはそういうことなんですね。

そうですね。僕はストーリーを語るのはあまり得意じゃないから、僕は自分らしいことを映像という形で表しただけであって、「これが映画だ!」と言うつもりではないんです。僕のスタイルだということですね。

―これまでのご自身のキャリアを考えると、この映画は音楽にもかなり力を入れているのではないですか?

音楽だけでなく、もちろん芝居や人のあり方もそうだけど、僕の中で創造の根幹は色なんですね。それも1シーンの色彩設計だけじゃなくて、映画全体の時間軸の色彩設計です。例えばこのシーンで青を使いたいから、それまではなるべく青を使わないで行こうとか、ストーリーを考えたら次も昼のシーンにしないとおかしいけど、自然光から蛍光灯の色に変えたいから夜のシーンにしちゃう。だから映画のストーリーを重要視する方なら、観ていて「なんで?どうして?」ってことになるかもしれないですね。

―テーマ曲は坂本龍一さんが手がけていらっしゃいますけど、ずっと音楽をやられていた視点から見て今回の坂本さんの音楽はいかがでしたか?

素晴らしいですね。ちなみに坂本さんの音楽以外は全曲に声や言葉が入っているものを使っていて、最初の曲は台湾の先住民族の、次はスペイン語のキューバの民謡、そしてマンダリン(中国語)、その後は英語っていう風に言語が全部バラバラなんです。台湾に関係あるかないかも全部取っ払って急にポンと入れている。音楽の使い方が、映画音楽ではやってはダメだと言われてることのオンパレードなんですよね。音楽はシーンを支えたり、役者を引き立てたりするものなので、本来なら前に出過ぎてはいけないんですけど、 今回は敢えて音楽が役者と同じようにキャストの一人として映画の中に登場するよう試みました。音楽家だから音楽を過剰に使ってると思われるかもしれないけど、既存の枠を覆すことで観たことのない瞬間が生まれる可能性があるので、自分の作品だからこそトライしてみようと思ったんです。

―なるほど、そういうことですね。監督は、「この作品を作ろうと志したことが“生きるとは何かを探す旅”の一部になった」とお話しされていましたが、この映画を終えて、「生きるとは何か?」の答えは見つかりましたか?

多分「生きるとは叱られること」ですね(笑)。

―では、この映画を観た人たちにどんなことを感じて欲しいですか?

一番感じて欲しいのは登場人物たちの生き様が自由なところです。当然彼らのやってることは良くないことだし、行き場も未来もないかもしれない。でも彼らはどこか自由で、風がふ〜って吹いてる感じがする。現代人は普段背負ってるものがあまりにも多すぎるじゃないですか。だから自由の疑似体感って意味があると思ってて、それはアートとかエンターテイメントがやるべきことだと思うんです。

―それでは最後に、監督にとって成功とはなんですか?

幸せだったら成功ですね。でも、幸せってその人の気持ち次第な気がします。幸せと感じられる人が人生の勝者だと思ってます。

Interview & Text: Kaya Takatsuna / Photo: Atsuko Tanaka

 

『パラダイス・ネクスト』 7月27日(土)より新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー!

出演:妻夫木聡、豊川悦司、ニッキー・シエ、カイザー・チュアン、マイケル・ホァン、大鷹明良

監督・脚本・音楽:半野喜弘

音楽:坂本龍一

プロデューサー:劉嘉明、小坂史子/製作顧問:余為彥/撮影:池田直矢/照明:陳志軒/録音:周震/美術:蕭仁傑/編集:坂東直哉

文化庁文化芸術振興費補助金(国際共同製作映画)

2019年/日本・台湾/日本語・中国語/カラー/ビスタ/100分/原題:PARADISE NEXT

配給:ハーク

hark3.com/paradisenext/