六月花形新派公演「夜の蝶」が6月6日よりスタート!河合雪之丞と篠井英介による女方共演で、銀座の夜の世界で生きる女の闘いを描く【レポート& インタビュー】

2019/06/03

劇団新派の女方・河合雪之丞(かわい ゆきのじょう)と現代演劇の女方・篠井英介(ささい えいすけ)が共演する六月花形新派公演「夜の蝶」が、6月6日から28日まで三越劇場にて行われる。

原作の小説「夜の蝶」は、昭和を代表する小説家/劇作家の川口松太郎が書いた作品で、銀座で人気を二分していた実在のクラブのマダム二人をモデルに描いた話となっている。1957年に小説が出版され、同年の7月に京マチ子と山本富士子ダブル主演の映画も公開された。そして、同年10 月には新橋演舞場で舞台化し、名優・花柳章太郎と初代 水谷八重子によって初演され、直後の 12 月に再演、また、坂東玉三郎や当代 水谷八重子も演じてきた。

当時の劇団新派において新しい“花柳界もの”として定着した作品でもある「夜の蝶」に、今回、美の競演を果たす雪之丞と篠井。銀座随一の高級クラブ「リスボン」のマダム・葉子を演じる河合と、新しく銀座にバーを構える京都から来た舞妓あがりのお菊を演じる篠井の美しき二人の“夜の蝶”は、銀座の華々しい夜の世界を舞台にどんな女の闘いを繰り広げるのか。

HIGHFLYERSは二人に取材を行い、稽古を通して感じていること、本作品の見どころや、リアルな銀座の夜の世界を通して学んだこと、成功についてなどを聞いた。

お菊と葉子、大人の女たちの闘いと“間”が見せどころ。銀座の夜の世界を知ってる人も知らない人も楽しめる作品

―篠井さんは新派の作品に出演されるのが今回初めて、そしてお二人の共演も初とのことですが、お稽古を通して、お互いにどんなことを感じていますか?それぞれに対しての新たな気づきや、思っていたことと違ったこと、逆に想像していた通りだったことなど、何かありましたか?

雪之丞:篠井さんのことは、もともと新派の作品に合う役者さんだと思っていましたし、想像通りというか、ずっと前から一緒にやらせていただいてるような感じがします。普段男役しかやっていない方が急に女役をやると滑稽なものになってくるんですけど、篠井さんは日本舞踊のお師匠さんでもいらっしゃるし、長い間女方もやられているので、違和感は全くないと言うか、ご一緒させていただいてやりやすいですし、安心できますね。

篠井:女方さんと一緒に舞台に立つことはあまりないので、清々とさせていただけるというか、すごく楽しいし、嬉しいです。雪之丞さんのことは歌舞伎時代から拝見していて、前から素敵だと思っていました。僕は歳も歳なので、綺麗で美しくてたおやかな雪之丞さんの足を引っ張らないようにと思いながら、無我夢中な感じですね。

稽古の様子

―先日行われた製作発表の際に、篠井さんは新派からお声がかかったことに「内心は不思議に思っている」とおっしゃっていましたね。

篠井:新派は昔からすごく好きでしたけど、「ああ、僕も呼んでいただけるような時代が来たんだなぁ」って思って。僕が東京に出てきた頃は、菊之丞さんや(喜多村)緑郎さんと一緒に舞台に立つなんて思いもしなかった。拝見しているばかりで、遠い人だと思っていたので、不思議なことのように感じますね。

―今回の役作りで大変なことはありますか?

篠井:僕の演じるお菊は生粋の京都の人なので、ノリをつかむのがちょっと難しいです。あとは、これから枠組みや芝居が整ってくると、結構大変と感じることが増えてくるかもしれないですね。それと、僕はお衣裳やかつらに慣れてないので、小道具一つにしても教えていただきながらという感じになると思います。

雪之丞:私は歌舞伎の頃から、清廉潔白なお姫様や町娘よりも芸者衆や悪婆とかの役が好きだったし、ちょっと影のある女の人の方がやっていてしっくりくるので、今回のような夜の世界で生きる女性はすごくやりやすいですね。

―観客に期待していてほしい演出や見どころなどありますか?

雪之丞:劇場の舞台が回ることもそうですし、やっぱりお菊と葉子のバチバチした感じですかね。露骨なバチバチではなく、何となく遠回しに言う感じ。水商売してる人だから、直接的に怒鳴るとかいうことはないけど、大人の女の闘いみたいな。

―それぞれの役のセリフで、一番心を掴まれたものや、印象的なものを教えていただけますか?

篠井:急に言われるとわからないね(笑)。

雪之丞:篠井さんは歌舞伎が大好きでたくさん観られてきて、ご自身で花組もやっていたし、私たち「幕切れはこうしたいよね」みたいな考え方が一緒なんです。普通のストレートプレイのお芝居ではなかなかないような、一幕の切れとかもね。一度見合ってそっぽ向いたりするのは歌舞伎の手法だから、そういうのも、もうちょっと取り入れていけたらいいですよね。

篠井:うん、あってもいいよね。

―実際の言葉ではなく、そういう間みたいなものが見せ場なのですね。

雪之丞:そう、そういうのは大事ですよね。お客様がスッキリするような間。

篠井:おっしゃる通りで、僕達は前の「夜の蝶」の公演を観てないし、今回みんなで新たに作っているので、雪之丞さんがお葉(葉子)の夜の蝶の型をこれから編み出して、観ている方にも「あそこが見せ場よね」とか、「素敵よね」とか思ってもらえるところが出来てくると楽しいんじゃないかなと。リアルな中にある様式や型が洗練されたところに新派の良さがあるので、そういうのを散りばめられるといいなと思いますね。特に雪之丞さんのお葉は、新派に元々ある江戸前の芸者、花柳界ものの流れを組んでる役だと思うのね。だからお手のものだし、ちょっと現代に近づいた新しい新派の芸者じゃないけど、粋な張りと意気地と、すっきりとした女の格好良さを出せる役で、見惚れます。

―どんな方にこの作品を観て欲しいですか?

雪之丞:老若男女、色んな方に観ていただきたいです。まだ銀座に一回も足を踏み入れたことのないような人たちにも興味を持ってもらえると思うし、銀座に通ってらっしゃる方達も、昔通ってた方達も、それぞれ楽しんでもらえると思います。女性も自分に置き換えて観てくださる方もいらっしゃるだろうし、若い女性だったら銀座のクラブ、夜の蝶に憧れてくれる人もいるかもしれないし。新派の作品は、若い人だとちょっと難しいようなものもあるんですけど、今回は全くそういうことがないので、若い方にも是非観に来ていただきたいなと思います。

篠井:僕の周りには、今まで新派を観たことがなかったとか、観たくてもチャンスがなかったというお客さんが結構いるんですけど、僕が出るならチケット頼もうかしらっておっしゃってくださる方もいるので、少しはお役に立ててるかなと。今までミュージカルばかり観ていた方とかにも広がっていくといいなと思います。

ーそれでは、今回の役に関係なく、もしお二人が本当に「夜の蝶」になるとしたら、パッと頭に浮かぶイメージ像はどんな人でしょうか?また、どんな名前をつけますか?

雪之丞:今回やらせていただいてる葉子は、「夜の世界の方の雰囲気っていうのはこういうことだろうな」っていう自分の引き出しの中から作り上げてるので、イメージとしては葉子ですね。名前までは考えたことないけど、どうでしょうね。昔の銀座のクラブやバーって、自分の苗字とか名前をつけるところが多かったんですよね。例えばあし田さんという方がママのところは「クラブあし田」とか、田村順子さんのところは「クラブ順子」だし。それこそ「エスポワール」なんて横文字のものは、当時すごく斬新だったんじゃないですか。それ以降は、「バカラ」とか、「ベルベ」とか洋風なものが増えましたけどね。でも、最近新しくできた店は、「クラブNanae(ななえ)」とか、また名前が店名になる流行があるみたいです。

―店名もファッションと同じで流行があるんですね。雪之丞さんは名前は特に?

雪之丞:そうですね、本名は弦(げん)というので、「クラブげん」はちょっとねぇ。苗字の方が綺麗かもしれないですね、「クラブ河合」とか。

篠井:雪之丞さんはお母様が銀座でクラブをやっていらしたし、歌舞伎座も演舞場も仕事場でお庭みたいなものだろうし、夜のお仕事してる方とも交流がたくさんあるでしょうけど、僕は田舎者なので全くわからない。

雪之丞:飲まれないから、わざわざ行かないですもんね。

篠井:うん、行かない。だから想像の世界です。いろんな映画やらで見たイメージでしかないので。

―雪之丞さんは今まで行った銀座のバーで体験したことで、今回の作品に活かせるような心に残っている出来事や、どなたかに言われた言葉など、何かありますか?

雪之丞:本当に厳しい世界というのはよくわかりますね。上下関係がはっきりしているし、女の子の引き抜きとかいろいろあって常に戦場ですね。某クラブのママは、自分のところを辞めた女の子とはその後一切付き合わないって言ってました。今はオーナーは別で雇われママさんという形が多いけど、昔はママがオーナーとしてやっていたところが多かったので、何かあったら自分の城が潰れるか潰れないかの一大事で、不安は大きかったんじゃないですかね。だから葉子のクラブにお菊が来た時も、「お菊が来た〜!どうしよう!」って焦る気持ちも、今のクラブのママさん達よりももっと強いんだろうなと思います。

―ところで、雪之丞さんは新派に入団されて約2年半が過ぎましたが、今後挑戦してみたいことなどはありますか?

雪之丞:挑戦はいつでも何でもしたい方ですね。ただ、これからは役者として舞台に立つだけではなく、いろんなことに対する責任が出てくるので、自分の中で深く考えてクリアにしていかないといけないと思ってます。作品作りからしっかり関わっていかないといけないですが、古典の作品は今の方達に楽しんでいただけるような作品にするのと同時に、継承もしていかないといけないですね。また、今回の「夜の蝶」はほとんど新作と言っていいんですが、「黒蜥蜴」とか、新作のものもやっていかなければいけない。新派の作品は何百とあって、演じられなくなったものもあるんですけど、その時代にはつまらないと思われたものでも現代にすごく合うものもあるかもしれないので、そういうものの洗い直しもやっていきたいと思ってます。他にも、全く新しいものも作りたいですし、篠井さんともまた共演したいですね。

―プライベートについてお伺いしたいですが、お仕事以外はどんな日常を送っているのですか?

雪之丞:ここのところ両親が亡くなって、その片付けを半年かけてしました。今は犬と遊ぶかゴルフですね。日焼けしちゃいけないから、真夏でも長袖を着て、手袋をして、つばの大きな帽子をかぶってます。この前キャリーさんに間違われましたけど(笑)。

篠井:僕は無趣味なので、本当に何もなく、今はこの芝居のセリフも覚えないといけないので、テレビに幕をかぶせて見ないようにしてる。つけるとダラダラ見ちゃうから。YouTubeやインスタを空き時間にちょっと見たりするのは楽しいですね。あとは、散歩したり、銭湯に行ったりします。

―最近世の中で起こっていることで気になることはありますか?

雪之丞:子供が虐待されたとか交通事故で亡くなったとか、子供がらみの悲しいニュースを聞くと胸が痛くて。トランプさんと中国が喧嘩してるのを観るのは構わないけど、子供の話は嫌で、そういう時はテレビを消しちゃいますね。あとは、タイガーウッズの優勝かな。あの復活劇は凄かったと思います。

篠井:僕もお子さんが虐待されてるとかいうのが一番嫌です。現実に起こってることとは信じたくない。それを本気で見たり読んだりすると苦しくなってしまいます。何の罪もないのに可哀想でたまりません。

―それでは、お二人にとって成功とは何かを教えてください。

雪之丞:役者は多分そこがないんでしょうね。例えば研究者の方や、数字で結果が出せるお仕事をされている方は成功があるだろうし、会社に勤めている方は最終的に社長になることが成功なのかわからないですけど、じゃあ役者はどこが成功って言われても結論はないですよ。終わりがないので辛い商売ですよね。結局終わりがないまま死んでいく。

―なるほど。でも、ところどころで細かい到達点みたいのはありますよね。

雪之丞:途中の駅というのはあると思います。ただダラダラ電車に乗っているだけではなく、山を登るように3合目から5合目、5合目から7合目という風にしていかないといけないのだろうけど、頂上のない山を登る感じですね。でも、だからやってられるんじゃないですか。「あそこまで行ったら、終わり」って見えちゃうとつまらないですよね。

篠井:本当に勝ち負けでもないし、タイム取って、「あなたが優勝です!」っていうものでもないし、点数があるわけでもないから、本当に曖昧なお仕事なんですよね。自分の中での満足感とか、周りからの評価とかはあるけど、それもあやふやだし、人に褒められても自分が納得できないと結局嫌だし。でも、一つお芝居が終わった時にホッとできたり、やり遂げた感覚はあったりする。僕の歳になると、毎日無事に公演が終えられれば、それで良かったって思えることがある種の成功なんだよね。昔、先輩に「いろいろわかってくると、歳をとっちゃって体が効かないんだ」って言われて、当時はよくわからなかったけど本当にそうなのね。雪之丞さんは、体は元気で、世の中のことも自分のこともよくわかる今の年齢が一番いいとも言える。これから10年は本当に素晴らしい時期ですし、楽しみに応援したいと思ってます。

雪之丞:我々女役って、男役と違って、容姿も役者として求められることの中に含まれてるんですよね。年齢や経験を重ねていくと、技術的にはどんどん上がっていくんだけど、見た目は衰えていく。男役さんは歳をとっても、顔に深みが出て渋くなってという風に進めますけどね。だから本当に難しい。

―普段美に対して気をつけていることなどはありますか?

雪之丞:全然気をつけてないですね。面倒くさがりだから、オードムーゲをお風呂上がりにバシャバシャつけて終わり。あとはシミの元になるので、日焼けをしないようにしてます。あと、日焼けした肌に白粉を塗ると肌の色がグレーになるんですよ。今回のような薄化粧だと特にそれが目立ってしまうので、そういう意味でより気をつけてるというのはあるかな。

―それでは最後に、これから叶えたい夢があれば教えてください。

雪之丞:篠井さんとまたご一緒したいです、違うお芝居で。

篠井:毎日が無事に終えられて、日々なんとかちゃんとやっていければそれでいいかなと思います。

Interview, Text & Photo: Atsuko Tanaka

 

六月花形新派公演『夜の蝶』

2019年6月6日(木)初日~28日(金)千穐楽

三越劇場 全席指定9,000円

出演:喜多村緑郎、河合雪之丞、瀬戸摩純、山村紅葉、篠井英介

チケットホン松竹 0570-000-489(10:00~18:00)

チケットWeb松竹