世界で活躍する注目のバリスタ&焙煎士のスペシャルイベント。全国からコーヒーのプロ達が集まった第4回フィロコフィア・フレンドパーク【レポート& インタビュー】

2019/05/18

去る4月20日・21日の二日間、千葉県船橋市のスペシャルティコーヒー専門店「PHILOCOFFEA(フィロコフィア)」で、「フィロコフィア・フレンドパーク」が開催された。

今世界のコーヒーを取り巻くシーンには「World Barista Championship(ワールドバリスタチャンピオンシップ)」や、「 World Latte Art Championship(ワールドラテアートチャンピオンシップ)」を始め、数多くの国際競技会が存在する。これらの大会は、母国の国内大会でチャンピオンに輝いた競技者達が集結して、世界のトップを競い合うもので、彼らは大会当日までにありとあらゆる方法で情報を集め、技術を磨き、準備をして本番に備える。 その中には素晴らしい成績を収め、大会の歴史に名を刻んだ日本人競技者達もいる。

その中でも、「PHILOCOFFEA (フィロコフィア)」で梶真佐巳と共同代表を務めるバリスタの粕谷哲は、コーヒーを手動で抽出する技術やサービスを競い合う「the World Brewers Cup(ワールドブリュワーズカップ)」において2016年にアジア人初の世界チャンピオンに輝き、また、沖縄県沖縄市の「豆ポレポレ」のオーナーで焙煎士の仲村良行は、焙煎技術を競い合う「World Coffee Roasting Championship(ワールドロースティングチャンピオンシップ)」 で2018年度準優勝に選ばれるという偉業を遂げた。

イベントが開催された「PHILOCOFFEA Roastery & Laboratory(フィロコフィア ロースタリー&ラボラトリー)」にて、焙煎士の仲村良行(左)とバリスタの粕谷哲(右)Photo by Atsuko Tanaka

フィロコフィアが手がけるスペシャルイベント「フィロコフィア・フレンドパーク」は、PHILOCOFFEAが定期的に行っているコーヒーイベントシリーズの一環で、今回で4回目となる。世界大会で好成績を収めた二人の経験をシェアすることで、世界トップレベルのコーヒーの今を知り、参加者達が今後に生かすことを目的としたものだ。

「結果ではなくプロセスから何かを学びとれなければ良いものは作れない。世界で認められた人と一緒に擦り合わせを行うことで、“良いものとは何か”を知っていくことが大切です」と粕谷は今回の趣旨を説明した。イベントには、コーヒー業界に携わる人や、超コーヒー好き、また競技会に挑戦しているバリスタや焙煎士が全国から集まった。

イベントはまず、1月にイタリアで行われた世界大会で準優勝したばかりの仲村による、約1時間の世界大会振り返りトークからスタート。国内チャンピオンになってから世界大会出場まで、どのような道のりを歩んだのか、また、世界と日本の取り組み方の違いや、失敗例や成功例、そして日本が抱える課題などをトピックに、映像や画像を交えて、粕谷との対談形式で行われた。

仲村自身が事前に観に行った国際大会の様子を映像を見せながら解説していく様子

そしてトークの後は、種類の違うコーヒーをスプーンでひとつひとつ味見していく“カッピング”が2回行われた。1回目のカッピングでは、粕谷と仲村が3種類の生豆(エチオピア・グジ・ナチュラル、ケニア・ギチツAA、エルサルバドル・サンタリタN)の、それぞれが別々の焙煎機(粕谷はローリング、仲村はプロバット)で焙煎したものを飲み比べた。お互いの仕上げた味の違いに着目し、同じ豆にも関わらず味に違いが起こった理由や、アプローチの仕方を検証。

左上:左が仲村、右が粕谷の焙煎したケニア・ギチツAA。隣同士に並べてカッピングしていく 右上:エチオピア・グジ・ナチュラル、ケニア・ギチツAA、エルサルバドル・サンタリタN 3種類の豆 左下:カッピングには、世界大会の決勝で使われた貴重なコーヒーの数々が揃った 右下:カッピングする豆の説明をする粕谷

2回目は、粕谷がブリュワーズの2019年世界大会から持ち帰った豆でカッピングを行なった。優勝した中国代表のJia Ning Duが決勝で使用したナインティ・プラス社のパナマ産の豆を始め、貴重な豆が並び、参加者はそれぞれ世界の尖鋭たちの豆をじっくり味わった。

仲村がこのイベントで大会や焙煎について色々語ったことや、その後にインタビューしたことを以下にまとめたので、焙煎に興味がある人や、これから競技会に参加したいと思っている人は是非参考にしていただきたい。

焙煎は、懐が広くて自由なところが魅力。トライ&エラーを繰り返し、「なぜ?」を追求することで世界のトップへ

沖縄出身の仲村は、大学卒業後、バックパッカーでタイ、カンボジア、ラオスなどを訪れた際、カフェで注文するたびに出てくるベトナムコーヒーに興味を抱いたことがきっかけでコーヒーの世界へ。帰国後、エスプレッソ専門店で勤務しながら抽出や理論をほぼ独学で学び、 2010年に沖縄市内で「豆ポレポレ」をオープンした。 2017年に国内大会である「Japan Coffee Roasting Championship(ジャパンコーヒーロースティングチャンピオンシップ)」で優勝し、2019年1月19日から23日に行われた2018年度の世界大会で準優勝を果たした

—仲村さんが焙煎に興味を持ったきっかけを教えてください。

独学で勉強を始めた頃に、焙煎という工程があることを知って、好奇心のままに手網焙煎からスタートしました。当時働いていたお店のマスターからもらった豆で焙煎したのですが、安くて品質の悪い豆をもらったせいか、最高にマズかったんです。焙煎てなんて難しいんだろうって思いました。だからきっかけは、自分で焙煎した喜びと、衝撃的な味のマズさを同時に体験したことです(笑)。

—焙煎の最大の魅力はなんですか?

答えがないこと。でもそれは、裏を返すと間違いがないということなんです。つまり焙煎とは、懐が広くて自由なんですね。「じゃあそこであなたは何を求めますか?」って問われるのが焙煎です。

—では仲村さんにとって良い焙煎とは?

僕はとてもシンプルに考えていて、焙煎はエネルギーが足りたか、足りなかったかなんです。つまり、エネルギーが足りていたら良い焙煎ということです。

イベント終了後も参加者からのたくさんの質問に、一つ一つ丁寧に答える仲村

大会で使用した焙煎機は、普段自分が使用しているものと違ったそうですが、そのハンディは、どのように克服したのですか?

大会前からわかっていたので、大会で使用されるはずのギーセン焙煎機のある店舗に交渉し、何度も出向いて練習をさせてもらいました。 様々な場所で機械を動かしていくうちに、同じ機械でも温度や環境、そして年式によって稼働の仕方が若干変わることを知りました。とにかく、「なぜ?」と思ったことを自分なりに分析し、自分の中に落とし込んでいく。一見不利だと思えたことを克服すると、さらに新しい発見を呼び込みますし、一番大切なのは、とにかく行動し、トライ&エラーを繰り返すことです。

—世界で準優勝に輝いて、何か気づいたことはありますか?

この結果は僕一人で成し得たことではないということです。焙煎機を貸してもらったり、お店をスタッフに任せたり、4人の子育ては奥さんに任せたりと、この結果はみんなの協力あってのこと。あとは、どんな環境にいてもやろうと思えばできるんだなって思いました。要は大会まで、どれだけ濃厚に向き合ったかが重要なんです。それに僕だけじゃなくて、成績を残した競技者は皆、取り組んだ過程が凄かった。それがわかったのは自分の中で有意義でしたね。

イベントには、すでに国内大会で上位に入賞した経験のある志の高いプロのバリスタ達も多く参加した。左は仲村、中央はBespoke Coffee Roastersの畠山大輝、右はコーヒーファクトリーの佐藤優貴

—世界と日本で大きな違いを感じた出来事はありましたか?

世界大会に出場する前に、台湾と北京で行われた別の国際大会を観に行ったのですが、そこでは観客がチームになって、リアルタイムで焙煎の状況を見ながら話しあったりメモをとったり、焙煎士に質問したりして、情報をシェアしていました。日本だけがそれをやっていなかったので、その光景を見たときは明らかに違うと思いましたね。世界はもっと貪欲でオープンに何でも話をしているし、次の年に繋げようとするから、それが国全体のレベルアップになっている。日本も少しは変わってきているものの、まだまだなので、せめて僕が知っていることは話したいと思います。

—世界大会を経験して、コーヒーの味に対する世界の変化は感じましたか?

前年まではフレーバー重視だったスコアシートの点数のつけ方が変わりました。今年はフレーバーではなく、甘さとバランスをしっかり出した人がより評価される方向に変わってきています。

—焙煎の方向性の変化はどうですか?また、これからどうなっていきそうですか?

前まではかなり浅煎りでしたが、僕はしっかりめの焙煎にシフトしていると思います。あとは、ディフェクト(欠点豆)がないことが重要。成績上位者達の焙煎は、ディフェクトがないうえ個性があって、表現したい味がはっきりわかりました。実は今大会の点数は、1位から4位まで僅差だったんです。つまり、みんな詰めるところまで詰めてきている。次に勝つためには、このままさらに突き詰めるか、今までとは違う新しいアプローチのカップスタイルが必要になってくるのではないかと思っています。

—仲村さんがこれからやりたいことを教えてください。

基本は美味しいコーヒーを出し続けることです。あとは、何か人の役に立ちたいですね。神戸にあるコーヒーショップ「LANDMADE(ランドメイド)」は、コーヒーを通して「チャイルド・ケモ・ハウス」という小児がん専門治療施設を支援しているのですが、そういう取り組みを僕は素晴らしいと思っています。僕も「ホープ」というプロジェクトを考えていて、沖縄の問題解決になるようなことを、明るく気軽なところから始められるように今探っているところです。コーヒーを通して人を笑顔にできたらいいですよね。

 

競技会に参加する意義とは、挑戦することや自分と向き合うことのほかに、 “相手の欲しいもの想像して、描いた味をより正確に最速で作り出す力を養う”ことでもあることを、今回のイベントを通して知った気がする。仲村が世界大会で勝つために辿ったのは、答えを自分なりに探って想像し、トライ&エラーを繰り返して経験を積み、自分の信じたものを作るというプロセス。その結果、粕谷や仲村のように、相手を最も満足させた者が勝者になる。それは、まさに日々コーヒーショップを営む中で要求される大切なスキルであり、コーヒーの世界から離れて考えても、様々な分野で必要とされることではないだろうか。また今後、仲村がコーヒーを通して人を笑顔にするためのプロジェクトを計画していることにも非常に感銘を受けた。

コーヒーで世界のトップを極めた二人の思考や姿勢は、様々なジャンルで世界を股にかけて活躍するHIGHFLYERSを彩ったスター達と共通点が多いし、一般人の私でさえ、日常生活に落とし込んで置き換えられることが多くあることを知った非常に有意義なイベントだった。

PHILOCOFFEAでは、このようなイベントを定期的に開催している。次回は、誰でも美味しいコーヒーが自宅で淹れられるようになるための、ドリップ教室と、パブリックカッピングも開催。特別に新豆販売会も行われるそうなので、興味のある人は是非参加してみよう。

第5回フィロコフィアフレンドパーク

開催日時: 2019年5月25日(土)/ 26日(日)11:00-17:00

場所: PHILOCOFFEA Roastery & Laboratory

詳細はPHILOCOFFEAウェブサイトにて

 

 

 

 

 

 

 

Interview, Text & Photo: Kaya Takatsuna