フィンランドの世界遺産をタイトルに冠し、国内外から精鋭ミュージシャン34名が集結した最高傑作。須永辰緒のソロユニット・Sunaga t experience 最新アルバム「Suomenlinna」が発売【インタビュー】

2019/04/17

日本のDJ界の進行形レジェンド、須永辰緒。ジャズ、ヒップホップ、パンク、ハウスなどジャンルを超えて音楽を紡ぎだし、80年代から東京のクラブシーンで活躍、キャリア30年を超えた現在もDJ/プロデューサーとしての感性と手腕は常に注目され、国内に留まらず、海外からも高く評価され続けている。そして、DJ生活30周年を記念して発表した「Sunaga t experience “Dirty 30”」から4年の年月を経た今、ニューアルバム「Sunaga t experience “Suomenlinna(スオメンリンナ)”」 をまもなく発売する。

最新作“Suomenlinna”は、日本、アメリカ、そしてフィンランドの精鋭アーティスト総勢34名と共に制作。例えば、昨年7インチレコードで極少数プレスされ、一瞬で完売となったレミオロメンの大ヒット曲「粉雪」のジャズリワーク(ジャズに編曲したもの)は、フィンランドの盟友ザ・ファイヴ・コーナーズ・クインテットのリーダー、ユッカ・エスコラ(tp./ flg.)を筆頭に、ティモ・ラッシー(sax.)、テッポ・マキネン(ds.)らが参加している。また、すでに渋谷オルガンバー界隈で話題沸騰の新曲「揺れる。」は、LA在住のヴォーカリスト SARAを招いた日米合作となっている。さらにSunaga t experienceシリーズ常連の太宰百合、小泉“P”克人、ChihiRo(Jill De-Coy Association)、万波麻希に加え、新進気鋭のドラマー岡本健太をフィーチャーしたことも話題に。須永のもとに集まった総勢34名の精鋭は他に、竹中俊二(g.)、佐々木史郎(tp.)、類家心平(tp.)、元晴(ts.)、 永武幹子(p.)、塩谷哲嗣(b.)、Emily Styler(vo.)、川崎太一朗(tp.)、 田口悟史(sax.)、中村祐介(key.)、蓮池真治(,b)、宮本ブータン知聡(d,s)など豪華な顔ぶれだ。

「レコード番長」の異名を持つほどの無類のレコードコレクターにして、「キャプテン」と称されるほどのプロの酒飲みである須永に、最新作についてや最近の音楽で気になること、プライベートについてや、令和のジャズはどうなるのか、など興味深い話を伺った。

今の音楽生活の規模を反映したアルバムが完成。令和のジャズは、まだまだコンフューズが続きそう

― 前作から4年経って今新作を出すことになったのは、何かきっかけがあったのですか?

前回と同じく、周りから包囲されて。僕は人のお世話してる方が好きなんで、自分のアルバムなんて作る気はなかったんですけど、またしても周りに押し出された感じです。

—アルバムのタイトル“Suomenlinna(スオメンリンナ)”は、フィンランドの世界遺産の名前なのですね。

人工軍艦島の名前です。フィンランドって別名Suome (スオミ)とも言うんですよ。日本人がジャパンを日本と言うように、フィンランド人(自国人含め)はスオミって言います。湖や池の国って意味。湖ばっかりなので、レストランで出る魚は、マスとかの淡水魚がメインで、マスをバターソテーしてブルーベリーソースをかけたりして、意外と美味しいんです。

―フィンランドの世界遺産の名前をタイトルにしたのは、何か思い入れがあったんですか?

タイトルが思い浮かばなかったので、「ヘルシンキ最近行ってねぇ〜な」っていうその程度です(笑)。まあフィンランドはずっとミュージシャンたちと交流が続いていて、彼らが来日した時にセッションして2曲録ったけど、アウトプットしないままだったからストックはあるので、それもアルバムの中に入れるいい機会だなぁと。

―出来上がってみてどうでした?

自分の音楽生活の規模を反映してるアルバムになってると思います。レコード屋さんに行って新譜を買う分を作ったみたいな感じです。

―ジャンルが多岐にわたっていてさすがだと思いました。でもジャズが芯にあるのは、やはり自然にそうなるのですか?

僕のDJのプレイスタイルがジャズからは離れたものではないし、まあロックもヒップホップもかけるけれど、あくまでもジャズ的なかけ方をするので、アルバムも同じように全体を通してジャズを聴いたって感想を持ってもらえるように作ってます。基本的にジャズっていうところはブレてないつもりなんですけど、なんでもかけるプレイスタイルなので、作る曲も自ずとそうなっちゃうんですね。

―今回新しい発見はありましたか?

改めて周りに優秀なミュージシャンが多いなって思いましたね。自分の想定外のフレーズが次から次へと出てくるので、演奏を聴いていてファンになっちゃうみたいな。

―特にお気に入りは?

今回はドラマーが凄い。若手で岡本健太くんっていうんですけど、彼が天才なので、思い切って今回のリズムセクションは全曲岡本くんに任せてます。

―須永さんが選んだメンバーの皆さんとは常に交流があって、アルバムを作るってなったらすぐ集まれるものなんですか?

うん、強い野球チームと同じで、カバーできるバックアップがいるんですよ。例えば、レコーディングの日にちを決めて、スタジオを決めて、エンジニアを決めたら、あとはミュージシャンのスケジューリングに入るんですが、もしこの人がダメだったら違う個性の人が他にいるんです。でもコアになってるバンマスの万波麻希とピアニストの太宰百合さんは絶対外せないですね。

—須永さんはどのようなスタンスで関わっているのですか?

僕が号令はかけてますけど、基本は遊んでもらうっていう感覚で割と余裕を持ってます。ある程度のルールは決めて、その中で遊んでもらう。アレンジャーにももっと攻めてもらいたい時は攻めてもらうし、攻めすぎな場合はちょっと抑えるし。譜面やデモテープのやり取りも何回もしてからレコーディングに入るんですけど、一度レコーディングしたものも家でじっくり聴いたり、クラブで聴いたりして、ちょっと違和感があるものに関してはやり直すこともあります。

― Studio Apartmentの「Rogue」があまりにかっこ良すぎて感動しました。

あれ、どんな曲だと思います?美しいメロディーに対比して、途中で使ってる声ネタは、代々の兵器商人ブッシュ元大統領が自分のことを棚に上げて、人々は助け合って生きていかないといけないみたいなことを言ってるフレーズなんです。それで悪党(Rogue)ってタイトルをつけたんです(笑)。スタアパ(Studio Apartment)の森田はスタート地点に立ち返り、これから音楽で世の中に恩返しするしかないって覚悟を持って復帰してますし、その為のキックオフになればと思って誘いました。結果彼らと良いコラボができました。

―そうだったんですね(笑)。栃木をイメージした曲「Futa-ara」にも驚かされました。

宇都宮の街のど真ん中に、標高132メートルの山頂に二荒三神社があります。石段を上がると拝殿、そして本殿があって、そこから後ろを振り返って山の上から宇都宮市内を見下ろした時の爽快感て言ったらないですよ。これはイメージ通りの曲になったし、皆さんもそこに行ったらこの曲がよりわかると思います。プチ大河ってことで里アンナさんに歌ってもらいました。ドローンで宇都宮のイメージ映像を作って、この曲をサントラで使ってくれないかなとも思ってます。ちなみにタイトルは、二荒山神社って日光と宇都宮に2つあるから意味がファジーになるように「Futa_ara」にしたんです。

―どういう人にこのアルバムを聴いてほしいですか?

ある後輩に、「47都道府県、20枚ずつ売ったらそれで1000枚近く稼げるじゃないですか」って言われて妙に納得しちゃって。ツアーは20数か所周るんですけど、6月6日にリリースパーティーもあるし、ツアーという名の実演販売をします。そこそこ精魂込めて作ってるし、CDを直接手渡して、買ってくれる人の顔が見えるってなかなかいいじゃないですか。今の時代に手売りって、送料いらないし結構斬新だなって思って、一周回ってむしろ新しいなって(笑)。 それでアルバム出すことにも、ツアーをやるごとにも承諾したんですけどね。

ーツアーは何人で回るんですか?

一人ですよ、本当に試聴即売会です。場所によってはクラブイベントでDJプレイをするかもしれないけど、アルバムかけて曲を解説して、「はい、買ってちょうだい!」って(笑)。

―ところで全国でクラブシーンはどの地域が盛り上がっています?

やはり東京に尽きると思いますが、地方でもアンダーグラウンドなシーンは健在です。関西が少し寂しいイメージがありますが、2020年に向けて色々仕掛けてくれるでしょう。お客さんの質がいいので、また以前のようにマンスリーで行きたい!

―音楽シーンで注目してる人や須永さんが最近感じていることを聞かせてください。

UK、 LAとかイスラエルとか、凄く新鮮なアイデアを持った若い音楽家が同時多発的に生まれて新しい世代のジャズが盛り上がっています。20代後半から30代前半の、音大で勉強してきた子達は、クラブミュージックでもアンビエントでもテクノでもなんでも聴いてますよ。本当に勉強してる。90年代の終わり頃とか00年代のジャズやクラシックの音楽家に関しては、ダンスミュージックを面白がって通過し、突破した人達だけが我々DJ達に人気だったんですけどね。今は面白い音楽家が世界で同時多発してるから、自分の演奏にも活かせるし、飽きることがない。だから僕はレコード買ってばっかりです。

―特に誰がいいですか?

イスラエルのアビシャイ・コーエンの周りとか、もうブルーノートでは呼べないくらいビッグネームになっちゃったけど、ちょっと前で言ったらロバート・グラスパーやサンダーキャットもそうだし、その枝葉がたくさんいい作品出してますね。あと、UKだったら、目利きはジャイルス・ピーターソンの周りに集まってくるね。UKって言ってもロンドンだけじゃないし、スコットランドのグラスゴーとかいろんなところからも出てくるんですよ。

―それはどういう現象なんでしょうか。

デジタル世代ならではだと思いますよ。今は必ずしもレコードやCDを買わなくても聴けるじゃないですか。例えばダンスミュージックを作ってたらクラブで女にモテるとかって動機が不純で、そっちに行っちゃう人もいるでしょ。でも自分の本業がジャズミュージシャンだと思ったら、それを自分のジャズに持ち帰るでしょ。そういう寄り道は、今までは体系立ててレコードを買ってたジャズの人達はなかなか思いつかないよね。でも今は一曲から買えるしなんでも聴ける。いよいよフュージョンもさらに進化したものになってるんですよね。

―これからどうなっていくと思いますか?

令和のジャズね。さっきもそんな話になったんですけど、このままずっとコンフューズが続いて、フリージャズみたいな状況になるでしょ。 70年代のアメリカではミュージシャンたちがみんなフリーに向かったり、UKではプログレッシブロックに向かったりしたし、日本でも一曲で20分くらいかせぐようなフリージャズをたくさん作った時期があったんですけど、それが落ち着いたら今度はエレクトリックやフュージョンになって、マルサリス兄弟のような新主流派っていうのが出てまた新しいジャズのモードを取り戻そうって動きが出たように、色んなうねった流れがあったんですよ。だからデジタル世代も、コンフューズして広がって弾けたところで、また一旦スタンダードジャズに原点回帰するっていうのは、今までの歴史から言うと起きると思います。

―須永さんの感覚だと、もうすぐ弾けそうですか?

まだまだじゃないですか。始まったばかりだと思いますよ。今ラッパーをフィーチャーしてるジャズミュージシャンって結構多いんですよ。どういう風に着地するのかわからないけど、コンフューズして全部がパチンと弾けた先には、「4’33″」があるんです。ライブでピアノソロやオーケストラできっかけを作った後は4分33秒間音を出さない。演奏会場内外の雑音を楽しむ。それが究極のフリージャズというかクラシックというか。ジョン・ケージ名義の4’33″も、客席がたまにざわっとするくらいでほぼ無音です。ヤン富田さんもショートバージョンでライブ演奏したことがあって(笑)。それは本当にポップの極みに思えた。ヤンさん以外許してもらえない。天皇陛下の即位30周年式典で、ビートたけしさんがゴツっと頭ぶつけたでしょ。あれはたけしさんにしか許されない。ヤンさんも、ヤンさんにしかできないことをやったんですよ、ライブで。感動しました。

―面白すぎます。ところで須永さんのおすすめ音楽フェスってありますか?

ジャイルス・ピーターソン主催の「Worldwide Festival 」はいまだに光景が目に焼き付いてますよ。南フランスのセットっていう海辺の田舎町の野外の円形劇場で、エーゲ海をバックにしたステージがあるんです。そこで観たライブが本当に良かった。アンダーソン・パークを初めて観たのもそこです。一番前で観てたら、元ガリアーノのロブが「ここにいると若い子達に押しつぶされちゃうから後ろに行こう」って言ったくらい、 物凄いモッシュが起きてました。国内だったら宮古島のミュージックフェスティバルが最高。

—では、他に音楽以外で気になることはありますか?

最近趣味がないからなぁ。

—そういえばポケモンGOにハマってましたよね。

ポケモンGOは気になるとかじゃなくて、人生になっちゃってる。飲んだり食べたりするのと同じような感じで。

―何がそんなに魅力なんですか?

何でしょうね、コレクター心をくすぐるんですかね。

―レコードと共通点があるんですか?ポケモンも何かを集めるんですよね。

うん、集め好き。何百体に一回色違いが捕まるんですけど、捕まえた瞬間は声が出ますもん。バスの中でも「おお〜っ」とか言っちゃって(笑)。レコードでもそういうのありますよ。ありえないはずの何でこんなところにあるんだろうっていう時に、「ええ〜っ!」て。

―ラーメンはどうですか?

ラーメンも一緒ですよ。

ー最近ラーメンで何か変化はありました?

まだ言えないけど、今年秋くらいにちょっとした動きはありますよ。あとはdancyuのラーメン特集の誌面、見開き4ページくらいでラーメン作らせて頂きました。あれは嬉しかったなぁ。

―やっぱり一つ一つが深いんですね。

まあ入るタイプですね。

—ところで“プロの”酒飲みでもある須永さんですが、プロの酒飲みとは、一体どういう定義なのでしょうか?

我々が宴会をやっているシーンがdancyuの表紙になったことがあって、そこの表紙に載ってた方々を称して“プロの酒飲み”って呼ばれてます。みんな凄い酒飲みで、想像以上の量を飲みますけど、まず酒癖がいい、そしてお酒を楽しみ慈しむ、料理を楽しむ。でもそこにはグルメの視点は入ってなくて、角打ちでも幸せ、ロブションでも幸せ、みたいな、そういう全ての垣根を取り払ってお酒を楽しめる人達をプロの酒飲みって言うんです。

―本当に人生が豊かで奥深くて素敵です!まだこれからやりたいことはありますか?

ちょっと前まではいろんな欲があったんですけど、最近は達観しちゃってあんまり思い浮かばない。やりたいことは相変わらずラーメン屋ですね。

Interview & Text: Kaya Takatsuna / Photo: Atsuko Tanaka

取材協力:FACE Records

 

Sunaga t experience “Suomenlinna” 2019年4月24日(水)発売

前作「STE」より4年!須永辰緒のソロユニットSunaga t experience最新作は、日本・アメリカ・そしてフィンランドの精鋭アーティストと共に生み出されたオンリーワンの最高傑作!

商品詳細

・レーベル:Playwright

・価格:2,778円(+税)

・仕様:CD(デジパック予定)

・初回購入特典:数量限定「燦爛と須永辰緒のネーム入り特製蛇の目猪口」

アルバム、ツアーの詳細は須永辰緒HPにて