メルボルン留学中に出会ったナッツバターに魅せられ、高知県で奮闘する若き起業家、ダダナッツバターの武智まりか。余白を残した商品であることを大切に【インタビュー】
2019/03/06
ナッツバターをご存知だろうか。昔から私たちがパンに塗って食べているバターや甘いピーナッツバターとは異なり、瓶に入ったサラサラした液体で、甘さはない。甘くないから、料理と一緒にスパイスとしても使えるし、ソースに入れたり、チーズなどのお酒のつまみに合わせたりして楽しむことができる万能選手だ。しかしこのナッツバター、海外では広く浸透しているが、日本ではまだほとんど目にしない。そのナッツバターに魅せられて、高知県で起業した女性がいる。武智まりかだ。
1993年生まれの武智は、地元で看護師を目指していたが、留学先のメルボルンでナッツバターに出会い、帰国後の2018年10月に「DADA NUTS BUTTER(ダダナッツバター)」を創業した。DADAとはスワヒリ語で姉妹を意味する言葉で、親しみやすいブランドになって欲しいという思いが込められている。現在は姉と従兄弟と一緒に高知の工場でナッツバター作りを行なっているという武智に、ナッツバターとの出会いや魅力、そしてこれからの展望についてを伺った。
まずはナッツバターを知ってもらいたい。素材の味にこだわるのは、私がナッツバターに出会った時のワクワク感を感じて欲しいから
―ナッツバターって日本ではあまり馴染みがないと思うのですが、一言で言うと何ですか?
ナッツを焙煎してペースト状にしたものです 。でも、バターと言っても、うちのナッツバターは動物性のものは一切使用せず、ナッツ自体の油分だけでペーストにしているんです。ナッツ自体の油分でペーストになっているので、いわゆるバターのような固さと違って、常温の時はサラサラした形状です。オーストラリアとかアメリカのスーパーでは、ピーナッツバターの棚の並びにナッツバターがあリます。海外はピーナッツバター自体が、日本で売ってるマーガリンやショートニングとかが入った甘いピーナッツバターとは全然違うので、おそらくこういう液状のものをナッツバターって呼んでいるんだと認識してます。
―では、ナッツバターは甘くないのですか?
うちの商品は甘味はつけてません。だからパンの小麦の風味とも合うので、シンプルに塗って食べてもいいですし、ジャムや蜂蜜と合わせても、お塩とブラックペッパーとかを入れておつまみ風にしても、あとはチーズにも合いますね。昨日行われたパーティーでは、ソースとか煮込みに入れてお料理に使ってもらいました。
―ところで武智さんは、高知県で生まれ育ったそうですね。
はい、大学まで高知で育ちました。母が看護師だったので私もなりたいと思い、日本で最初に出来た4年制の看護大学に通っていました 。
―でも看護師にはならなかったのですね。
2年生の時、看護師という仕事に対して、周りの学生との熱量の差を感じ始めていたのですが、ちょうど同じ時期に、カメラマンとかチョコレートを作って自分で事業をやっている人とかに出会う機会が色々あって、その人達から「本当に看護師になりたいの?」って聞かれた時に「違うかも」って思ったんです。でも他にやりたいことがあったわけではなかったので、とりあえず4年間通って卒業して、看護師の資格も取りました。
―看護師にならないことを決めて、その後どんな人生を歩んだんですか?
最初は無理してでも企業に就職しようかなと思って探したりもしたんですけど、何かピンと来なくて、そのままワーキングホリデーで3ヶ月フィリピンに語学留学に行きました。私はコーヒーが好きなので、2016年の春にコーヒーカルチャーが盛んなオーストラリアのメルボルンに行きました。行った当初は、チベット人オーナーが経営する面白いカフェでコーヒーを淹れたりして働いていました。
―ナッツバターとの出会いは?
お気に入りのオーガニックスーパーでナッツバターを見つけたことがきっかけです。その頃、イスラエルの同居人がいて、よくイスラエル料理を作ってたんですけど、タヒーニっていう白ごまのペーストをよく使っていて、私もやってみたいと思って食材を探しに行ったんです。それで、ゴマのペーストとかピーナッツバターのある棚を見たらたまたま並びにナッツバターがあって、興味本位で買ってみたんです。甘さはないけど、ゴマのように料理に使ってみたらナッツごとに風味も違って、美味しかったんです。
―スーパーで出会ったナッツバターがどうビジネスに結びついていったのですか?
オーストラリアに行く前から、どこかに勤めるよりかは自分で何かをしようと決めていました。でも、コーヒーやカレーはもう多くの人がやっていたし、今から自分が始めるなら誰もやってないことの方がいいなって。その時にナッツバターを知って自分で買って使ってみて、料理にも幅広く使えることがわかった。それで、途中からナッツを買って焙煎も自分でしてみたら、焙煎したてのナッツペーストって全然違ったんです。そこから自分でこだわったナッツバターを作りたいって思うようになりました。
―そこからどうやってアクションを起こしたんですか?
メルボルンにいる間、コーヒー屋で働きながら事業計画を練り始めて、中東料理にも興味があったので、イスラエルのナッツの産地も見に行きました。ナッツの起源は西アジアなので、調べたらパレスチナにフェアトレードのオーガニックのオリーブオイルやアーモンドを作っているところがあって、そこにメールを送ったら、すぐに来ていいよって連絡が来たので、パレスチナまで行ってアーモンド農園を訪れました。
―産地を見ていかがでした?
そもそもナッツがどうやって木になっているかを見たこともなかったですし、桜みたいな花が咲くのとか、ナッツがどういう風にできるのかを見ると、これはちゃんと形にしたいなと思う気持ちは強くなりました。
―それから再びメルボルンに戻ったのですか?
はい。でも早く自分のナッツバター作りを始めたかったので、10ヶ月くらいで滞在を切り上げて、途中ニュージーランドのクルミの生産者やベトナムのカシューナッツの農園を見てから日本に帰ってきました。帰国してからしばらく事業の計画を練りながら高知のお店とかで働いていると、飲食関係にも繋がりが広がったのでいろんな人に自分のやりたいことを話していました。高知は自営業の人が多いんで、皆さん凄く協力的なんです。それで、そろそろ始められそうだなって時に、仕事を辞めて去年の10月にスタートしました。
―今事業を始めて5ヶ月になりますが、自分のやりたいことを始めていかがですか?
まずナッツバター自体の認知がないので、これがどういうものかとか、どういう風に使えるかとか、そういうことを説明するところから始めないといけないと思いました。実際料理に使ってもらって、さらに小売販売してもらっているんですけど、最近は県外でも取り扱いが多くなって、10店舗以上に卸せるようになってきました。
―高知に工場があるそうですが、まだ大量生産はできないですよね?
チョコレートを作るメランジャーっていう機械が2台あるんで、イベントの時はめっちゃ頑張って1日にマックスが12キロくらいですね。普段は6キロくらいを姉と従兄弟の三人で頑張って作っています。
―立派ですね。今やっていく上で一番大事にしてることってなんですか?
余白のある商品だという部分を大切にしています。私が実際にメルボルンでナッツバターに出会って、「どういう風に使おうかな」って考えた時のワクワク感を感じて欲しいんです。敢えて強い味付けはせずに、ナッツそのもの自体の味を大切に作っているので、使い方は使う人にお任せしたい。「どうやって使ったらいいんですか?」ってよく聞かれるんですけど、パンに塗って使ってもいいし、和え物にゴマの代わりでも使えるし、スープのコク出しに入れるだけで普段の料理が全然変わります。余白のあるものとして、ナッツごとにシリーズで作り続けたいと思ってます。
―DADAさんの商品は、今何種類あるんですか?
ナッツは、クルミとカシューナッツとアーモンドの3種類です。フレーバータイプが、今のところはチョコとヘーゼルナッツの1種類。ちなみに、そのチョコは尾道の「USHIO CHOCOLATL(ウシオチョコラトル)」の姉妹店で、広島空港の中にある「foo CHOCOLATERS(フーチョコレーターズ)」っていうめちゃめちゃカッコいいチョコレート屋さんで、ミルクの代わりにカシューナッツを使ったヴィーガンチョコレートを作っているのですが、私はそのチョコにヘーゼルナッツを加えてスプレッドを作っています。
―以前も、コーヒーショップ「Philocoffea(フィロコフィア)」とのコラボレーションを手がけたりと、素晴らしいお店との商品が多いですね。
自分で何かやってる人や、同じ熱量がある人同士は、話の展開がすごく早いです。 興味を持ってくれたらすぐに、「じゃあ一緒に何かやろう」って話になる。3月8日から10日は、東京・幡ヶ谷にある「PADDLERS COFFEE(パドラーズコーヒー)」で、うちのパッケージデザイナーの人と一緒にポップアップショップをやります。そこでは「STUMPTOWN COFFEE ROASTERS(スタンプタウン・コーヒー・ロースターズ)」のコーヒーでコーヒースプレッドを作ってます。
—コラボレーション商品も増えましたね。
他にも、「香辛堂」さんという自由が丘のスパイス屋さんがあって、そこは用途に合わせてスパイスを調合してくれるんですけど、そこではうちのアーモンドバターとスパイスを合わせた、料理に焦点を合わせたおかずに合う商品を作ろうと思ってます。4月末に「koé green(コエグリーン)」さんでポップアップをやって販売する予定です。
―これからのビジョンは?
日本では今はまだナッツバター自体が新しいですが、ナッツバターが認知されて他にも誰かがやり始めた時に、どういう風に差をつけようかって考えてます。実際に自分が行ったパレスチナの農園とのトレードフェアを展開することや、在来種に興味があります。岩手の鬼胡桃とか、高知の等時豆っていう在来種とか、そういうマニアックなところで他の人がやってないことをやり続けたいなと思いますし、今後はネットでも販売していく予定です。
―最後に、商品ごとのオススメの使い方を教えてください。
一番クセがないのがカシューナッツなので、蜂蜜とかメープルシロップと混ぜても美味しいですし、料理に使うならコク出しにポタージュとかスープにも合います。ソースを作る時は、これを生クリームの代わりに入れるなど隠し味に。三人分くらいの量に対して大さじ1くらいの割合でいいと思います。次がクルミ。程良く渋みを残しつつも、少しカシューナッツを混ぜてマイルドな感じに仕上げてます。ドライフルーツやチーズにも合うし、和風に使うんだったら味噌に合わせても、お砂糖とかみりんで甘味をつけて厚揚げに塗って焼いたりしても美味しいです。クルミ味噌を作って和え物にも使えますし、オイルの代わりにパスタにも使えます 。そして、香ばしさに一番特徴があるのがアーモンドで一番パンチのあるタイプです。これも和え物に入れてもいいし、トマトソースに入れてチキンの煮込みを作るとコクが出て美味しいです。また、バーニャカウダソースやマスタードと混ぜても美味しいです。
現在 DADA NUTS BUTTERは全国各地の10店舗で購入可能だが、ネット販売も4月末開始を予定しているそう。また、ポップアップショップが東京で近日開催されるので、是非足を運んでみよう。
DADA NUTS BUTTER ポップアップ情報
■3月8 、9、 10日 @パドラーズコーヒー
住所:東京都渋谷区西原2-26-5
電話:03-5738-7281
営業時間:7:30~18:00 /定休日:毎週月曜日
■4月27、28、29日@ koé green
住所:東京都目黒区自由が丘2-9-19
電話:03-5731-0184
営業時間:平日/ 11:00-21:00 土日祝/ 10:00-21:00( L.O 20:30 )
Interview & Text: Kaya Takatsuna / Photo: Atsuko Tanaka