「バカルディ レガシー カクテル コンペティション」日本チャンピオンに輝いた青森県八戸出身の岡沼弘泰。幾度ものコンペ出場を経て、掴んだ優勝【イベントレポート/インタビュー】

2019/02/26

世界最大規模のラム酒メーカー、バカルディが行う「バカルディ レガシー カクテル コンペティション 2019  日本大会」のファイナルが、恵比寿のact square(アクトスクエア)で2月の21日に行われた。

「バカルディ レガシー カクテル コンペティション」は世界中のトップバーテンダーが集い、「モヒート」、「キューバリブレ」に続く、次世代の定番となるレガシーカクテルを見つけ出すことを目的とした、世界で最も権威のある大会の一つ。日本での開催は今年で4回目となる。今回、ファイナルに挑んだのは、昨年の11月に行われたセミファイナルを勝ち抜いた高宮祐輔(TIGRATO)、西野真司(Woodberry Coffee Roasters)、佐藤麻美(pullman Tokyo Tamachi PLATFORM 9)、水岸直也(TRUNK (HOTEL))と岡沼弘泰(SHADOW BAR)の5人。大会のルールは、与えられた制限時間内(準備時間に2分、パフォーマンスに6分)に、審査員及び観客の前でバカルディを使ったオリジナルカクテルを作り、創作にまつわるインスピレーションと、そのカクテルがバカルディに合うと考えた理由をプレゼンテーションするといった内容だ。

厳しい目を持つ6名の審査員(早川惠一、小森谷弘、山野井有三、後閑信吾、Vivian Pei、Franck Dedieu)と大勢の観客が見守る中、ファイナリスト5名はそれぞれが想いの込めたカクテルを作り、プレゼンした。その後、審査時間を挟み、待ちに待った結果発表で優勝者の名を呼ばれたのは、青森県八戸市から参加した岡沼弘泰だった。

Photo by Atsuko Tanaka

岡沼はプレゼンで、これまで、バカルディの創始者であるドン・ファクンド・バカルディや、「バカルディ レガシー グローバル カクテル コンペテション 2012」の優勝者の後閑など、憧れのヒーローたちと比べてきた自分がいたが、ある言葉によって変わることができたことを語った。その言葉とは、ラムを愛したアーネスト・ヘミングウェイの「まわりの仲間より優れていることは、特に立派なことではない。本当の気高さとは、過去の自分より優れていることだ」だった。その後、岡沼は他人と比べるのをやめて、自分を越えることに意識を向けたと言う。そして、周りの仲間と分かち合ってきた“変わる一歩を踏み出すための勇気”と、“超える”という想いを世界に届けるため、カクテル「EVOLVER」を作ったのだと教えてくれた。そのカクテル名には、「進化する人」という意味があり、“今までの自分から生まれ変わる”という想いを込めてつけたそうだ。最初から最後まで落ち着いた態度で行われたプレゼンからは、岡沼自身が変われたことで培ったであろう自信が伝わってきた。

(c) BACARDI JAPAN

結果発表後、今大会で審査員を務めた後閑に審査のポイントを聞くと、「僕的には、プロモーション、技術、ストーリー、カクテル、全てにおいて、ほぼ彼に決まりで間違いないという感じでした。誰よりも準備をしてると思いましたし、一つの作品としてきちんと一から構成されていて、上手くまとまっている印象を受けました」と教えてくれた。また、世界大会に向けてのアドバイスを聞くと「カクテルに関しては、音楽と一緒で微妙なバランスが大事になってくるので、そこを詰めて仕上げるのと、あとは英語でのプレゼンを今日と同じようにできれば、優勝の可能性は全然ありだと思います」と語った。(世界大会でのプレゼンは英語となる)

HIGHFLYERSは、優勝して間もなくの岡沼にインタビューを行い、優勝カクテル「EVOLVER」に込めた想いや、出身地の青森八戸について、世界大会に向けての意気込みなどを聞いた。

ヘミングウェイの言葉に影響を受け、「昨日の自分を超える」ために作られた「EVOLVER」。このカクテルを通して、八戸を盛り上げたい

―まずは優勝おめでとうございます!今、どんなお気持ちですか?

本当にみんなにサポートしてもらって優勝することができたので、みんなに感謝してます。自分一人では優勝できなかったと思いますし、どうやってこの恩を返していけばいいのかわからなくて困ってます(笑)。

―改めて、カクテル「EVOLVER」に込めた想いを教えてください。

EVOLVERには、「昨日の自分を超える」というテーマを込めています。前は、よく自分自身を人と比べて、自分はなんでこうなんだろうとか思っていたんですけど、そうじゃないんだよっていうヘミングウェイの言葉と出逢ったことで、このカクテルが生まれました。皆さんも、他人と比べてしまうことはよくあると思うんですけれども、このカクテルを通して、自分を超えようと思ってくれる人が増えたらいいなと思います。

―その言葉に出逢ったのは、バーテンダーを始めていつ頃だったんですか?

昨年です。バーテンダーを始めたのが28歳の時なので、12、13年目の頃ですね。僕は、年齢は40なんですが、バーテンダーとしてのキャリアはそんなに長い方ではないんです。

―他人と自分を比べていた時と、自分は自分でいいと思えるようになってから起きた大きな変化は何かありますか?

例えば、カクテルコンペとかでも、前は人のことを気にしていたんですけれど、そういうのから解き放たれたというか、そこまで気にしないようになりましたし、「自分のベストを尽くすのが一番なんだ」って思えるようになったので、すごく自分にとってプラスになったと思います。

(c) BACARDI JAPAN

―そうやって考え方が変わったら、今年こうして優勝されたってまさにミラクルですね!プレゼンの時に、これまでカクテルコンペに何度も出場されてきたとおっしゃってましたが、どのくらい挑戦してきたんですか?

正直数えられないくらいです。バーテンダーになったのは28歳ですけれども、その前にレストランで働いてまして、その頃から年間5回くらい出てたんで、そう考えると60、70くらいは出てるんじゃないですかね。

―そんなにたくさん!だからですかね、岡沼さんのパフォーマンスを見ていて、すごく安定感を感じました。

今回もめちゃくちゃ緊張しましたよ。緊張はどうやってもするんですけど、緊張感を隠したり、それがお客さんや審査員に伝わらないようにするのは、前と比べてちょっとは上手くなったと思います。

―自分は自分でいいんだと思えたとしても、やはり自分らしさを出さないといけないと思うんですが、今大会では他との違いを出すためにどういうところに注力しましたか?

他のファイナリストとの違いはあまり考えてなかったですけれど、僕だけ一人が地方のバーテンダーだったんで、地方色というか、僕の出身である青森県八戸市からできる何かをしたいなって考えて、それをプロモーションに取り入れました。

―EVOLVERは味も見た目もすごく洗練されていて、地方というよりは都会っぽい印象を受けたのですが、青森らしさというのはご自身的にどういうところで表現したんですか?

カクテルに青森らしさを出すというよりは、これをきっかけに八戸が盛り上がってくれたらいいなと思ってます。このバカルディの大会の趣旨は、“レガシーとしてカクテルを残していくこと”ですが、僕のカクテルが世界中に広がるのもいいんですけれども、やっぱり地元の皆さんにも愛されたいと思いまして。それで八戸のいろんな方とコラボレーションして、プロモーションさせていただきました。

―岡沼さんが八戸でやられているバー、「SHADOW BAR」についてお伺いしたいですが、どのくらいやられているのですか?

28歳でバーテンダーを始めた時に、僕の師匠である久保(俊之)に新しいお店を作るから一緒にやろうと誘われて、SHADOW BARがオープンしました。お店自体はオープンして13年ですが、4年半くらい経った時に全て譲ってもらって、僕一人でやるようになってからは8、9年くらいです。

(c) SHADOW BAR

―どんなバーなんですか?

カッコつけてもいいし、カッコつけなくてもいいし、敷居はちょっと低めだと思います。八戸には、ビシッとしてるバーも、すごくゴージャスでカッコいいバーもあるんですけれど、そういう所に行く前の、バーに慣れる段階の人や初心者向けという感じでしょうか。大体初めて来た方には「緊張して損した」って言われます(笑)。それくらいフランクな感じでやってますね。

―バーには世界各国からいろんな方が来るんですか?

世界各国からはそんなには来ないですけど、日本全国からは来ます。僕だけじゃなくて、師匠の久保がやっている「ark LOUNGE & BAR」や、先輩の茂内(真利子)がやってる「The Bar Rose Garden」があるので、僕の店だけを目的に来るわけではなく、何店舗も回るというので八戸に飲みに来る方が増えてきてるようです。

―なるほど。これからは世界各国から岡沼さんの店を目指して来るお客さんが増えそうですね。それでは、ご自身のバーテンダーとしてのスタイルを一言で表したら?

オールマイティです。僕はクラシックのバーテンディングも、フレアもずっとやってきまして、フレアは2008年に全国大会(anfa All Japan Flair Bartender Championship Final 2008でチャンピオンを獲りました。他にもクリエイティブ系の大会に出ましたし、何でもオールマイティにできるので、それが僕の強みかなと思います。

―今回の大会ではフレアの技術は入れ込まなかったんですね。

まあ特に必要ないですよね。やり始めたら止まらなくなっちゃうんで。

―3ヶ月後の世界大会に向けて、用意はできてます?どんなビジョンを描いてますか?

もちろんです!と言いたいところですが、まだ正直できてないです(笑)。これまでのコンペでの経験を活かしつつ、世界各国にいるバーテンダー友達の力を借りていい結果を残したいと思います。

(c) BACARDI JAPAN

―大会でカクテルを作り終えて「今こそ昨日の自分を超える時」とおっしゃる姿がとてもカッコ良かったですが、今日の自分に点数をつけるとしたら何点ですか?

優勝したので100点と言いたいところですが、自分的にはちょっとしたミスもあったので80点です。世界大会で100点を出せるようにしっかり準備したいと思います。

―それでは、明日は今日の自分をどのように超えますか?

今日を超えるのはなかなかハードですね(笑)。明日は地元に戻るので、地元のお客様に優勝を報告するのを楽しみに、今日より美味しいEVOLVERをたくさん作りたいと思います。

 

岡沼が出場する世界大会「バカルディ レガシー グローバル カクテル コンペティション2019」は、オランダのアムステルダムで5月の10日〜15日に行われる。今年はどの国のどのバーテンダーが勝利を手にするのか!?岡沼の健闘を願っている。

Interview & Text: Atsuko Tanaka