「Adobe Creative Residency」が今年日本で初ローンチ!クリエイティブ活動に積極的に取り組み、社会やコミュニティに共有・還元できる若手アーティストをアドビが支援【インタビュー】

2019/01/23

アドビによるアーティストを支援するプログラム「Adobe Creative Residency(アドビ クリエイティブ レジデンシー)」が、日本でも今年初めてローンチされることが決定した。

Adobe Creative Residencyとは、フォトショップなどクリエイティブ制作に欠かせないソフトウェアを開発している会社「Adobe(アドビ)」による、才能豊かな新進気鋭のクリエイターのキャリア形成を支援するプログラム。クリエイターが個人の制作プロジェクトに1年間注力できるよう、生活費や福利厚生、多分野からのメンターシップ、また、アドビよりソフトウェアやクリエイティブツールが支給される。その他にも世界中で開催されるイベントへの参加や、作品の発表機会など、プロジェクトごとに適切な支援が提供される形となっている。

2019年度の募集は今年1月8日に始まっており、締め切りは2月15日。募集に適した人は、それぞれの領域や分野で求められるスキルをすでに持っていること、クリエイティブキャリアの初期ステージにあり、コミュニティ形成に情熱を持って、1年間 Creative Residencyに活動の中心を置ける人だそうだ。また、選ばれたアーティストには、自身のクリエイティブ活動に積極的に取り組み、そこで得た経験やプロセスを社会やコミュニティに共有し、還元することが求められる。

アメリカでは2015年からこのプログラが実施されており、15年に二人、16年に4人、17年と18年には7人のグラフィックデザイナーや、イラストレーター、フォトグラファーなど、これからの活躍が期待される若手アーティストが選ばれ、それぞれが活動に励んだ。

HIGHFLYERSは、18年度の受賞者の一人であるグラフィックデザイナー兼フォトグラファーのテミ・コーカー(Temi Coker)に、Creative Residencyに応募したきっかけや、現在の活動について、応募者へのアドバイス、成功とはなどを聞いた。

テミ・コーカー Photo by Alejandro Takes Photos

 

―テミさんは現在アメリカのテキサスを拠点に活動中ですが、小さい頃はナイジェリアで生まれ育ったそうですね。

そう、アメリカに来たのは12歳の時。僕が子供時代を過ごした頃のナイジェリアはアメリカほど発展していなかったから、ないものに関しては何でも自分たちでものを作っていたんだ。その時の経験が僕をクリエイティブにしてくれたんだろうね。既存の枠に捉われない考え方で、必要なものを手に入れられるようになるまではあるものを使って何とか形にすることを学んだんだ。

―写真とデザインに興味を持ったきっかけを教えてください。

大学時代に友人たちから写真のセンスがあるとよく言われていた。友達が彼らのカメラで撮った写真を僕に渡してきて、編集をして欲しいって頼まれることもあったよ。それで僕は自分のiPhoneでその画像を編集したりしていたんだ。写真の好きなところは、何年か後に写真を見返した時、撮った時と同じ気持ちになれるところ。僕は子供時代の写真があまり残されていなくて、将来の自分の家族には懐かしく昔を振り返ることができる写真を残しておきたいと思うようになった。それで、カメラを買って、友人たちや家族の写真を撮り始めるようになったんだ。デザインは大学に入ってから興味を持った。デザインを見ることで、より観察力が鋭くなるからね。「あれはどうやって作ったり、デザインしたのだろう?」と思うようになって、デザインをやってみようと思ったんだ。

―写真とデザイン、両方大学で学んだのですか?

大学ではデジタルメディアを学び、デザインや写真の授業もいくつか受けたけど、自分でやってみることから学んだことの方が多かったと思う。YouTubeのチュートリアル動画をたくさん見て、フォトショップ、ライトルーム、イラストレーター、インデザインとかで色んなことを試してみたよ。その時にいつも心がけていたのは、学校の授業で学んだことを実際に試してみることだった。例えば授業で本を作った時は、家に帰ってからもそこで学んだスキルを使って自分の本を作ってみたり、授業でキャンペーンについて学んだ時は、家で自分のキャンペーンを考えて、そのデザインをするという風にしていたんだ。

―アドビのCreative Residencyについてお聞きしたいですが、応募したきっかけは?

応募した理由は3つあるんだけど、一つはアドビがクリエイティブコミュニティのために行っている活動がとても好きだったし、大学の頃からアドビの製品を使ってきて、何らかの形でアドビに関わりたいという夢をずっと抱いてきたから。二つ目は僕の友人にクリエイティブ レジデンシーに参加した人達がいて、彼らのスキルが上がっていく様子を見ることができたから。三つ目は応募プロセスの中に書かれていたとても深いことに心を惹かれたから。それは「応募する作品は、Creative Residencyに受からなかった場合でもやり遂げたいと思うものであること」という内容のものだった。それを読んで、このプログラムがどれほど素晴らしいか、その意図が明確に語られていると思ったんだよね。アドビは人々にスキルを高めてもらいたいと願っていて、たとえCreative Residencyに参加せずとも、人々の成長を助けるリソースをたくさん用意している。人々に大きな夢を見て欲しいと望むところに深く感銘したんだ。

―Creative Residencyに選ばれたと知った時の感想を教えてください。

嬉しくて泣いたよ! 実は僕が作品を提出できたのは、応募締切のまさに2時間前だったんだ。僕はインポスター症候群 (自分の力が不十分だと考えてしまう傾向) で、何度も自分と戦っていた。でも、とにかく応募するようにって友達や妻が励ましてくれたんだ。

―それは感動ですね!Creative Residencyになったことで、どんな新たな道が拓けましたか?

本当に数多くのクリエイティブな素晴らしい人々に出逢えたよ。新しい友達も人脈もたくさんできた。あと、2018年のAdobe MAX(アドビ マックス。アドビが行なっている最大のクリエイティブイベント)のパーカーをデザインするという信じられないほど素晴らしい機会にも恵まれた。 もし僕がこのプログラムに参加していなければ、そんな機会は巡ってこなかった。今挙げたことは、開けた素晴らしい道や扉のごく一部で、まだまだたくさんあるよ。

テミがAdobe MAXのためにデザインしたパーカー (c) Temi Coker

―Creative Residencyになってから実際に行ったプロジェクト内容を教えてください。

プロジェクトにおいて、僕は写真とデザインを融合させることに焦点を当てている。それを4つのパートに分けるとすると、「“ポスター1日1枚”プロジェクトを行う」「写真、デザイン、ファッションを融合する(ファッション撮影、ルックブック制作)」「写真とデザインを融合させ、アルバムカバーアートを作る」「写真とデザインをスポーツと融合させる」なんだ。「ポスター1日1枚」プロジェクトとファッション写真撮影、ルックブックは完了して、今はアルバムカバーアートに取り組んでいる。

―依頼された仕事の中で一番やりがいのあったものや学びがあったものは?

Creative ResidencyとAdobe MAXのためにいくつかデザインをしたこと。そんなことが起こるとは夢にも思っていなかったし、僕にとってとても大きな出来事だったよ。あとは、Creative Jam with Adobe(クリエイティブ ジャム ウィズ アドビ。アドビが行なっているクリエイティブコミュニティのためのイベント)に参加したこと。高校や大学の若者たちと話をして、彼らのメンターになるという素晴らしい体験ができて、誇りに思ってる。

―アドビに深く関わることで、アドビに対するイメージは変わりましたか?

僕はもともとアドビのファンだったけれど、アドビがクリエイティブなコミュニティのために行っている活動を直接目にできたことで、もっと好きになったし尊敬の心を持つようになった。それらの活動内容はAdobe Live(アドビ ライブ)からFacebookのライブインタビュー、IGチュートリアル、YouTubeチュートリアル、アドビソフトウェアの使い方についてのブログ投稿、その他まで多岐に渡っているんだ。僕のフォロワーたちがフォトショップやライトルームについて思っていた懸念の一部をアドビのチームに伝えた時も、みんな僕の話をしっかり聞いてくれたし、彼らはいつもとても協力的なんだ。

―他のCreative Residencyの方達との交流はあるのですか?

もちろん。いまだに連絡を取り合ったり、時々話をしているよ。自分が体験していることを他の人と共有できる機会があるのは本当に素晴らしいことだと思う。僕が落ち込んだ時には彼らは励まして前進させてくれるし、とてもありがたい。

Creative Residencyのメンバー達と

―それでは、アーティストとしてご自身の一番の自分の強みは何だと思いますか?

他の人々のポテンシャルを引き出す助けをするのに長けているところかな。僕は自分の作業工程を隠さないし、逆にそれをみんなと共有したり、誰かに教えることがとても好きなんだ。あとは、自分らしくいられることと、心を込めたものづくりができるところ、そして新しいことへの挑戦が好きだという点だと思う。僕の心は常に学生のままで、これからもできる限りたくさんのことに挑戦して、自分に合うやり方を探して失敗から学んでいきたいと思ってる。

―作品を通してどんなことを伝えていきたいですか?

愛、喜び、平和、クリエイティビティ、自由を伝えることを目指しているよ。なぜならそれらが、アーティストとしての僕の旅路で救いになったから。

テミのアート作品 (c) Temi Coker

―テミさんの作品のスタイルを一言で表すと?

Captivating(魅惑的)。

―これからどんなアーティストになりたいと考えてますか?また、やりたい仕事や、仕事してみたい企業、アーティストなどはいますか?

将来的にどんなアーティストになりたいかはまだ定かではないけど、わかっていることは写真とデザインの限界を押し広げ続けていきたいということ。仕事に関して言えば、クリエイティブ代理店に所属するグラフィックデザイナーかアートディレクターになりたいと思ってる。企業名をいくつか挙げるなら、ナイキ、アディダス、アップル、スポティファイ。彼らはマーケティング、コンテンツ、宣伝におけるクリエイティブな限界を押し広げようとしているからね。

―好きなデザイナーやフォトグラファーはいますか?彼らの作品のどんなところが好きですか?

デザイナーは、Magdiel LopezVasjen KatroPaste in Place。フォトグラファーは、MasterwilliamsRayneutronJoshua Kissi 。彼らはいつもクリエイティビティの限界を押し広げて作品と向き合っている。彼らの持つ情熱と熱意は刺激的で、本当に素晴らしいよ。

―これからの若いデザイナーやフォトグラファーに求められる資質はどんなことだと思いますか?

自発的であること、正直な人間であること、学生のように常に学ぶ意欲があること、一貫性を持つこと、そして、コミュニティ志向であること 。これら全てを備えていることが重要だと思う。そして、どのように他の人々を助けられるかを常に考え続けていくことも大事だね。

―テミさんはCreative Residencyに選ばれるという大きなチャンスを掴みましたが、チャンスと聞いてどんなことを思い浮かべますか?

他の人がスキルアップするのを手助けできることは僕にとって大きなチャンスだね。例えばナイキやアディダスなどの大きな企業と仕事ができるチャンスを得るのは素晴らしいことだけど、その行程の中で他の人の成長を助けることができたら、それは名誉なことだと思う。あと、海外の企業から仕事をもらえることも、大きなチャンスと言えるね。

―日本でも今年からこのプログラムが始まりますが、経験者として応募者の方たちにアドバイスをください。

日本でも今年からローンチされると聞いて、僕もとてもワクワクしているよ!アドバイスをするとしたら、必ず自分が情熱を抱いている作品を出すべき。アドビが好みそうなものを作ったって、簡単に見通されてしまうからね。「自分が情熱を抱いているものは何だろう? ずっとやりたいと思っていたプロジェクトは何だろう?」と自分に問いかけてみるといいと思う。ムードボードを作ってみるのも良いかもしれない。あと、作品が核心を突いたものになっているかも考えて欲しい。審査員があなたの意図を理解できるよう、作品に何らかの視覚的側面を加えるのもお勧めだね。とにかく、このプログラムを自分のアイデアを具体化するチャンスとして捉えて挑戦して欲しい。

―それでは最後に、テミさんにとって成功とは?

好きなことをやり続けて、どんな分野であろうが他の人たちをインスパイアできること。

 

Adobe Creative Residency応募方法はこちらより
https://www.adobe.com/jp/about-adobe/creative-residency/how-to.html

Interview & Text: Atsuko Tanaka