『菊とギロチン』が7/7より公開!「自由」「自主自立」を求め、闘った大正時代の女相撲力士と若きアナキストたち【インタビュー】

2018/06/25

20世紀初期頃に女相撲が興業として町の人気を集めていたのをご存知だろうか。「強い力士になることで自由を勝ち得る」と闘った女相撲力士たちと、同じく自由を求めて社会を変えようと闘ったアナキスト集団「ギロチン社」の姿を描いた『菊とギロチン』が7/7(土)より公開される。監督・脚本は、『ヘヴンズ ストーリー』(10年)や『アントキノイノチ』(11年)『64』(16年)などで知られる瀬々敬久。今作品は、「自由」「自主自立」という題目を立て、「女相撲」と「ギロチン社」をテーマに構想から30年して完成した。監督は「何かを変えたい」と思い映画を志した10代の頃に立ち戻り、その時は実現できなかったものを作品として形にすることがやっとできたと言う。

キャストには、300名もの中からオーディションで選ばれた主役の木竜麻生、佐藤浩市を父に持ち、今作品でデビューした寛 一 郎、韓英恵らのフレッシュな俳優から、東出昌大、渋川清彦、井浦新、嶋田久作といった魅力溢れるベテランたちが名を連ねている。

さて、女相撲の歴史は18世紀半ばにまで遡る。現存する「興業女相撲」が『読淡海』に最初に掲載されたのが、1744年。その後、1880年に山形県山形県高擶村(現在の天童市)で石山兵四郎が興業女相撲「石山」を創業した。天童市の高擶清池八幡神社には日本唯一の「女相撲絵馬」が奉納されている。2代目平四郎は女相撲をエロ、グロに思われることを嫌い、高度な技術を要する芸能として捉えていた。自由がない中、力士たちも厳しい稽古を乗り越え、興業では相撲や余興で観客を魅了することを誇りに思っていたそう。

石山女相撲の大関、若緑。左は化粧回し姿(写真:遠藤泰夫提供)

石山女相撲の力士たち。上段、左から三番目が若緑(写真:遠藤泰夫提供)

20世紀に入り、世界大戦が勃発し、関東大震災(1923年)が起こるなど混沌とする世の中、国や権力に支配されるのを嫌い、自由を求め声を上げる若者たちがいた。中濱鐵と古田大次郎を中心に結成された「ギロチン社」だ。彼らは、“より良い将来”というもののために望みもしない生き方をするのではなく、“今”を精一杯生きることを選んだ。『菊とギロチン』は、この実在したギロチン社が架空の「玉岩一座」の女力士たちと出会い、共に自由と自立を求めて闘う姿を物語にしている。HIGHFLYERSは、主役の花菊を演じた木竜麻生にインタビューを行った。

 

今作品では、オーディションで300名の中から主役に選ばれたとのことですが、経緯を教えていただけますか?

事務所の方からオーディションの話を聞いて、挑戦してみようと思って受けさせていただきました。受ける前は脚本の全ては読んでいなかったですけど、お話のあらすじと監督が長年温めてきたものだというのは伺っていました。この役をやりたい!と思っていたので、主役に選ばれたと知った時は正直嬉しかったです。

オーディションではどんなことをされたのでしょう?

一番最初のオーディションは、誰が何役でというのではなく、全員が6、7人ずつくらいのグループに分かれて、それぞれが順番に役を変えながら受けました。2回目は、私はヒロインの花菊役として受けさせていただいて、通しで花菊の色々なシーンをやりしました。

木竜さんは、この作品に出演する前から相撲に関心はあったのですか?

祖母の家でテレビで相撲が流れているのをなんとなく観るくらいで、そこまで相撲ファンということはなかったです。

力士を演じることに対しては、どのように感じていましたか?

小学校、中学校と新体操をやってきたのですが、相撲のようにぶつかり合うスポーツは大丈夫かなという不安と、単純に私にできるのかなという思いもありました。

過去に女相撲が興行としてあったことはご存知でしたか?

大学は文学部だったのですが、授業で女相撲というのがあったということに先生が少しだけ触れていて、それで何となくは知っていました。

相撲稽古は週に2回を2ヶ月半行ったそうですね。

はい、日本大学の女相撲部の皆さんに教わりました。最初の2日間くらいは全然ついていけなくて大変でしたね。普段使ってない筋肉を使いましたし、すり足は足の親指を擦るので皮が剥けたりだとか、やってみて体のどの部分が使われているかがわかってすごく面白かったです。

だんだん上達するのは感じましたか?

共演者の女力士の方達も多分みんなそうだったと思うんですけど、最初に始めた時より低い状態ですり足ができるようになったり、最初は当たり方がわからないのと怖さから首を痛めることがあったんですけど、練習していくうちに思いっきり行った方が実は怖くないことがわかって、それから少しずつ変わっていったのかなと思います。

ぶつかり合うのも本気で行ってたんですか?

そうですね。でも練習では、基本的なぶつかりをやった後は見え方を意識しつつ怪我をしないようにやってました。共演者のみんなで声をかけ合ったり動画を撮って見るなどして気をつけてましたね。

木竜さんは学生時代に新体操をやっていらしたから、演技以外の身体を動かすことに慣れていたんですかね。

新体操も相撲も割と身体が柔らかい方が怪我は少ないと思うので、新体操はやっていて良かったと思いました。

見る側からすると、若い女の子がまわしをつけるのってどういう感覚なんだろって思っていたのですが…。

最初まわしをつけた時は正直わぁっと思ったんですけど、2ヶ月半くらいみんなでまわしを締めあって泥だらけになってたら、恥ずかしいっていう気持ちは割となくなってました。

女力士たち © 2018 「菊とギロチン」合同製作舎

監督の30年越しの想いを形にした作品に携わる上でプレッシャーはありましたか?

構想30年の作品に携わるということへのプレッシャーよりかは、単純に私が演技の経験がほとんどなかったので、主役で入らせていただくことへの緊張はすごくありました。でも途中くらいから、一生懸命やるしかないと思って。私は現場で主演らしく振る舞うとかはできないので、そういうことは考えずに、とにかく私ができることを一生懸命やるしかないということだけでした。

瀬々監督からはどのようなディレクションを受けたのでしょう?

たくさん細かく演出をしていただくというのはあまりなく、役者さんたちに割と自由に動いてもらうという感じでした。でも私においては、大事なところで力が入っていなかったりする時はできるまで何度も粘っていただいたり、励ましの言葉をいただきました。技術的なことよりかは気持ちで伝えていただいたという感じがありましたね。

監督からの印象に残る言葉など何かありますか?

撮影の後半の方で、「このままじゃ主役を取られるぞ。もっと頑張れ」って言っていただいたのはすごく覚えています。撮影の間、私はいっぱいいっぱいで、話が入ってこなかったり周りが見えていなかったことが多かったんですけど、その言葉は覚えていて。言われた時はショックというか、どか〜んときたというか。怒られたというよりは頑張れと言われている、もっとやれると応援してもらっているように感じて、すごくグッときました。「今、この状況の中の花菊のことを応援してくれているんだな」と。だから私も一生懸命にやらないといけないと思いました。

共演の方達も素晴らしい役者さんばかりですが、いかがでしたか?

東出さんと寛一 郎くんと一緒に出るシーンはあまりそこまでなかったのですが、最後に二人と韓さんと私の4人で撮影した日の夜には、東出さんが率先してみんなでご飯に行こうと声をかけてくださったり、あとは女力士の親方役の渋川さんは現場以外でもすごくみんなの面倒を見てくださって。

監督のプロダクションノートに、「渋川が撮影以外でも女力士役の面倒をよく見ていて、食事に連れて行ったりして出演ギャラの大半が消えた」とありましたね。

そうなんです。しょっちゅうご飯に連れて行ってくださったり、現場でも声をかけてくださったりして。私は新潟出身なんですけど、渋川さんと話している時に新潟の話になって、「新潟の女はよく働くんだよな」と言ってたのを覚えています。お芝居の話ばかりするというより、コミュニケーションを取るために話してくださって、緊張しっぱなしだった私にとってはすごくありがたかったです。

女力士の方達とは?

2ヶ月半くらいみんなでまわしを締めあったり、汗を流して稽古をして、洗濯も一緒にやったりしていたので部活みたいな感じですごく楽しかったです。私は女力士の方達の中では年齢が下の方だったので、練習の時間を仕切って率先してくださる先輩方に甘えて一緒に参加させてもらっている感じでした。

作品では、自由を求めて生きる若者たちの姿がリアルに描かれていましたが、木竜さん世代の今の若者たちも、同じような想いを持って今を生きていると思いますか?

この作品の時代は今のようにネットがあるわけではないから、自分で情報をたくさん手に入れることがなかった分シンプルだったんじゃないかって思っていて。実は今の私たち世代の方がやりたいことができる人は一握りで、入ってくる情報が真実であるかどうかは別にして、入ってきてしまう分、自由に一歩を踏み出すのが難しいんじゃないかなって思うことがあります。本当にやりたいと思っていることとか、心の底で思っている不満とか、みんな実はあるんじゃないかなと。

なるほど。花菊はじめ、女力士たちは皆「強くなることで、自分の人生や環境を変えて自由を勝ち取ることができるかもしれない」と思って闘っていたと思います。今の時代も背景や環境は違えど、自由がないと感じている若い女性たちもいるかと思いますが、彼女たちにアドバイスを送るとしたら?

私自身にも言えることなんですけど、声を大にしてみんなに言うとかじゃなくて、例えば自分の家族や友達、恋人とか自分が話せる人や話したいと思う人に、「私の好きなものはこれ」とか「本当はこういうことがしたい」「あれに興味がある」とか、そういうことを口に出して言ってもいいんじゃないかなって。言ってやらなかったらだめということもなくて、好きだったら好きと、やってみたかったらやってみたいと、本当に自分が思っていることを言うのは素敵なことなんじゃないかなって思います。

他の人にどう思われるかが気になって、自分の本音を言えないこともありますよね。

恥ずかしいと感じたり、「そんなの私には無理だから」とか、私もどちらかというとそう思ってしまうタイプなんですけど、言うだけならって言うとちょっと無責任に聞こえるかもしれないですけど、友達とか家族に「これが実は好きだった」とか言うのは素敵なことだと思います。いい人とか悪い人とか誰かに思われようが、そう言ってる顔が実は素敵だったりしますし。

これからどんな女性になりたいとか、理想の女性像はありますか?

自分の母や祖母のように、苦しい時があって今が楽しいって言ってる女性を見ると素敵だなって思うので、苦しいことから逃げずにいきたいと思います。実際に苦しいことや悲しいこが起きたらその時は多分嫌だと思ってしまうかもしれないですけど、そういうことをちゃんと経験している女性になりたいです。

最後に、作品を通してどんなことを感じてもらいたいですか?

大正時代を描いた作品なので、何となくイメージがぼんやりとしている方もいらっしゃると思うんですけど、昔も今も、苦しかったりしんどかったり、でもそこには希望があったりというのは同じだと思うので、現代を生きている人たちにこの作品を観てもらえたら嬉しいです。

大きな瞳をキラキラと輝かせながらそう語った木竜。6月27日に発売される初の写真集『木竜麻生写真集 Mai』(リトルモア)では、一歩成長した大人の表情を見せてくれている。これからどう素敵な女性に成長していくかがとても楽しみだ。

Interview, Text & Photo: Atsuko Tanaka / Hair & Make-up: 鶴永千紘

 

菊とギロチン

7月7日(土)よりテアトル新宿ほかにて全国順次公開

© 2018 「菊とギロチン」合同製作舎

監督:瀬々敬久

脚本:相澤虎之助・瀬々敬久

出演:木竜麻生、東出昌大、寛 一 郎、韓英恵、渋川清彦、山中崇、井浦新、大西信満、嘉門洋子、大西礼芳、山田真歩、嶋田久作、菅田俊、宇野祥平、嶺豪一、篠原篤、川瀬陽太

ナレーション:永瀬正敏

2018年/日本/189分/カラー/DCP/R15+/配給:トランスフォーマー

公式HP:http://kiku-guillo.com/

『菊とギロチン』公開に向け、MotionGalleryにてクラウドファンディング実施中!【実施期間】2018年4月18日~7月6日

https://motion-gallery.net/projects/kiku-guillo