くるり2018年春のライブツアー『線』最終公演。結成20年の歴史に刻まれた名曲と新曲の数々で魅せた、とどまることを知らない技術と音楽性【ライブレポート】

2018/04/10

1996年に結成し、シングル曲「東京」(98年)でメジャーデビューして以来、通算30枚超のシングルと11枚のオリジナルアルバムをリリース。クリエイティブシーンの第一線で、常に多くの人達の心に刻まれる音楽を作り続けてきたバンド「くるり」。2016年に結成20周年を迎え、さらに新たな領域へ進み続ける彼らが、ライブツアー「線」を行い、初日の大阪公演を皮切りに、2ヶ月かけてラストの東京公演まで全国14都市を駆け抜けた。 3月31日にZepp Tokyoで行われた最終日のメンバーは、岸田繁(Vo, Gtr)、 佐藤征史(Ba)、 ファンファン(Tp, Key)、 野崎泰弘(Key)、 松本大樹(Gtr)、 山本幹宗(Gtr) と朝倉真司(Dr)。HIGHFLYERSはその日の公演を拝聴した。

暗転の舞台から観客へ向かって4つのピンクの照明がまっすぐに照らされるのと同時に、まるでこれから起こる演劇のドラマを予感させるようなイントロが会場に流れ始めると、程なくしてメンバーが登場。「えー、東京のみなさんこんばんは。くるりです」と岸田が一言発すると、会場には大きな拍手と歓声が響き、一曲目「東京レレレのレ」が始まった。続けて「東京」のイントロが流れると観客からは再び大きな歓声が湧く。曲間にほぼ毎回ギターを変えながら「愛なき世界」、「飴色の部屋」を続けて歌った。

MCで岸田は、「ええ、Zepp Tokyoにお集まりの皆様。改めましてくるりです。皆様にとっては初日かもしれませんが、我々にとってはしばらく続きましたツアーの最終日ということで、力を出しきり、演奏しようと思っております。いろんな曲をやっていこうと思います。よろしくお願いいたします」と述べ、盛大な拍手の中、次の「ハイウェイ」を曲紹介すると会場がどよめいた。その後、次の「ワンダーフォーゲル」からは少しギアが加速し、「Liberty&Gravity」が始まると、会場全体の空気はより自由にダイナミックに変化してさらに盛り上がりを見せた。

岸田のMCが続く。「いろんな方々に支えられて、20年以上やってきてますけど、アルバムが4年くらい出てないのは初めてちゃいます?次の曲は、くるり史上、激テク!曲もタイトルも激烈にテクニカルなんです。タイトルは、“東京オリンピック”。 そしてこの曲にはなんと歌がありません。その代わり、全員のテクニカルな演奏をお楽しみください」と語り、会場が大歓声と大拍手に包まれるなか、未発表曲の「東京オリンピック」が始まる。会場は息を飲んだように静まり返り、観客はそのめくるめく変化する超絶テクニカルな一曲をじっくりと聴いていた。と言うより、遅れまい、聴き逃すまいと、必死に付いていったという方が正しいかもしれない。5分余りの演奏が終わると鳴り止まない拍手が会場中に響いた。この後は「スラヴ」、今年発表した新曲「春を待つ」の2曲が続いた。

その後、岸田が「今春真っ盛りですけど、あと2回春が来たら東京オリンピックが始まるわけですよね。『東京オリンピック』、『スラブ』、『春を待つ』と言う新曲を3曲続けて聴いていただきました。このへんで新曲やめておくのがまぁ普通ですわ。でも、くるりは4年間新曲を作り続けていたので、もうちょっと新曲をやらせていただいてもよろしいでしょうか?」と話し、 新曲「忘れないように」と「ハイネケン」を歌った。そしてメンバー紹介の後、グッズの紹介へ。その後、再び2001年の代表曲「ばらの花」から始まり、「loveless」、「虹」を歌い終えると会場からは大歓声が起きた。

「長らく続きましたこの『線』というツアーも今日で最終日を迎えることができまして、とても嬉しく思っております。本当にありがとうございました。またどこかでお会いしましょう。くるりでした」と岸田が最後に挨拶し、「ロックンロール」を歌い終えると、大きな拍手と歓声のなか、「ありがとう」と言い舞台から去った。

アンコールは、まず岸田、佐藤、ファンファンの3人だけが登場し、「ブレーメン」を披露。静まり返った会場で、まるで観客全員のエネルギーがその3人全てに注がれているかのような瞬間を度々感じるなか熱く音色を響かせた。終わるとしばらく会場の歓声と拍手が鳴り止まなかった。

岸田は「アンコールで呼んでいただいてありがとうございます。漏れに漏れた新曲をついでにやらせてください」と言って、新曲「ニュース」を始めた。そのあと、ジャジーなオシャレな雰囲気の中、岸田のトーク&ショータイム、そのリズムの延長で「琥珀色の街、上海蟹の朝」が始まった。

「最後に『その線は水平線』という曲をやって帰ります。みなさんまたお逢いしましょう」と言い、ラストソングとなる今年2月21日に発売した通算31枚目のニューシングル「その線は水平線」を歌い、最後メンバー全員が舞台前方に並び、礼をしてアンコールを締めくくった。

くるりの魅力とは一体なんだろう、と改めて考えていると、20周年の際、くるりにゆかりのある人達が、“わたしにとってのくるり”というテーマで一言ずつビデオコメントを寄せている映像を見つけた。彼らのくるりとは、「終わらない青春」「旅をする人たちにとって大切な、闇を照らす灯台」「発想も曲作りも、その活動も時に驚くほどユニークなバンド」「駅メロディー」「電車」「日常」「保水液」「靴」「にごり」と、感じ方も皆それぞれ。この会場に来ていた観客もそれぞれのくるりへの思いを抱いて、自分の20年間の人生を重ね合わせ、そしてこれからのくるりの向かうベクトルと自分の人生の未来を想像しながらじっくり聴いていたのだろうか。くるりというバンドを一言で表現するのは難しい。ジャンルも曲も幅広すぎて、奥深すぎて、簡単にカテゴライズしにくいうえ、まだ進化形で動き続けている止まることを知らないバンドなのだ。これからもファンに近くなったり、果てしなく遠くに行ってしまったりしながら、どこにいてもじわじわとその良さが伝わってくるのは間違いなく、相変わらず中毒性の強いバンドであることは揺るぎない事実だろう。今後のくるりとも並走していきたいと強く思ったライブだった。

Text: Kaya Takatsuna / Photo: Azusa Takada