夏木マリ主演映画「生きる街」が絶賛公開中。主題歌を歌うBRAHMAN、劇中音楽担当の榊いずみを迎え、公開記念イベント「LIVING NOTES ~映画『生きる街』 Showcase Live~」を開催【ライブレポート】
2018/03/11
東日本大震災から7年。今年も3月11日がやってきたが、被災した人々は今、どこで何を思い、どう生きているのだろか。その地を去る人、とどまる人、帰ってくる人が交錯する宮城県石巻市を舞台に、震災を経験した家族4人が未来を信じて生きる姿を描いた映画「生きる街」が、3月3日(土)より全国公開された。これは、被災者支援ライブを行うなど現在も継続的に復興を支援する夏木マリが約10年ぶりに映画主演を果たし、かつて同じ町に暮らしていた韓国人青年役を韓国のロックバンド「CNBLUE」のギター、ヴォーカル担当のイ・ジョンヒョンが演じたことでも話題のヒューマンドラマ。「捨てがたき人々」「木屋町DARUMA」「アーリーキャット」などでメガホンを取り、俳優としても活躍する榊英雄が監督を務めた。
主題歌はBRAHMANの「ナミノウタゲ」。ヴォーカルのTOSHI-LOWは夏木と斉藤ノヴが2009年に立ち上げ今年10周年を迎えた、途上国の子供たちを支援する活動「One of Loveプロジェクト」に参加するなど、以前から夏木と親交が深く、主題歌では作詞を手掛けている(コーラスにはハナレグミが参加)。そこで、公開直前の2月26日に、渋谷O-EASTにて公開記念イベント「LIVING NOTES ~映画「生きる街」 Showcase Live~」が開催され、劇中音楽を担当した榊いずみ、BRAHMAN 、夏木マリによる音楽ライブと監督を交えたトークショーが3時間にわたって繰り広げられた。
暗転の中、波の音だけが大きく響き渡る会場で、その音がフェードアウトしていくやいなや榊いずみのライブでイベントは始まった。芯のあるヴォーカルとギターで「Hello, Hello」を演奏し観客に挨拶すると、「HOME」、「バニラ」、「失格」を立て続けに披露。「この作品は、街に生きてる人に自然と聞こえてくる音がそのまま映画になってると思ったんだよね。今日はいい音といい映画を楽しんで帰ってください」と話すと、ラストに映画「捨てがたき人々」の主題歌「蜘蛛の糸」をしっとりと力強く歌い上げた。
ライブ終了後は、メインステージの横に設置されたサブステージで脚本・企画プロデュース・原案を手掛けた秋山命と監督・プロデューサーの榊英雄によるトークが始まった。そして本作で日本映画デビューを飾るイ・ジョンヒョンからのメッセージがスクリーンに映し出されると、客席から大きな黄色い歓声が上がる。「映画に参加しましたイ・ジョンヒョンです。BRAHMANさん、榊いずみさん、主演の夏木マリさん、素敵な歌声を楽しみにしたいと思います。そしてご来場の皆様、映画「生きる街」をよろしくお願いします!」と優しく語った大きなスクリーンの中のイ・ジョンヒョンに、観客からの温かい拍手が送られた。また、イ・ジョンヒョンの日本語があまりに上手すぎて、「もう少し下手に話してください」とお願いしたという撮影中のエピソードを榊監督が暴露し、来場したファンを喜ばせる一幕も。そして最後に「これからBRAHMANのライブが始まりますが、なんとなく最前線は戦場のようになるかと思います。体力に自信がない方、お足元が悪い方には注意喚起した上で、あとは自己責任でお願いします」と話して会場を笑いに包むと、程なくして地面から沸き起こるような歓声と共にブラフマンのライブが始まった。
一曲目は、寺山修司原作で菅田将暉とヤン・イクチュンが主演の映画「あゝ、荒野」(2017年)の主題歌「今夜」。続いて2月にリリースされたばかりのアルバム「梵唄 -bonbai-」から「AFTER-SENSATION」を演奏、その後、「賽の河原」「雷同」「CHERRIES WERE MADE FOR EATING」「BEYOND THE MOUNTAIN」「不倶戴天」をノンストップで歌いあげ、観客のテンションも絶好調に。会場のセンターゾーンはモッシュピットとなり、ダイブするファンが続出した。「ANSWER FOR…」ではTOSHI-LOWがフロアに降り立ち、観衆に囲まれながらその群衆の中心で一人一人を奮い立たせるように言葉を発していく。曲の最後では観客に持ち上げられて人々の上に立ったTOSHI-LOWが、静かにこう語り始めた。
「7年前くらいに読んだ本のことを思い出した。被災したマレーシアの奥地で暮らす先住民の下を訪れると、木が倒れて小さな男の子が亡くなったという。でも、お葬式が終わって半年、一年が経ったのに、家族や親戚が『今日はあの子が」って毎日話してくる。思い出すだけでも辛い出来事をなぜ俺たちに話し続けるんだろうと疑問に思っていたが、その理由が最後の日にようやくわかったって。村を離れる時、村人が全員で言ってきた。『私たちのことを忘れないで。そしてあの子のことも忘れないで』。その時彼らは気づいたわけさ。俺たちの国はそうじゃない。立派なお悔やみの言葉を言って立派な葬式をして、できるだけその子の話はしないで、“忘れていく”文化。だけどその先住民の文化では、覚えている人がいる限り、ずっと話のネタになる限り、その子の魂は死なない。その子の話しをしなくなった時に初めて死が訪れる、そういう“忘れない”文化がまだ地球には残ってるっていう話。そうだな、「ナミノウタゲ」がどうやって出来たかっていう話はしていこう。あの子を忘れないためにしていこう。忘れないためにそうしていくっていう文化もあるんだよ」と、主題歌「ナミノウタゲ」を作り始めたきっかけを淡々と話し始めた。
「ある日の朝かかってきた電話の向こうで「夢に息子が出てきたんだ」って石巻の漁師がわんわん泣いてる。「よかったじゃねえか。夢でも会えない人は沢山いるぜ」って俺は慰めた。「そうじゃねえ、そうじゃねえ。夢の中で息子が剣道の練習をしてる。俺が横で見てることに気づかないで一生懸命練習してるんだ。でもそう思った瞬間に俺の目の前にあいつは来たんだよ。そしたらなんて言ったと思う?“父ちゃん、死にたくなかった”って……」。俺は、その漁師にかける言葉はもはやなかった。ただただ一緒に泣くだけだった。それから考えた。一言かけるならあの漁師にあの波の向こうに行った息子に何を言えばいいんだろう」。直後に会場が大きな静寂に包まれたなかで「ナミノウタゲ」が始まる。歌い終わると、「たくさんの人にこの映画を見てもらいたいです。ありがとうございました」と述べたTOSHI-LOW をはじめBRAHMANに盛大な拍手と歓声が送られた。
再びサブステージでトークが始まると、脚本・企画プロデュース・原案を手掛ける秋山がこの映画を作るに至った経緯を「震災のボランティアに携わった山田事業所という運送会社が、どうしても僕らが見てきた思いを形にしたいと話すのを聞いて、被災した人たちの姿を残したいと思った。記憶って曖昧なもので、いい時も悪い時もあると思っていて、この映画を通してそういうところも含めて描けていたらいいなと思う」と説明した。
その後、主演の夏木マリが登壇すると、「TOSHI-LOWに主題歌をお願いしてよかった。本気で歌ってくれる人が最後にこの映画を締めくくって欲しいと思っていたので、今、ステージ袖で凄く嬉しく思っていました」と、「ナミノウタゲ」を絶賛した。映画に主演したことについては、「被災者じゃないのに演じて嘘っぽかったらどうしようって思って不安もあったけど、みんなが(震災を)忘れかけた頃に見てもらうっていうのは大切なことだと思ってやらせてもらった。私は妖怪とか普段人間ぽくない役が多いので(笑)、いつか等身大のおばちゃんを演じたいと思っていました。台本を読んだ時、この千恵子っていうおばちゃんが本の中で生きていたし、私自身がこの役を好きになれたので、できるかなと思った。 普段は顔パックをするけど、役作りで撮影中は2週間ほったらかしにしていたらいい感じにシワもできました(笑)」と話した。その後も撮影秘話がしばらく続き、TOSHI-LOWも登壇してトークに加わり、話は一層盛り上がりをみせる。さらに会場の客席にいた夏木の娘役で出演の佐津川愛美とライブを終えた榊いずみも参加し、映画についての深い話を繰り広げた。
そして、このイベントのラストを飾ったのは、今夜限りのスペシャルセッションだった。まずは夏木が「深夜高速」を榊いずみと共に披露。観客からのアンコールの声援には、「One of Loveプロジェクト」支援活動から生まれたユニット、and ROSEsの曲「紅のプロローグ」をBRAHMANのKOHKIをステージに呼んでアコースティックで演奏した。最後はTOSHI-LOWも加わり、「それはスポット・ライトではない」のカバーを2人で歌い上げ、3時間近く及んだイベントは盛大かつ温かい空気に包まれて幕を閉じた。
「この映画は本当に小さな小さな映画だけど、観てくれた人がいいって言ってくれる。映画を観て故郷のこと、家族のことを思い出してくれたらいいなと思います。 BRAHMANのファンはみんな正直だから説得力があるので、みんなの力を借りたい。一人ひとりが宣伝してもらえたら嬉しい。よろしくお願いします!」と夏木が観客に向けてお願いして舞台上から全員で集合撮影をしてイベントを締めくくった。
映画「生きる街」は本日より全国ロードショー。被災にあった人もそうでない人も、この映画を通してあの日の出来事に思いを馳せ、今年もやってくる3月11日を迎えて欲しいと思う。
Text: Kaya Takatsuna Photo: Atsuko Tanaka
「生きる街」3月3日より新宿武蔵野館、ユーロスペース、イオンシネマ石巻ほか全国順次ロードショー
監督:榊英雄 脚本:清水匡/秋山命 企画プロデュース・原案:秋山命 プロデューサー:榊英雄
配給:アークエンタテインメント/太秦
2018年/日本/カラー/シネマスコープ/5.1ch/124分
©2018「生きる街」製作委員会