アートフェア東京2018開幕!未来の国際的アート都市に向け、学生達が大活躍。アジアンアートアワード大賞も発表【レポート】

2018/03/10

左上から時計回りに:アートフェア 2018会場、アジアンアートアワード 2018大賞を受賞した小金沢健人と特別賞を受賞したAKI INOMATA、「スイッチルーム」に参加したアーティストとキュレータたち、「パンゲア・テクトニクス」キュレーターの黒沢聖覇

国内最大級の国際的なアート見本市「アートフェア東京2018」が東京国際フォーラムにて3月8日に盛大に幕を開けた。このフェアは、国内外の厳選されたギャラリーが出展し、古美術、工芸から、日本画、近代美術、現代アートに至るまで幅広いジャンルの作品が展示・販売される。また、歴史に紐づいた日本のアートを発信するだけでなく、東京のアートシーンやマーケットの“今”を伝える企画展示、関連するシンポジウムやパーティーを都内各所で開催し、アートファンやアート関係者のみならず、各国大使、行政関係者、経済界の主要な人々の情報交換・社交の場として多くの来場者が訪れることで知られるイベントでもある。

会場は、164軒のギャラリーが参加し、中国南宋や北宋時代の青磁、日本の平安時代の仏像、明治時代の七宝や薩摩焼など歴史あるものから、藤島武二や石本正、アンリ・マティスなどの近代美術、そして徐震(シュー・ジェン)の大きな彫刻やアメリカ人アーティスト・Jona Wood(ジョナ・ウッド)の大作などの現代アートをギャラリーごとに合計2000点以上展示しているギャラリーエリアのほか、 日本の大学院生が9カ国のアーティストの作品をキュレーションした「World Art Tokyoパンゲア・テクトニクスー地殻変動するアート・ものがたりの分岐点—」と日本を代表する美術系大学の学生達による「Future Artist Tokyo—スイッチルームー」の展示エリアや、アートカーMIRAIの展示などに分かれている。

開催に先立って、アート東京代表理事の来住尚彦より挨拶が行われた。「本日はご来場賜りまして誠にありがとうございます。今年は昨今のアジアのアート市場にならって、数も増えて、作品も大きくなりました。2020年の東京オリンピックパラリンピックが近づいていますが、スポーツだけでなく文化の祭典になるべく、我々アートフェア東京に何ができるかを考えています」と述べた。また国際交流の場としてWorld Art Tokyo、そして未来に向けてFuture Artist Tokyoを同時開催できたことを祝った。

アート東京代表理事の来住尚彦

「World Art Tokyoパンゲア・テクトニクスー地殻変動するアート・ものがたりの分岐点—」は、93カ国の大使館が後援し、9カ国の駐日大使が推薦する若手アーティストを招聘し、日本人の若手キュレーターがキュレーションした今後グローバルな活躍が期待されるアーティスト達の国際展だ。中国、コロンビア、コンゴ民主共和国、フランス、ハンガリー、イスラエル、イタリア、ナミビア、スイスからアーティストが参加し、東京藝術大学大学院でアートプロデュースを専攻する黒沢聖覇がキュレーターを務めた。

「パンゲア・テクトニクス」展会場入り口(上段左)、キュレーターの黒沢聖覇(上段右)、作品の数々(下段)

黒沢は、パンゲア・テクトニクスという造語を生み出し、それに基づいたテーマやテキスト作り、コーディネート等を担当。「2億5千年前かつて存在したといわれる「パンゲア」という超大陸の地質学的仮説と、現代の人間活動が地球の地質学的変化に影響を与えていくという新たな地質時代「人新世」という議論を参照に、それらを我々の文化・社会活動と直接リンクするメタファーとしてこの言葉を使いました。でも調べていくと、例えば、フランスの作家はまさに石が沈んでいくような作品を過去に作っているなど、今回のテーマと重なるものに既に向き合っていたのは興味深かった。環境問題などの世界の問題や、アートの流れ、各国の流れも維持しつつテーマに沿って作り上げるっていうのはとてもチャレンジングで貴重な機会だったし、展示を見たアーティスト達が喜んでくれたのは嬉しかった」と今回の展示を振り返った。今後については、「現代アートはわかりにくいところもあるかもしれないけど、生きている作家と一緒に仕事しながら、アーティスト自身が変化していく中で僕自身も成長していければ」と語った。

パンゲア・テクトニクスのブースと繋がるように展示されているのが、「スイッチルーム」だ。こちらは、東京藝術大学、筑波大学、女子美術大学、多摩美術大学、東京造形大学、武蔵野美術大学という日本を代表する6つの芸術系大学の学生キュレーター6名がチームになって12名のアーティストを選定して展示。未来に向かってアートの様々な可能性を探るものとして、東京藝術大学副学長、保科豊巳監修の元、今後の日本のアートを担う学生達で全てを作り上げた。

「スイッチルーム」に参加したアーティストとキュレーターたち(上段左)会場の模様(上段右)アーティストの加藤舞衣と菅原玄奨(下段)

キュレーションを統括した東京藝術大学の内海潤也は、「タイトルは、もともと渋谷の商業施設にあるトイレが世界一のトイレを目指して作られた、という事実から発想を得ました。日本の独特な芸術の教育環境の中で生まれてきた独特性、つまり“商業を目的としたスペースで中の商業を目的としないスペース=トイレ”というところに注目して、“多くのギャラリーが展示・販売するアート東京の中で、ユニークなものを紹介する部屋=スイッチルーム”が存在し、また学生のキュレーションがスイッチとなってそれぞれの学生のコンテクストを切って新たな回路で繋げたものとして捉えています」とスイッチルームというタイトルの背景を説明した。

「A MAN」のアーティストは東京造形大学の菅原玄奨。「現代人の若者の質感とか、中身のない感じを彫刻にしたいと思って作りました。東京生まれ東京育ちの僕は、都会にいるとすごい近くにいるのに大勢いるのに誰も知らないことが不思議だと思うことがある。表面的な部分だけが視覚的に入ってきて、中身を想像する余地を与えない違和感を無の象徴でもあるグレーを使って表現した。仕上がりは大満足です」と述べた。

「-21g petals」のアーティストは多摩美術大学の加藤舞衣。「21gとは、人が死んだ時に体から抜ける重さ。科学的には人の汗と言われているけれど、もしかしたら魂かもしれないと言われています。明日には無くなってしまうであろう道に落ちているものに儚い美しさを感じるので、そこから21gが抜ける瞬間を記録したい」と話した加藤は、道に落ちた花、空き箱、タバコの空き箱、スーパーの袋にスポットを当てて、リトグラフで紙に残すというシリーズを作り続けている。今後の日本を担っていく若手アーティスト達の活動も注目していきたい。

また、今回2回目を迎えたアジアンアートアワードの大賞発表も行われた。代表の来住の挨拶の後、アジアンアートアワードディレクター小澤慶介が趣旨と選考基準を説明。「作っている作品に同時代性があること、つまり、思い込みだけでなく、今の時代がどうなっているか何を作っているかを考えているかどうか 。そして、芸術表現の拡張性を追求していること、つまりオーソドックスなペインティングだけでなく、いろんなメディアをどんどん取り入れて表現しているか、メディアを自由に選んでいるか。そして空間を捉えられているか」。その後、総括として「芸術家は自己表現をするだけではなく、置かれた社会、環境、人間などとの関係をどう構築していくのかが問われた。社会を直接的に批判するのではなく、日常から見つめるマインドエコロジーの視点を感じさせる作品だった」と意見が出たことを話した。

大賞は小金沢健人、特別賞はAKI INOMATAが受賞。「今回は生体展示もあり、寺田倉庫さんをはじめ多くの方のサポートがあってできたと思う。ありがとうございました」と述べた。大賞の小金沢健人は「お集まりいただきありがとうございました。実は、僕の展示を見た来場者の方に「わがままな人ですよね」と言われてしまった。一つの空間を作るために別々に見えるような作品を展示しているので、ぜひ展示も見ていただきたい」と話した。

左上から時計回りに:アート東京代表理事の来住尚彦、アジアンアワード特別賞を受賞したAKI INOMATAと審査員の長谷川祐子、アジアンアワードのファイナリストたちと審査員たち、アジアンアワード大賞受賞した小金沢健人と審査委員の秋元雄史

その後寺田倉庫の中野善壽より挨拶が行われた。「熱気が集約された感じがして嬉しく思う。私は30年ほど台湾、香港などで国境なく暮らし、ずっとアジアを見てきましたが、これからはアジアがアートで一つに繋がって共通認識の元に価値を認めあってくれたらいいと思う。アジアンアートアワードがそのきっかけになってくれたら」と今後への期待を話した。

最後にギャラリーエリアに展示されているアーティストIchitaka Kamijiにも話を伺った。京都の六波羅蜜寺にある空也上人をモチーフに石膏を用いた自身の作品について、「白と一言で言っても塗るのか、樹脂に混ぜるのかで印象が全く変わるのですが、石膏はマットな質感なので、物腰の強さなどが出たと思う。少し照明が強いかなと思ったけど、逆にドラマチックに作品が映えるので結果的によかったです」と話した。

アーティストのIchitaka Kamijiと作品

アートフェア東京2018は今週末11日までの開催。是非足を運んで様々なアートに触れてみてはいかがだろうか。

Text: Kaya Takatsuna / Photo: Atsuko Tanaka

 

アートフェア東京2018 

期間:3月11日(日)まで

会場:東京国際フォーラム ホールE & ロビーギャラリー

住所:東京都千代田区丸の内3-5-1

チケット:1DAYパスポート前売券 3,000円/当日券 3,500円 (税込)

詳細はアートフェア東京2018 HPにて