「シェイプ・オブ・ウォーター」が本日3月1日より全国ロードショー。第74回ベネチア国際映画祭金獅子賞を受賞し、第90回アカデミー賞最多13部門にノミネート!【レポート】

2018/03/01

ファンタジー・ロマンスの傑作との呼び声が高い、ギレルモ・デル・トロ監督の最新作「シェイプ・オブ・ウォーター(The Shape of Water)」(20世紀フォックス映画配給)が2018年3月1日(木)より全国公開される。 これは、ひとりの孤独な女性と、水の中で生きる不思議な生物との“真実の愛”を描いた、切なくも愛おしい究極のラブストーリーである。

ギレルモ・デル・トロはカンヌ国際映画祭でパルム・ドールを受賞した「パンズ・ラビリンス」や「クリムゾン・ピーク」などを手がけたメキシコ出身の映画監督であり脚本家。本作ではユニークかつダークで美しいファンタジーをリアルに描き、第74回ベネチア国際映画祭において、最高賞の金獅子賞をメキシコ人監督として初めて受賞した。また日本時間の3月5日より発表されるアカデミー賞では、作品賞、監督賞(ギレルモ・デル・トロ)、主演女優賞(サリー・ホーキンス)、助演男優賞(リチャード・ジェンキンス)、助演女優賞(オクタヴィア・スペンサー)、脚本賞(ギレルモ・デル・トロ)、作曲賞、編集賞、衣装デザイン賞、美術賞、撮影賞、音響編集賞、録音賞の最多13部門にノミネートされている。

本作はキャスティングへの評価も高く、俳優陣の圧巻の演技も必見だ。主役イライザは、「ブルージャスミン」でオスカー助演女優賞にノミネートされたサリー・ホーキンスが演じ、彼女を支える優しい隣人には「扉をたたく人」のリチャード・ジェンキンス、イライザと恋に落ちる生き物にはダグ・ジョーンズを迎え、マイケル・シャノン、オクタヴィア・スペンサー、マイケル・スタールバーグなどの実力派俳優が脇を固めている。

左上から時計回りに:サリー・ホーキンスとリチャード・ジェンキンス、サリー・ホーキンスとオクタヴィア・スペンサー、マイケル・シャノンとマイケル・スタールバーグ、サリー・ホーキンスとダグ・ジョーンズ  Photo Courtesy of Fox Searchlight Pictures. © 2017 Twentieth Century Fox Film Corporation All Rights Reserved

先日、本作の日本公開に先駆け、親日家としても知られているギレルモ・デル・トロ監督の来日記者会見が都内で行われた。

「皆様、今日はお越しいただきましてありがとうございます。私の大好きな作品が、私の大好きな日本で公開されることがとても嬉しい。この作品は非常に美しいおとぎ話です。感情や愛が希薄になってきている今の時代だからこその作品だと思っているし、そういうものをこの映画からぜひ感じて欲しいです」という監督の挨拶から会見は始まり、司会者の質問に答える形で会見は進んでいった。

—1962年という時代背景を選んだ理由を聞かせてください。

設定を今にすると、なかなか人は耳を傾けてくれません。そこで、時代設定を変えておとぎ話にすれば伝わるのではないかと考えたんです。ところで「Make America Great Again!(アメリカをもう一度偉大にしよう!)」という言葉を連日よく聞きますが、この偉大な時代というのはまさに1962年のこと。1962年は世界大戦が終わり、皆が裕福で将来に対して希望を持っていた時代で、ケネディがホワイトハウスにいて、宇宙のレースがあって、人々は車や家、キッチンやテレビを買っていました。しかし一方で、人種差別や性差別がはびこり、冷戦時代でもあった。つまり、1962年はいまの時代と全く同じなんですね。さらに、この年にテレビがお茶の間に登場したことで映画が衰退しました。つまり映画が衰退した時代という点も今の時代と同じだったので、1962年にしたんです。衰退期に対しても、私の映画に対する愛を捧げたかった。

ギレルモ・デル・トロ監督

—それぞれのキャストを選んだ理由は?

サリー・ホーキンスの役どころは、30代後半で、私生活では性行為もし、一見バスの隣に座っているようなごく平凡な女性だけど、何か不思議な輝きを持っているという設定で書き下ろしています。だから香水のコマーシャルに出てくるような若い美女じゃない方が良かった。映画「サブマリン」で彼女を観たときに、人の言葉を聞くという行為が素晴らしいと思ったんです。誤解している人が多いけど、いい役者っていうのは、セリフをうまく話すことに長けているのではなく、相手のセリフをよく聞き、よく見る人のことを言うんですよ。彼女に初めて会った時に、「セリフは1箇所、あとは歌と踊りのナンバーが1曲だけある口のきけない役なんだ。そして半魚人に恋をするんだよ」って伝えました。そしたら彼女は一言「グレイト!」って言ったんです(笑)。彼女の役はパーフェクトでしたね。

サリー・ホーキンス  Photo Courtesy of Fox Searchlight Pictures. © 2017 Twentieth Century Fox Film Corporation All Rights Reserved

何しろキャスティングは目で決まります。オクタビア・スペンサー、マイケル・シャノン、サリー・ホーキンスも、みんな目が違う音楽を奏でています。マイケルは、一見とても怖いけどとても人間的だし、オクタビア・スペンサーはもの凄い人間らしさとユーモアとリアリティを出している。ダグ・ジョーンズは、世界的にも稀な俳優で、まるで文楽の素晴らしい俳優が人形を操るようにあのスーツを着こなしてくれました。

—水が出て来るシーンが多いですが、撮影は苦労されたのではないですか?

映画の冒頭とクロージングは実は一滴も水を使わずに「ドライ・フォー・ウェット」という古い演劇手法を使って撮影しました。まず部屋全体を煙で充満させ、俳優や小道具を操り人形みたいに全部ワイヤーで釣るんです。カメラはスローモーションで、送風機で風を送ってまるで水の中にいるかのように見せて、ビデオプロジェクターで水のエフェクトを投射します。それからリハーサルを行い、触れ合ったらそこから跳ね返ってなど俳優が水中での動きをイメージして練習します。ただ、バスルームのシーンだけは実際に水を使って撮影しました。今回、2つの手法を使いましたが、それぞれに大変な部分がありましたね。

サリー・ホーキンスとダグ・ジョーンズ  Photo Courtesy of Fox Searchlight Pictures. © 2017 Twentieth Century Fox Film Corporation All Rights Reserved

—監督はこの映画にどのような思いを込めていますか?

この映画は、ラブソングのようなイメージと音でシンフォニーを奏でているような作品にしたいと思いました。まるで運転中にラブソングがかかると、自分も気分良く歌い出してしまうような雰囲気と、ハリウッドの黄金期を思わせるクラシカルなイメージを両方感じて欲しかった。それでいてちょっとクレイジーな(笑)。

それから、先ほど話した私が愛を捧げたい映画っていうのは、決して「市民ケーン」や「雨に唄えば」のような巨匠の作った大作だけではないんです。私は人生で何度もどん底まで落ち込みましたが、そんな時はコメディやミュージカルが私を救ってくれたし、メキシコでよくいう「日曜シネマ」みたいなものに愛を感じています。そういう映画こそ観客と感情的に繋がれるんです。映画の中でも言葉を発せない2人が一番繋がれているように、エモーショナルに繋がるって言葉じゃないんですよね。

インタビューの後、気を良くしたのか、ギレルモ監督はマイクを持って席から立って優雅に歌い始め、会場は大盛り上がり。その後、「パシフィック・リム」(2013年)に出演した菊地凛子がお祝いに駆けつけた。花束を持って菊池が登場すると、「実はここ3、4年ずっと監督にお会いしたかったんです。この素晴らしい作品をきっかけに再会できてとても嬉しい」と話し、お互いに久々の再会を喜んだ。また、作品に対しては、「昨日観たのですが、まだ感動冷めやらないです。本当に美しい真実のラブストーリーですし、出演している役者さんたちがすごく力強くて美しかった。何度も観たいし、監督の愛情が細部にまで行き渡っているので、是非皆さんにも見て欲しい」と語った。

ギレルモ・デル・トロ監督と菊地凛子

来日してからしゃぶしゃぶなどの美味しい日本食を毎日堪能するあまり、ジャケットのボタンが閉まらなくなってしまったというギレルモ監督。最後に「メキシコの兄弟を助けるつもりで、ぜひ映画館へ足を運んでください」と話し、会場を温かい笑いに包んで会見は終了した。「シェイプ・オブ・ウォーター」は本日公開。そして今週末に迫ったアカデミー賞の発表もお楽しみに。

Text & Photo: Kaya Takatsuna

 

「シェイプ・オブ・ウォーター(THE SHAPE OF WATER)」3月1日全国ロードショー

監督・脚本・製作・原案:ギレルモ・デル・トロ

キャスト:サリー・ホーキンス、マイケル・シャノン、リチャード・ジェンキンス、ダグ・ジョーンズ、マイケル・スタールバーグ 、オクタヴィア・スペンサー

配給:20世紀フォックス映画