会田誠展「GROUND NO PLAN」が開催中!新しい都市のヴィジョンをアーティストが提唱する、大林財団のプロジェクト第一弾【レポート】

2018/02/16

2018年2月10日(土)から24日(土)までの期間、東京・表参道の青山クリスタルビルの特設会場では、会田誠展「GROUND NO PLAN」を開催している。これは、公益財団法人大林財団がスタートさせた新しい助成プログラム《都市のヴィジョン − Obayashi Foundation Research Program》の第一弾。豊かで自由な発想を持ち、都市のあり方に強い興味を持つアーティストが、建築系の都市計画とは異なる視点から都市の問題を考察し、新しい発想を提言するというものだ。第1回目のアーティストには、美少女、エロティック、グロテスク、戦争、暴力、政治などを扱い、現代の日本社会を鮮烈に批評しつづけるアーティストとして知られる会田誠が選出された。会田は今回の展示において、自身の考える未来の「都市」「国土」を、ドローイング、完成予想図、建築模型、絵画、インスタレーション、映像、テキストなど多様なメディアを用いて表現している。 HIGHFLYERSは展示会のプレス内覧会とレセプションに参加した。

会田誠展「GROUND NO PLAN」展、プレスツアーの様子(左上)と展示模様

レセプションではまず、公益財団法人大林財団・理事長、大林剛郎より挨拶が行われた。「都市は規模に関わらず日々変化をしているわけですが、良さと同時にそれなりの問題を常に抱えています。今までの悩みをより解決するために、何かもう少し尖った提案も見てみたいと思いました。そこで、日頃クリエイティブな活動をしているアーティストの方達に都市を考えていただこうと思い、今までも都市を見つめてきたアーティストを選考委員の方々に選んでいただきました。会田さんは尖った提案をされることで有名ですが、皆さんの期待に応えられるような提案になったのではないかと思っています。会田さんの提案が、これからの都市問題を解決する一助になればと思っています」と、財団の明確なコンセプトや問題意識、そしてアーティストへの期待を述べた。

大林財団・理事長、大林剛郎

アーティスト選考委員はアーツ前橋館長・住友文彦、インディペントキュレーター・飯田志保子、東京オペラシティアートギャラリーキュレーター・野村しのぶ、東京国立近代美術館主任研究員・保坂健二朗、東京都現代美術館学芸員・薮前知子の5名。レセプションでは代表して住友文彦が挨拶に立った。「都市を切り口にアーティストが何かを提案をするというのは、今すごくいいタイミングだと思いました。選考のプロセスでは、どういう風にアーティストにコミッションするのかを最初に議論し、東京でなくてもいいのでは?とか、ドキュメンテーションという形になるかもなど様々な意見が出ましたが、開催場所となった青山も再開発が多く行われているので、都心でアーティストが考えることにも意味があるという結論に行き着きました。1回目なので、できるだけアナーキーで構想力がある人を選びたく、僕自身、会田さんの新宿御苑の作品が大好きで、初めて観たときに震えるような感動があったこともあり、選考委員の全員一致で会田さんにお願いしました」と開催に至るまでの経緯を説明した。

アーツ前橋館長・住友文彦

次に会田誠の挨拶が続く。「僕はちょっとネガティブ気味のアーティストなので、東京がこうだったらいいなと理想を提案しているようなものはございません。それに僕は親が学者だった反動からか、リサーチが大嫌いでして、ものが調べられないんです。今回も都市のビジョンをリサーチすべきかどうか考えて、結局しないことに決めました。はっきり言って一つたりとも何も調べてないです。全て適当というか、すでに日常生活者として知っていたレベルでやっています」と話して来場者の笑いを誘い、その後会田による作品解説ツアーが始まった。

会田誠

展示は地下の2フロアに分かれ、それぞれが全く異なる空間を形成している。上のフロアである地下1階は、『新宿御苑大改造計画』や『「人」プロジェクト』(複製)など、過去に美術館等で展示したものなどが整然と並んでいるが、地下2階は対照的に、洞窟であり廃墟でありスラムであり、また隠れ家でもあるようなカオスでアナーキーな世界が広がっている。

今回展示されている作品をいくつか紹介しよう。まず、会場入り口にあるのは、『Shaking Obelisk』ジオラマ。「オべリスクをダンスさせたくなった直感的な作品。日本といえば、地震というイメージを避けるわけにはいかないが、メッセージや解決法をこの作品で示せているとは思っていない。ただ、地球の地震のないエリアの文明との差異を笑いを含みつつデフォルメして表現したもの」と本人自ら説明したように、地面に這いつくばった人たちがオべリスクと共にずっと大きく揺れているものだ。

『Shaking Obelisk』

その奥の個室には、『新宿御苑大改造計画』が展示されている。「9.11直後に制作した、子供ができて生活が変わった時期の第一弾のような作品。暇つぶしでセントラルパークをぶらぶら歩いている時に、東京にこんなところないな、このセントラルパークに勝つためにはどこをどうしたらいいんだ?って考えていたら、こんなものができました」と説明。別室に展示された『風の塔』改良案:「ちくわ女」は、東京湾にある人工島海底道路の通風孔外観デザインをちくわ女にするという計画の完成予想図。ちくわ女のオリジナルは「コージ苑」という漫画に登場するキャラクターだが、その作者である漫画家の相原コージもレセプションに来場し、お互いが作品にサインを書いた。

上段:『新宿御苑大改造計画』について説明をする会田と、その展示 下段:『風の塔』改良案:「ちくわ女」にサインする漫画家の相原コージと会田

地下2階へ続く階段の途中に展示されているのは、大学院修了時に制作した『火災縁雑草図』。炎をモチーフにした額縁の中には雑草が整然と描かれている。「23歳の頃から雑草のイメージが大好き。雑草という発想こそ東京を象徴している。田舎に行けば行くほど野草と混ざっているので、雑草が目立っているのはアスファルトに無理やり生えてくるような都会なんですね。これはアイロニーではなく、僕のまごごろなんです」と説明した。

大学院修了時に制作した『火災縁雑草図』

地下2階の空間は、個々の作品からの強烈なメッセージ性を感じるが、「単体としてだけでなく他とも呼応しあって、それぞれが響き合うことで作品が生きるような作りにしている」と話す。壁に描かれた廃墟では、漫画「アキラ」をベースに東京の崩壊や戦後日本の漠然としたイメージを表現したり、会場中央を占拠しているネクタイをした高層ビルを描いた帯状のペインティングでは、無個性で無機質な東京のサラリーマンとビルをシンクロさせたりしている。かと思えば、会田が「この展覧会に選ばれてもおかしくないアーティスト」と賞賛するアーティスト集団Chim↑Pom(チン↑ポム)の著書「都市は人なり-Sukurappu ando Birudoプロジェクト 全記録」をホ—ムレスから購入したというエロ雑誌の横に並べて販売し、その奥では替え歌を歌う会田自身の映像が流れている。会田は、「アーティストが社会的発言権があるというえこひいきはいいのか?という、答えのない自問自答が常にある」と言う。

上段左から時計回りに:地下2階の展示スペースで解説ツアーを行う会田と展示作品

“ボイス ボイス あんたの時代はよかった

アーティストがピカピカのサギでいられた

ボイス ボイス あんたの時代はよかった

アーティストがピカピカの導師(グル)でいられた”

これは、ドイツの芸術家、ヨーゼフ・ボイスとその時代に対する会田の複雑な思いが伝わってくる印象深い映像だった。映像の中で歌う本人の姿もそうだったように、会田は、ボイスを彷彿させるようなフィッシャーマン・ベストと帽子という風貌で会場に登場し、「実は今回の個展の裏テーマにヨーゼフ・ボイスがあります。僕は、現代美術をマルセル・デュシャン、アンディ・ウォーホルとボイスの三角形でできていて、その中に大体が存在すると考えている。今回は社会派というか「世のため、人のため」を考えたボイス依りの作品を作っています」とも話していた。

また、スラムやバラック的なごちゃごちゃしたところが好きと話す会田は、テーマに「セカンド・フロアリズム」を掲げ、2階建までの建物に住みましょうとユニークな提唱をしている。「これは、『快適なスラムってどう?』っていうところから始まった作品。海外に行っても、ごちゃごちゃした場所で人たちが工夫して暮らしているところを見ると一番ワクワクする。そこから言葉がたくさん出てきた」と言うように、会場壁には力強い言葉が重なるように並べられている。

会田の好きな時代は一体いつなのだろうか。最後に直接伺った。「勝手な夢想ですけど、明治になって西洋文明が入る前の後期江戸時代は、一つの理想のように思えますよね。セカンド・フロアリズムのような思想は、原始人みたいに暮らしたいわけじゃなくて、ある生活の便利さみたいなものは一定量欲しいんです。 それから僕の活動の根幹になっている時代は、親の世代の戦争時代や、自分が体験してきた高度経済成長からバブル崩壊というようなアップダウンが激しい頃だと思います」。

展示を振り返ると、会田の計り知れないエネルギーが溢れ出てくるように、インパクトのある作品の数々が鮮明に思い出される。この個展には、大都会の中心である青山にすでにしっかり根を張って会田誠ワールドが存在しており、この世界がこのまま果てしなく続いていく錯覚に陥るが、もったいないことにたった2週間だけの開催となっている。様々な視点から都市の現実や希望や絶望を捉えて問題提起した、会田の力が漲った壮大で大胆かつユーモアと笑いのある個展は24日(土)までなので今すぐ会場へ足を運ぼう。

Text: Kaya Takatsuna/Photo: Atsuko Tanaka

 

会田誠展『GROUND NO PLAN』

2018年2月10日(土)~2月24日(土)
会場:東京都 表参道 青山クリスタルビル 地下1階、地下2階(東京都港区北青山3-5-12)

時間:10:30~18:30(金曜は19:30まで、入場は閉館の30分前まで)
入場料:無料