六本木の街を舞台にした一夜限りのアートの饗宴「六本木アートナイト 2017」、今夜開催!メインプログラムのアーティスト、蜷川実花も登場 【レポート】

2017/09/30

2009年より始まり、今回8回目を迎える六本木の街を舞台にした一夜限りの「六本木アートナイト 2017」が、2017年9月30日(土)〜10月1日(日)の2日間開催される。今年のテーマは「未来ノマツリ」。国内外から気鋭のアーティストが集結し、六本木の特別な一夜を盛り上げる。

開催にあたり、28日には報道関係者向けのプレスプレビューが行われた。森美術館館長・六本木アートナイト実行委員長の南條史生は、「オリンピックを見据えて、未来に向けて頑張ろうという気持ちで『未来ノマツリ』という言葉にしました 。このイベントは街の中にアートを持ち込み、生活の中でアートを楽しむことが目的であり、六本木の中心で楽しみながら豊かさみたいなものを作っていく実験でもあります。東京がいかに文化的な街であるかを世界に発信し、文化、アートで盛り上がっていきたいと思っています」と挨拶した。

六本木アートナイト実行委員長の南條史生

テーマである「未来ノマツリ」に基づき、メインプログラム「Tokyo Followers 1 」を担当したのは蜷川実花。写真家として木村伊兵衛写真賞ほか数々の受賞経験を持ち、映画監督としては、「さくらん」(2007)、「ヘルタースケルター」(2012)などを手がけており、 2010年にはRIZZOLI NEW YORKから写真集を出版し、世界各国でも話題になった。また、2016年には台湾の現代美術館(MOCA Taipei)にて大規模な個展を開催したほか、2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会理事にも就任している。世代を超えて圧倒的な人気を誇る日本を代表するアーティストだ。

写真家の蜷川実花。自身が手がけたインスタレーション作品「Tokyo Followers 1」の前で

「Tokyo Followers 1 」は、六本木ヒルズ、東京ミッドタウン、国立新美術館をつなぐインスタレーション作品で、極彩色に彩られた東洋と西洋の様々なモチーフが混ざり合う万華鏡のような蜷川の世界観を3会場で展開している。フォトスポットとなる作品のなかで蜷川マジックにかかった観客(観る人)はいつしか発信者(創る人)となっていくもので、ヒルズアリーナの中心には幻想的な舞台が置かれ、その横には蓮の花や自動販売機が混沌と存在する。さらに隣には鮮やかな小さな部屋が3つ並んでいて、それぞれの部屋の色やインテリアから発する質感は、過去なのか、未来なのか、アジアなのか断定できないような、不思議な非日常の空間を作り上げている。

六本木ヒルズアリーナに設置された「Tokyo Followers 1」のインスタレーション作品

蜷川はメインプログラムについて、「ずっとアートナイトに参加したいと思っていたので、今回メインアーティストで呼んでいただき、本当に嬉しい。今回お祭りがテーマなので、それに沿うようにウキウキワクワクできるようにしてあります。Tokyo Followers 1は、普段私が撮影で使っている小道具や、私の家にあるものをどんどん持ってきてセットして、私の作品の中に入れるようなコンセプトに作っています。私は写真家で立体物を作るアーティストではないので、 今回の作品はとても悩みました。よく考えたらこの作品、写真をほとんど使っていないんですよね。でもこれを撮ってもらうことによって作品として世に流通していく作品になったかなと思っています。ぜひ中に入って写真を撮って、どんどんSNSで発表していってください。そうすることで観る側と創る側がどんどん混在していって、今の面白い世の中とリンクしていくんじゃないかなと思ってます」と述べた。

挨拶する蜷川

自ら私物を使用したと述べたことについては、「肯定的にアジアがミックスされたもので、ちょっと未来感があるけど、混沌としたエネルギーがあるものを自分の中のルールのもとに集めました」と話すように、玄関にあったという大きな鳥かご、木馬、映画「さくらん」の時に使用した着物、以前父である蜷川幸雄の舞台で使っていて倉庫に眠っていた蓮の花や自動販売機など、サイズも目的も全く異なるさまざまな私物がセットに使われ、さらに蜷川独特の世界観をさらに濃厚なものに作り上げている。「中にはヤフオクで落としたものもありますよ」と裏話も。

インスタレーションに使用された様々なもの。玄関にあったという大きな鳥かご(左上)、蜷川幸雄の舞台で使っていて倉庫に眠っていた蓮の花や自動販売機(上段中)など

また、子供達にはこの作品からどのようなことを感じて欲しいかという問いについては、「もちろん管理上仕方のないことですが、通常の美術館の展示は「さわらないでください」オーラがいっぱい出ていてかっちりした空気がある。ここはそういうところとは違う場所なので、壊したり持って帰ったりしなければ、触っても大丈夫ですよ。とにかく思う存分楽しんでいただけたらいいな」と語った。

「最近、「蜷川さんて写真も撮るんだ」って立て続けに3人くらいの方に言われて、よく考えたら写真以外のことも随分してきたなと思いました。この作品は、これからは私の世界観を発表するということが大事になっていくのかもしれないと思い始めるきっかけを与えてくれた」と、今後の作品や自身の活動についても影響を与えた作品であることも明かしインタビューを締めくくった。

9月30日に行われるキックオフセレモニーのオープニングアクトでは蜷川が演出した花魁道中のスペシャルパフォーマンス「TOKYO道中」も行われる。

今回のアートナイトのプロジェクトの一つに「東南アジア・プロジェクト」というものがある。これは、東南アジアのアーティストやアジアにゆかりのある日本人アーティストを招聘し、さまざまな人々と協働しながら作品を制作・発表するプロジェクトで、ワークショップを通じて地域の歴史や文化資源のリサーチを実施することで文化活動活性化、地域の潜在コンテンツ顕在化などを目指していくもの。プレスプレビューでは、参加アーティストの中から、フィリピンのアンゴノ地方で活動するアーティスト集団 「Neo Angono Artists Collective(ネオ・アンゴノ・アーティスト・コレクティブ)」のパフォーマンスが行われた。

Neo Angono Artists Collective(ネオ・アンゴノ・アーティスト・コレクティブ)」によるパフォーマンス

Neo Angono Artists Collectiveとは、ビジュアルアーティスト、ミュージシャン、詩人、ライター、演劇、映画、批評家、リーサーチャーなどのプロフェッショナルの集団。インスタレーションやパフォーマンス、ワークショップの他に、代表作として巨人彫像(ヒガンテス)を用いたダイナミックな大規模パレードは現地で年に2回開催するなど、世の中の取り残されたコミュニティに目を向け、アートを用いて多様な試みを行う活動をしている。パフォーマンスでは、代表作である高さ約2.5〜3メートルの巨大彫刻「ヒガンテス」が登場し、動き回って会場を盛り上げた。六本木アートナイト当日は、24体のヒガンテスがアートナイトエリア内に点在する。

六本木ヒルズ ウエストウォーク2階に展示されているNeo Angono Artists Collectiveの作品

その他にもチェンマイと福岡を拠点に活動しているナウィン・ラワンチャイクンや、アート、デザイン、テクノロジー、空間など多種多様なスキルを持つメンバーによって結成されたクリエイティブユニット「CALAR.ink」のライブペインティングショーなどが披露された。今回の六本木アートナイトでは東南アジアのアーティストの大きな作品が目立つ。

六本木ウエストウォーク2階に展示されているナウィン・ラワンチャイクン「OKのまつり」絵画作品(原画)

また、東京ミッドタウンの芝生広場には、建築家の磯崎新と彫刻家のアニッシュ・カプーアが制作した移動式コンサートホール「ARK NOVA(アーク・ノヴァ)」が設置されている。アーク・ノヴァは、スイスの伝統的な音楽祭「ルツェルン・フェスティバル」が、東日本大震災の復興支援のために企画した、高さ18メートル、幅13メートル、奥行36メートルにおよぶ巨大な移動式コンサートホール。2013年から15年にかけて、松島、仙台、福島の3ヶ所で展示され、クラシック音楽を中心としたコンサートやワークショップを開催してきたが、東日本大震災を風化させないという思いのもと、今回初めて東京での展示が実現し、9月19日よりコンサートや映画上映会などを行なっている。六本木アートナイトでは、アーク・ノヴァの内部を公開している。

東京ミッドタウンの芝生広場に設置された、移動式コンサートホール「ARK NOVA」

近隣のショップやレストランとも連動しており、アートナイトにちなんだ魅力的な限定商品やメニューを提供したり、営業時間を延長したりするカフェやレストランも多く、多彩なアート作品で六本木の街を埋め尽くし、多くの人たちと夢のような特別な時間を共にする「六本木アートナイト 2017」 。2日限りのアートの祭典に是非足を運んで触れて感じて、五感で体験しよう。

 

Text: Kaya Takatsuna / Photo: Atsuko Tanaka(*一部オフィシャル写真使用)