これは、お得な体験!浦沢直樹、児玉裕一、渋谷慶一郎など16人のクリエイターと参加者で金沢の温泉宿で朝まで呑みトーク【レポート/前編】

2017/02/14

2017年1月27日と28日に、最新テクノロジーによって映像とクリエイティブを進化させていく未来型のプロジェクト「eAT 2017 in KANAZAWA」が開催された。両日で述べ613名が参加し、夜塾では今年もそうそうたるクリエイターと一般参加者167人が集結し、酒を呑みながら、深夜までデジタルやテクノロジー、コンテンツについて自由に語らい議論した。

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■エレクトリックとアートのプロジェクト。「eAT 2017 in KANAZAWA」とは

eATとは、electronic Art Talentの頭文字であり、石川県金沢市が1997年にスタートさせ、今回で21回目の開催となる。昨年から映像ビジネスの大手である東北新社がサポートしている。

この分野で活躍した人物に対する表彰式や、クリエイターが登壇しテーマに沿ってプレゼンをする「スーパートーク」、さらにクリエイターと参加者が温泉旅館で酒を呑みながら語りつくす「夜塾」(よじゅく)等のプログラムで構成される。

毎年、この企画のプロデューサーは変わるのだが、今回はCMなどを手掛けるコピーライターの小西利行を迎えた。テーマは「会いにキテレツ。見にキテレツ。」とし、浦沢直樹、児玉裕一、渋谷慶一郎などそうそうたるクリエイター16人が、面白いものが生まれた瞬間や視点、考え方などについて披露した。

eATの醍醐味はスーパートークの後に行われる夜塾にある。会場の旅館「かなや」(湯涌町)で温泉を楽しみ、豪華な食事をした後は大広間へ移動。登壇した16人のクリエイターと参加者達は、深夜、人によっては朝まで膝を交えながら、質疑し会話を楽しんだ。酒も提供されてのことなので、本音がこぼれるどころの話ではない。笑い声が遅くまで金沢の夜に鳴り響いていた。料金はスーパートークと夜塾のセットで25,000円(単品・学割あり)と大特価と言える。

 

■「スーパートーク」で6つの「キテレツ」について語る

スーパートークはクリエイター16人が6つのコーナーに分かれて登壇し、今年のテーマ「会いにキテレツ。見にキテレツ。」について語った。

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実行委員長の中島信也

まずは実行委員長の中島信也が「AIなど取り沙汰されているけれども、テクノロジーを使ったりしながら、人間が感動を作ることが一番大事であると思う。今日は、是非このプロジェクトを通して、人と逢瀬して欲しい。スマホとは違った生で得る情報を心を開いて空気感を味わい、心を動かして行って欲しいと思います」と開会の挨拶をする。近い将来、人と人工知能の立場が逆転するシンギュラリティを迎えるにあたって、人間が主導であるという大切なメッセージであった。

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プロデューサーの小西利行

続いて、本プロジェクトのプロデューサー、小西利行が「登壇する方々に、今年のテーマである“キテレツ”な発想をどんなタイミングでするのかを語ってもらう。ちなみに僕は「○○○」以上に強い言葉はないのか、というのがキテレツの基準となっている」とスピーチ。大便を意味する3文字がステージ後方の画面に映し出された瞬間、会場から笑い声が上がった。市が運営するイベントではあるが仰々しくなく、フレンドリーに未来を考えられる機会なのだろうと、その兆しが感じられた。

 

①「ビジネスとキテレツアート&コトバ」 宮田人司・孫泰蔵・菊川裕也・北出斎太郎

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左/連続起業家:孫泰蔵、右/起業家:宮田人司

最初のプログラムは、まず、東京から金沢に移住した起業家でクリエイターの宮田人司が今回21回目となる「eAT 2017 in KANAZAWA」にちなみ、21にまつわる雑学をプレゼン。「自分が企業したのは21歳の時だった」「瓶の王冠のギザギザは21個」など、軽妙にプレゼンし、会場が和やかな雰囲気となった。

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連続起業家の孫泰蔵

次に日本の連続起業家(シリアル・アントレプレナー)の孫泰蔵がスピーチし、まさにキテレツなことが世の中ですでに起こり始めていることを感じさせた。以下、発言を要約する。

過去20年、IT技術はものすごく進化したが、この先の20年はもっと進化するだろう。キテレツがテーマということで、2つの事例を紹介する。1つ目は「ファンダー・ビーム」という株式市場を根本から変える様な仕組みを作っているリストニアの会社について。通常の株式市場では、100万トランザクションを同時に処理するために数100億円のシステム開発コストと運用コストがかかるが、このファンダー・ビームはブロックチェーンを活用しているので、サーバーがなくユーザーのPCをうまく使って処理をし、仮想通貨が使われる。したがって、運営コストがほぼ掛かっておらず、ユーザーが儲かった分の1%だけが手数料となる仕組みとなっている。上場という概念やベンチャーキャピタル、証券会社、エンジェルの役割が無となるぐらいの破壊的な金融システムである。

次に「ハイパーループ」という会社について。リニアモーターカーよりも1/4のコストで制作され、真空に近い状態で、空気抵抗がないので、リニアモーターカーよりも速く移動することの出来るシステムがハイパーループである。ドバイでは実際に建設されることが決定している。オープンソース・コミュニティで運営しているので、このシステムは誰かの所有物ではなく、800名程が関わっているが全員が自分の仕事と兼務である。自発的に自分の持つ技術やアイディアを提供しているので、給料は支払われず、その代りストックオプションのみが提供されている。

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アラン・ケイの言葉

これからの時代は、「それ実現したら最高じゃん」と、共感を集めて形にしていく時代。よく取材などで、「未来はどうなるんでしょうか?」と聞かれるが、予測は出来ないと答えている。ただアラン・ケイが「未来は予測するものではなく、発明するものである」と語っており、それが答えであると思っている。どういう社会にしていきたいのか、そういう未来になる様に発明すれば良いということである。そして、そのためには普通じゃないやり方や発想が必要であり、キテレツな発想がその最初のきっかけを作り出すのだと思う。

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Singularの北出斎太郎

続いて、2016年に金沢へ移住し、楽器ブランド「Singular」を立ち上げた北出斎太郎のスピーチ。

Singularは、現代のテクノロジーと工芸技術を組み合わせた楽器の開発や製作を行っており、杉の木を圧縮した木材を使用し、まっすぐの木目が印象的な製品を制作している。その成り立ちから工程を説明した。

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小西利行が寄せたSingularのコピー

最後に本プロジェクトのプロデューサーであり、コピーライターの小西利行がSingularに寄せたコピーを読み上げて締めくくった。小西は、木目に刻まれた長年の木の記憶と手にする人との時が重なり合うことを詩的に表現した。

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no new folk studioの菊川裕也

1つ目のプログラムの最後は、「表現のためのIoT」をキーワードに新製品を提案している株式会社no new folk studio 代表取締役の菊川裕也のスピーチ。

菊川は、光る靴・スマートフットウェア「Orphe」が生み出された経緯をプレゼンした。自身の興味をビジネスにしていくまでの流れが非常にスムースでパワフルに感じた。以下、要約する。

学生時代にバンドを経験したが、作品をリリースするもビジネスとして成り立つことはなかった。大学院へ行き、芸術工学でプログラミングと電子工作を学ぶ研究室に入り、音楽とプロダクトを掛け合せた楽器を作ろうと思った。サントリーの響のCMにて、センサーで音が鳴るグラスを提供。また、マイクロアドと富士山の麓で25機のドローンを飛ばし、花火の音を鳴らす表現などをした。「音と光りと動き」が自身のコンセプトとなった。

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Orphe

サントリーのグラスの時も同様で、日常で使われるものを楽器にすれば、音楽に溢れた生活が送ることが出来ることに着目。全人類が使うだろうプロダクトとして、靴を楽器にしようと思い至った。Orpheはスマホと連携していて、音や足の動きに合わせて光る世界初のLEDスマートウェアだ。その後、作品が賞を得るなどして、スタートアップの支援をもらい、プロトタイピングし、クラウドファウンディングが成功。その後、TOYOTAヴィッツのCMやAKB48のステージで使用されたり、21世紀美術館に展示されたりした。2016年9月に発売開始し、初回ロット分は売り切れた。

 

②「東京とキテレツ」 菅野薫・児玉裕一

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左/映像ディレクター:児玉裕一、右/電通:菅野薫

2つ目のプログラムには電通クリエイティブ・ディレクターの菅野薫と映像ディレクターの児玉裕一が登壇し、「東京とキテレツ」についてトークを展開。主に2人が制作した作品を披露。終始笑いに包まれたプログラムとなったが、残念ながら、ほとんどの内容を自粛しなければならない程、際どい話ばかりとなった。

昨年、菅野が呑み会用のコンテンツとして、人工知能を活用したカラオケの替え歌のプログラムを徳井直生(後のプログラムで登壇)と共に制作。最初に、カラオケの歌詞と映像が何の関連性もなく、ちぐはぐとしていることに着目。映し出されるカラオケの映像を人工知能で解析し、高速で言語に置き換え、元の歌詞の文字数に合わせたりした替え歌の歌詞が画面に映し出されるというもの。元の楽曲の歌詞とは全く違うが映像とはシンクロしており、なぜかそれが詩的に感じられるものが披露され、会場はざわめきから爆笑へと誘われた。

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カラオケの映像に合わせて替え歌の歌詞を掲出

菅野薫、児玉裕一が初めて一緒にした仕事は、小西利行、森本千絵も携わったというSONY の企業広告「make.believe」であった。その後、2014年に国立競技場が終了するセレモニーで1回だけ流れたCMを制作。この時の映像はリオ五輪に一部引用されている。2人の最新の仕事は、2016年の大晦日に史上初めてスクランブル交差点を歩行者天国にした際に流したマナーCM。このCMがシュールでとにかく面白く、会場は爆笑しっ放しであった。

2人の会話に多く出てきて印象的な言葉が、「めちゃくちゃ怒られた」ということである。制限を受けず、まずは面白いことを最大に発想するので、最初に打診するタイミングでは、レギュレーションを侵してしまっているケースが多い様だ。そして、2人が関わったリオ五輪のフラッグハンドオーバーセレモニーの映像を披露。この後の裏話がとにかく面白かったのだが、かなり自粛せざるを得ない。会場には広告やコンテンツに携わる登壇者が多く、ドラえもんとマリオが同時出演したことに「同人誌じゃないんだから(笑)」と、驚愕したという感想も。それを受け、裏話が展開される。実は、ドラえもんが出したドカンは、マリオのドカンではなく、ドラえもんの秘密道具“RIO MADE DOKAN”だったとのこと。権利を整理した上でのアイディアであった。

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児玉裕一のカオスなデスクトップ

話題は、児玉裕一のパソコンのデスクトップのカオスさに移り、100以上あるだろうファイルが重なりあっている様子がステージ後方に映し出されると、会場からはどよめきの声が。そこから、順番におもしろ画像が紹介され、会場はまたもや大爆笑。面白いもので埋め尽くされたデスクトップは“キテレツ”の源なのだろう。また、携わった最新のMV作品のトラックだけを全く別のアイドルのものに差し替えて編集し直した、絶対、世に出ない自身の遊びのためだけの映像作品も会場限定で公開。間違いなく面白さというか、ノリ優先で作った「絶対に怒られるヤツ」である。

 

③「漫画とキテレツアート&コトバ」 倉本美津留・浦沢直樹

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左/放送作家:倉本美津留、右/漫画家:浦沢直樹

昼休みを挟み、3つ目のプログラムは放送作家の倉本美津留と漫画家の浦沢直樹による「漫画とキテレツアート&コトバ」 についてトーク。

2人は、NHKで放送されている「漫勉」の放送作家と出演者という間柄である。「漫勉」は浦沢直樹が他の漫画家の制作現場を見たい・見せたいという思いから発案された企画である。浦沢は、漫画家というのはどうも理解されていないと感じていた。なので、ゼロから漫画というものを説明するのではなく、いきなり10から説明をスタートする様な素人を相手にしない、本当の漫画家の現場を伝える番組をやりたいと考えた訳だ。好評を得て、現在はシーズン3が完結し、次が待たれる状況である。番組では、ペンの走るシャシャッという音を拾うのが醍醐味なのだが、この日、浦沢はまさにそれを再現させる。倉本と会話をしながら、バカボン、ゴルゴ13、花形満などをあっという間に描き終える。観客は白い紙が埋まっていく姿を、まるで魔法でも見るかの様に、そのペン先に見とれていた。

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会場で「漫勉」を再現

8年程前、倉本が浦沢とまだ知り合う以前のこと、倉本は同時多発的に色んな人から「20世紀少年」を読んだ方が良いと薦められたが、面白いものは自分で考えるものであって、そういったものに頼ったり影響されたりすることはないと思っていた。30年近く前から漫画自体を読んでいなかったので、当然、読むには至っていなかったのだが、ある日、友人が全巻買い揃えて置いて行った「20世紀少年」の1ページ目をめくってみると、まるで自分のことを描いているかの様に、単語も物語も展開されているではないか。登場人物の“トモダチ”がおかしくなっていく様まで、自分と同じ体験をしていて、異様な気分になっていた。そんな折、人づてに「浦沢さんが倉本さんに逢いたいと言ってる」と聞き、「気色わる!何それ!」と、逢うべき人とのタイミングに不思議な気分になったと言う。

そして2人は出逢い、浦沢の“漫画家のパフォーマンスを見せたい”という思いを倉本が企画書にして、最初にNHKに持ち込んだ。しかしながら断られ、それでもしつこく他局へ持ち込むなどしたが、結局まとまることはなかった。その後、企画書を2年程持ち歩き、とある別の打ち合わせでNHKを訪れている時に、別の担当者に「漫勉」の企画書を見せたところ、「えっ。これ、浦沢さんはOK出してるんですか?すぐに検討します」となったという。倉本は、「良いと思ったものは、すぐに諦めず、しつこくトライすることが重要」だと説く。

「漫勉」の大変さは、ブッキングにある。そもそも顔出ししていない人もいれば、さらに漫画を描いている最中をカメラに撮られるなんていうのは、相当なハードルがある。ざっと7~8割は断られている状況だという。それでも、これまで大御所も含め多くの漫画家から承諾を得られているのは、浦沢直樹という実績のある漫画家からのオファーであることと、あとは人柄なのではないかと思われる。

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倉本美津留と浦沢直樹の歌声

最後に、倉本美津留がNHK「みんなのうた」のために提供した曲「月」を倉本が弾き語りし、その歌に合わせ、即興で浦沢が絵を描くと言うパフォーマンスを見せた。歌を聴きながら描くので、ゴールがどこに向かっているのか分からないまま描くのだが、朝とも夜とも思える様な想像力を掻き立てられる1枚に仕上がった。そして、最後の最後に倉本と浦沢が「漫勉」のテーマソングを歌い、大きな拍手を以て、3つ目のプログラムが終了した。

 

本レポートの【後編】は後日掲載します。

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これは、お得な体験!浦沢直樹、児玉裕一、渋谷慶一郎など16人のクリエイターと参加者が金沢の温泉宿で朝まで呑みトーク!【レポート/後編】

④「音楽とキテレツアート&コトバ」 川井憲次・土佐信道

⑤「若手アーティストとキテレツアート&コトバ」 山口裕美・徳井直生・高橋裕士・田崎佑樹

⑥ 「わたしのキテレツランキング」 秋山具義・渋谷慶一郎

夜塾について

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Text: HAMAO