新世代のクリエイティブ集団「ブロックハンプトン」初来日。コアな熱狂的ファンで埋め尽くされた単独公演【ライブレポート】

2019/09/28

アメリカンミュージックシーンにおいては、ヒップホップがメインストリームになって久しい昨今。一昔前なら、One Directionなどのボーイズグループと称された国民的アイドルはポップスやポップロックを歌っていたが、今やそのポジションにも新世代のヒップホップ集団がのし上がろうとしている。彼らの名前はBROCKHAMPTON(ブロックハンプトン)。2年ほど前から注目を集め始め、今や全米チャート1位を獲得したり、全米ツアーはソールドアウトが続いたりして音楽業界を大きくざわつかせているのだ。

メンバーは、Kevin Abstractを中心に、Matt Champion、Merlyn Wood、Dom McLennon、Joba、Bearface、Romil Hemnani、Jabari Manwa、Kiko Merley、Henock “HK” Sileshi、Robert “Roberto” Ontenient、Jon Nunes、Ashlan Greyの13人。Kevinがテキサスの高校時代に仲間と結成したバンドが原型だが、KANYE TO THEというカニエ・ウエストのファンサイトの掲示板で仲間を募ってメンバーを増やしていった。2015年にブロックハンプトンを結成。メンバーは、ラッパーやDJだけでなく、ディレクター、フォトグラファー、エンジニア、プロデューサー、デザイナーなどが含まれているのが特徴で、音楽制作だけでなく、MV制作、ツアーのPRやグッズなどをセルフプロデュースして、自分たちの手でブロックハンプトンをブランド化するという手腕も発揮している。

活動開始してわずか2年しか経っていない2017年に3部作となったアルバム「Saturation(サチュレーション)」を立て続けにリリースして大きな注目を集め、「Saturation III」では全米アルバム・チャート15位を獲得。信頼度の厚い音楽系ウェブメディア Pitchfork は、”ウエスト・コーストのウータン・クラン”と絶賛して高く評価した。 2018年3月にRCA Recordsと1500万ドル(約16億円)とも言われる大型メジャー契約を果たし、その後も2018年4月に世界最大の音楽フェスティバル「Coachella 2018(コーチェラ)」に出演するなどして知名度をあげ、2018年9月にリリースしたアルバム「Iridescence(イリデセンス)」、全米アルバム・チャート 1 位になった。今年はニューアルバム「Ginger(ジンジャー)」をリリース。今までの彼らとは一味も二味も違った、新たな魅力が詰まった作品が収録されている。

日本でもジワジワと人気が出始めた彼らは今年、サマソニ出演が決定し、初来日を果たした。また、サマソニ直前には“サマーソニックエキストラ”と称した単独ライブを新木場STUDIO COASTで行ない、ファンを楽しませた。HIGHFLYERSは単独ライブを拝見し、80分弱で18曲を歌い上げたブロックハンプトンの世界観を存分に満喫することができた。

上手と下手にそれぞれ手を模したオブジェが巨大なグローブのように置かれたステージ。中央は階段状になっており、その奥に大きなスクリーンがある。待ちに待った観客が声援を送る中、上手からシルバーの宇宙服のようなツナギのスーツに身を包んだBearfaceが登場し、ニューアルバム「Ginger」に収録された「I Been Born Again」のラップが始まる。同時に、スクリーンに青空と雲の大群が映し出される。Kevin、 Dom、 Joba、Merlyn、Mattとソロのたびに、メンバーが続けて1人ずつステージ上手から登場し特徴あるラップを披露するたび、フロアからは大歓声が上がる。腰を屈めて囁くようにラップしたり、突然ステージに飛び出してきたり、登場の仕方を見ているだけでもメンバーそれぞれの個性が際立っている。変幻自在のビートと迫力のあるラップを途切れることなく披露した。

その後も挨拶もほどほどに、アルバム「Saturation」より「GOLD」、「SaturationⅡ」より「SWAMP」、「SaturationⅢ」より「ZIPPER」と次から次へと曲を披露していく。途中、フロアを二分し、カウントダウンとともに一斉にモッシュを何度も促し、狂ったような盛り上がりをみせる会場。新曲シングル「BOY BYE」に続いて、「Saturation II」から「QUEER」、「GUMMY」、コール&レスポンスで盛り上げた「STAR」など、Saturationシリーズから数曲を披露した後は、後半にかけて「NEW ORLEANS」、「JOUVERT」、「DISTRICT」、「SWEET」、「HONEY」と、全米アルバム・チャート 1 位を記録した「iridescence」収録曲が続いた。ツナギのコスチュームが暑くなったのか、メンバーも気がつくと衣装の上半身だけ脱いで白いTシャツ1枚になっている。

「BLEACH」になる頃は、背景のスクリーンは美しい夕焼けのような赤みを増した色に変化し、ライブも終盤へ。観客が曲をほぼ大合唱できていたのは驚きだった。会場に来ていたのはかなりのコアなファンばかりなのは、曲の認知度やコール&レスポンスの完璧さから容易に想像がつく。そして新曲の「IF YOU PRAY RIGHT」へ。曲ごとにパフォーマンスをし尽くしたように自分たちのパートが終わるとステージの階段に座り込んでいた姿が印象的だったが、驚異的なラップやビートは最後まで衰えることなく、むしろ凄まじさを増していったようにも感じた。ステージからメンバーが去ると、会場には自然発生的に“BROCKHAMPTON! BROCKHAMPTON!”と叫ぶ声が響き渡る。

程なくしてアンコールで再びステージに登場したメンバーは、「1998 TRUMAN」など、3曲を歌った。フロアのモッシュもより激しさを増し、2曲目の「1999 WILDFIRE」ではラララの大合唱が心地良く響きわたる。そして、「これが最後の曲だ!みんなのエネルギーが必要だぜ!」と言い、会場全体に広がる真っ赤なライトと立ち昇るスモークの中、ラストに「BOOGIE」を熱唱。最高に激しい熱狂的な盛り上がりの一体感の中、単独公演の幕は下りた。

 

Text: Kaya Takatsuna